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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
クローフィ・ルリジオン

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フラッシュバック

 とことことユリがヴェルディーゼの後ろをついて歩く。


「草原多いですね」

「見晴らしがいいからね。ユリも迷いづらいだろうし、なるべく草原を歩くようにしてるんだけど……嫌だった?」

「えっ、あっ、いえいえいえ! ただの感想ですから! ぼやーっとそういえば草原いっぱい歩いてるなぁって思っただけですから!」


 ユリが慌てて弁明すると、ヴェルディーゼが楽しそうに笑った。

 そのまま正面に視線を向け、ヴェルディーゼが足を止める。


「主様? ……って……」

「襲われてるね」


 ヴェルディーゼの視線の先で、馬車が襲われていた。

 ユリがあわあわと手を彷徨わせ、ヴェルディーゼを見てから駆け出す。

 ヴェルディーゼはあまり気乗りしなさそうだったが、それでも見かけたのに放置するのはユリとしては耐えられない。

 とはいえ人とまともに戦えないユリである。

 走りつつ、若干涙目になってユリがヴェルディーゼに向かって言う。


「ごめんなさい主様! 私無理です!! 戦えなぁいぃ〜!」

「……努力くらいしたら……?」

「現在進行系で鎌を出そうとしてるんですができません、ふ、ふへっ……へへへっ……はは……」

「殴るのもできない? 武器じゃないなら体質が発動しないから、軽くとはいえ教えたよね」

「……あっ、護身術という名のガチガチの格闘術……!」


 ヴェルディーゼの言葉を受けてそれを思い出したユリがハッとして声を上げた。

 ユリは城で、鎌や魔法以外にも格闘術を教わっていたのである。

 ヴェルディーゼは護身術と言っていたが、明らかに護身では済まなそうな格闘術までユリは教わっている。


「大変です主様、拳に力が入りません。絶対にへなちょこパンチしか出ません」

「……もう着くから、下がっていようか」

「本当にごめんなさい、本当に……」


 ユリが本当に申し訳なさそうにそう口にし、襲撃されている馬車の方を見た。

 相手はただの盗賊のようだが、数が多く上手く逃げられないようだ。

 目を凝らせば、兎の耳の生えた人達が四人いる。

 夫婦と見られる男女と、その娘らしき二人。

 そして、その娘二人が、今にも盗賊に攫われそうになっていた。


「……っ」


 ユリの脳裏に、唐突に攫われたあの日がチラつく。

 攫われて、何も知らないのに、拷問されて――そんな苦痛が、彼女にも降り掛かってしまうのだろうかと。

 そんな思考をしたユリが、一気に飛び出す。

 身体強化の類すらできないユリではそこまでの速度は出ないが、それでも神である。

 その身体能力は、ヴェルディーゼがともに仕事を行うことを許可する程度にはある。

 少女二人、それぞれの位置は遠かったので、ヴェルディーゼが何とかしてくれると信じて近い方へとユリが手を伸ばす。

 ダンッ、と少女の目の前でユリが勢いを殺して立ち止まり、威嚇するように片手で大鎌を振るった。

 もう片方の手は守るように少女の前に真っ直ぐと伸ばされており、少女は突然のことに目を丸くする。


「……貴方様は……?」

「通りすがりです。怖いでしょうけど、もう少しだけ待っていてくださいね」

「……っ、それよりも、妹が……!」

「大丈夫です」


 敵に傷を付けることはなく、しかし近付かせないようしっかりと鎌で威嚇しながらユリがはっきりと告げた。

 直後、ヴェルディーゼがユリが守っている少女の妹らしい子に迫っていた盗賊を蹴り飛ばす。

 ヴェルディーゼは一度だけユリを一瞥し、小さく溜息を吐いた。

 そして、剣を使うことなく呆気なく盗賊を制圧した。

