再びの襲撃とバンジージャンプとポンコツ
「ハァァアアッ、もうやだもー! クラシロエスめ!!」
「街の中で襲われなかっただけ良心的じゃないかな。……街にとってはだけど」
ユリが叫びながら、ヴェルディーゼが死んだ目をしながら草原を駆け抜ける。
後ろからは白ローブが追ってきていた。
「なんなんですか! そんなに私のこと攫いたいですか!」
「……ユリ、足遅い」
「主様辛辣すぎっ……アッ」
ヴェルディーゼに抱え上げられ、ユリがぽっと頬を染めた。
そのままぎゅっとユリを抱えつつ、ヴェルディーゼが振り向く。
「ユリ、目閉じててね」
言われるがままにユリが固く目を閉じると、鈍い音が近くで聞こえた。
何かが潰れるような音が、悲鳴が、命乞いが。
聞こえては、辺りが静かになっていく。
「もういいよ」
「今目開けたらものすっごくグロい惨状が広がってたりしません?」
「大丈夫、汚いものをユリの目には映させないから」
「……その内、ちゃんと鎌を使って……ひ、ひと……人を……こ、ここここここ殺せるようにも、な、ならないといけないのに……!?」
「凄まじい震え声だね。……でも、目玉とか転がってたから……あれは流石にいきなりは厳しいんじゃないかな」
「なんで過去形!? あと目玉!?」
「もう消したよ。大丈夫」
「あ、開けますからね! いいですか!? 目開けますからっ……えい!」
ユリが恐る恐る目を開ければ、そこには一方的な虐殺の痕跡など微塵も残っていなかった。
それにホッと息を吐きつつ、ユリがヴェルディーゼを見上げる。
「……また襲われましたね」
「うーん……こっち側に隠れ家でもあるのかもしれないね。はぁ……少なくとも、近くにそれらしい気配はないけど」
「襲撃も一先ずはなさそうですか?」
「うん、大丈夫そうだよ」
「よし勝った。勝ってないけど。……ところで主様、今って王都に向かってるんですよね。どれくらいかかるんですか?」
「……徒歩ならまぁ……休まず歩けば一週間掛からないくらいかな。馬車ならもう少し短縮できるだろうけど……色々不便になりそう」
「そんな不便になるようなことありましたっけ? 普段から魔法は使ってないですし……」
ユリはヴェルディーゼの言う不便が思い当たらないのか、不思議そうに首を傾げた。
それを見たヴェルディーゼはとても深い溜息を吐き、ユリの頭を優しく撫でる。
それにユリは嬉しそうに目を細めつつ、答えを求めるようにヴェルディーゼを見た。
「……こんな手ぶらで野宿するような旅人がいると思う?」
「そうでした荷物全部主様が魔法で管理してるんでした……え、駄目じゃん……」
「駄目だよ。だから徒歩なんだよ……最悪僕は馬車より早く移動できるしね。ユリが耐えられるかわからないけど……」
「何それ知らない……なんですかそれ?」
「んー……身体強化して、重力魔法で前方に落ちつつ、少しだけ風魔法で補佐をするっていうやり方なんだけどね。文字通り落ちていくから……解除しなければ壁にぶつかるまで無限に落ち続ける紐無しバンジージャンプみたいな……?」
「こわ……なるべくやらないでくださいね……」
「僕としてもやりたくはないからね。慣れてるから怖くはないけど……新種の魔物とかUMAとして扱われるから、凄く複雑な気分になる。やむを得ない事情があったんだけど、多用した時は討伐隊まで組まれて……はぁ、何回も討伐隊が組まれるから僕が討伐したことにしてそれらしい魔物をそれらしく継ぎ合わせて……大変だったなぁ」
「わあぉ……」
ユリを抱えながら死んだ目で愚痴るヴェルディーゼに、相当大変だったのだと察してユリがその頭を撫でた。
ヴェルディーゼは嬉しそうに微笑み、そっとユリを降ろす。
そして、ぽんぽんとその肩を叩きながら言った。
「次の街まではしばらくかかるはずだよ。無理しようとしないでね」
「しませんよ! 私を何だと思ってるんですか!」
「……ポンコツ」
「ぐぎゃあ! あああ、仕返しのせいでポンコツってレッテルがぁ……!」
「レッテルというか事実だと思うけど。ポンコツだし」
「ポンコツポンコツ言うなぁ! しょうがないじゃないですか! イケるって思ったんですよ私ぃ!」
泣きそうな顔でそう訴えるユリ。
それを反論らしい反論ができてないなぁなんてことを思いながらヴェルディーゼが眺め、ユリの手を引いて歩いていく。
なにはともあれ、早急に王都に到着したいのである。
ヴェルディーゼは神なので人間と同じ大きさの感情を抱くことはあまりないが、かと言って別に薄情なわけではない。
あの街が滅びればそれなりに心は痛むので、魔法を使うほどではないにしろヴェルディーