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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
クローフィ・ルリジオン

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気付きと発狂

 うーん、とヴェルディーゼが手帳を眺めながら唸る。

 そして、小さな声でなるほどと呟いた。

 それをいつも通り眼福だなぁなんてことを思いながらユリがぼんやりと観察し、少ししてから近寄って手帳を覗き込みながら尋ねる。


「で、クロイレって誰ですか?」

「今の王だね。クロイレ・ルリジオン……かな」

「はえー……え!? 国王様狙われてるじゃないですか!? というか捕捉!? ……ん? 捕捉?」


 ユリが違和感に気付いて黙り込んだ。

 そして、少ししてからヴェルディーゼを見上げる。

 ヴェルディーゼは無言でユリに微笑みかけていた。


「……国王様って、城にいるはずですよね?」

「そうだね」

「謁見なんかもあるでしょうし……それなら、暗殺だって不可能ではないはずです。……なのになんで、捕捉って……それって、まるで……国王様の居場所が掴めていなかったみたい、ですよね」

「そうだねぇ」

「……もしかして、本物の国王様ってどこかに隠れてるのでは……?」


 首を傾げてユリが言うと、ヴェルディーゼが笑みを深めた。

 それを見たユリは、またヴェルディーゼ本人が嫌がるモードになっているなと溜息を吐く。

 そして、爪先立ちをして顔を近付けながら頬を両手で包み込んだ。


「主様〜?」

「……何……あ、……ああ……ごめん……」

「いつも思いますけど、一体なんなんですか。二重人格とか?」

「そういう感じじゃないね。過剰に冷静になってるというか、心が冷め切るというか……まぁ、ユリ以外には大体あんな感じだけどね。特に神には」

「ほぇー……理由とかあるんですか?」

「……あるけど、いいでしょ。ユリにそういう態度を取るつもりは――いや、取ってるけど……ほら、とりあえずこれ、持っていった方がいいでしょ。たぶんクラシロエスのものだし」

「……ですね。じゃ、行きましょうか」

「うん……先登っていいよ。万が一落ちても受け止めるから」

「私今スカートですけど」

「……ごめんそんなつもりはなかった。先行くね」


 そう言ってヴェルディーゼがさっさと上に登っていった。

 ユリはそれを追って地上に上がり、軽く体を伸ばす。

 中は少し埃っぽかったので、空気を美味しく感じてユリが深呼吸を繰り返す。


「ふー……はぁあっ、なんか疲れました。なんもしてないんですけどね……国王様、大丈夫なんでしょうか。というか、それで国って大丈夫なんですかね」

「影武者が実権を握ってる状態なんじゃない?」

「……それって、大丈夫なんでしょうか。あの、ほら……謀反というか……反逆? もしそういうことが起きちゃったら、影武者さんが代わりに表に出てるなら、本物が私が本物の国王ですとか言ったところで……あ、見た目が一緒なら判断のしようがないか」

「……まぁ、僕達が気にすることじゃないでしょ。ほら、行くよ」

「ふぁーい……」


 ユリがヴェルディーゼと手を繋ぎ、ぼんやりと歩いていく。

 やはり考えるのは、あの手帳のことである。

 〝最終目標クロイレ、捕捉〟

 最終目標とはどういうことか、もし国王が確保されてしまったらどうなるのか。

 もし影武者が国王を裏切ったら、クラシロエスは好機と見て動くはず、もしそうなったら。

 と、ユリの思考がぐるぐると回る。


「……そんなに気になるの?」


 優しい声が掛けられ、ユリがいつの間にか俯いていた顔を上げた。

 するとユリは苦笑いを零し、躊躇いがちに頷いた。


「はい。国王様のことも気になります。手紙を託されてる以上、どうしても接触することにはなるでしょうし……それに……もし、クラシロエスに国王様が捕まったら……この世界は……汚染は、どうなっちゃうのかなって」

「……クラシロエスのやってる浄化、覚えてる? クーレが話してたやつ」

「え? はい、覚えてますけど……」

「その浄化っていうのは、世界にとっての汚染。クラシロエスは、吸血鬼を生贄に世界を汚染してる。クーレは……なんだっけ、高貴な吸血鬼? っていうやつだって言ってたよね。たぶん、国王も同じ。……クーレも狙われてたってことは、それだけ汚染が進むはず」

「あー……あぁー……不味くないですか?」

「そうだね。……急いでるのはそれもあるかな、一応……」


 そう言ってヴェルディーゼが溜息を吐いた。

 相当面倒くさがっているのがわかったので、ユリがくすくすと微笑む。


「はぁ……のんびりしたいのにな……」

「主様ってそんなタイプでしたっけ。活動的ではないにしろ……」

「ユリの即席料理美味しいから……」

「思ったより嬉しい言葉が返ってきた!? ふへ、うへへへ……ありがとうございまぁす。今日もご飯、作りますからね! 絶対!」

「ふふ……ユリは可愛いね」

「んんんん直球……!? アーッ! 目が! 目がぁ! やめろぉっ、優しい視線は私に効く!」


 照れ隠しでユリは全力でネタに走った。

 そのまま発狂して逃走しようとするので、ヴェルディーゼがすかさず捕獲する。


「ピィーッ!」

「うわ笛みたいな声……どこから出してるの……ほら、行くよ」

「あわあわわわばばば」

「はいはい」


 ついに壊れたユリを引きずり、ヴェルディーゼが溜息を吐いた。

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