 ユリもそうだが、幼い子供だっているのでショッキングな場面を見せないために剣を使うのはやめたのだろう。

 かといって魔法を使えば目立つわ世界への影響があるわで面倒なので、格闘術のみで制圧することにしたらしい。

 まぁ、盗賊の顔面がボコボコになっていたり腕やら足やらがあらぬ方向に折れ曲がっていたりと、どちらにせよ子供にはショッキングな光景にはなっているのだが。

 ヴェルディーゼは制圧を終え、盗賊をどこからか取り出した縄で縛るとユリが守っていない方の少女へと近付いていく。


「……君。怪我はない?」

「ぇ……あ、あっ、は、はい! だいじょうぶ、ですっ……あ、あの! お兄さんっ……」

「そっか、良かった」


 少女は何やら話を続けようとしたが、構わずにヴェルディーゼがユリの方へと向かった。

 危うく攫われかけた幼い子供にそんな態度を取るのは酷ではあるが、それでもヴェルディーゼにとってはユリの方が大切。

 危険なところに唐突に飛び込んだのだから、ヴェルディーゼがユリのことを心配するのも当然のことであった。


「ユリ。もう、急に飛び出さないで」

「す、すみません……攫われた時のことを、思い出して……この子たちもあんな辛いことをされるんじゃないかって思ったら、つい……」

「……盗賊の仕業だからね。ユリの時より低俗なことをされてたかもしれない。まぁ、どちらにせよ耐え難い苦痛に晒されることは確かだろうから……うん。フラッシュバックして辛かっただろうに、良く飛び出したね。えらいえらい」

「えへぇ……その言葉だけで、頑張った甲斐があります」

「それはそれとして何も言わずに急に飛び出すのはやめて。……怪我は?」

「な、無いです。ごめんなさい……」

「……ん、それならいいけど。……威嚇だけとはいえ、ちゃんと鎌を使えたことも褒めてあげないとね」


 ヴェルディーゼがそう言って甘ったるく笑うので、ユリが顔を赤くした。

 それを、ユリが助けた少女の妹がジッと見つめる。


「……あの。お礼をさせていただけませんか?」


 二人がイチャイチャしていると、躊躇いがちに少女が声を掛けてきた。

 ユリが助けた方の少女である。

 その姿を見てユリはハッとし、慌ててその手を取る。


「け、怪我はないですか……!? 盗賊には何もされていませんか!?」

「わっ、だ、大丈夫です。少ないとはいえ、護衛もちゃんといますし……逃げられるほどの戦力ではなかったせいで、あのままでは危なかったかもしれませんが……」

「そ、そうですか……良かったぁ」

「……それで、あの……よろしければ、私達の屋敷に来ませんか? おもてなしいたします」


 少女がそう提案してくるので、ユリが少し驚きつつヴェルディーゼを見上げた。

 ヴェルディーゼは少し考えたあと、小さく首を横に振る。


「ごめんね。気持ちだけ受け取っておくよ。少し急いでるから……」

「そう、でしたか……わかりました。目的地はどちらですか? 場所にもよりますが、ある程度でしたら送りますよ。見たところ、徒歩で旅をなさっているのでしょう? 馬車なら楽ですし、速度だって言わずもがなです」

「……君一人で決めていいの? あそこの夫婦の子供だよね」

「父上も母上も、感謝したいと思っているはずです。食料などの問題もあるので、もし私達とは真逆の方向に行くのでしたら大した場所までは送れませんが……少しでも、お礼をさせてください」

「…………わかった。目的地は王都なんだけど……」

「あ……でしたら、私達の街を経由するといいですよ。食料もちょうど……少し余るかもしれませんが。……あ、でも、私達の街に行くのなら屋敷に泊まった方が安全ですね……」

「……主様、どうしてもお礼をしたいみたいですし……別にご厚意に甘えて屋敷にお邪魔させていただいてもいいのでは?」


 ユリがそう言って首を傾げると、ヴェルディーゼが渋々といった様子で頷いた。

 そして、二人は偶然助けた一家にお世話になることになるのだった。

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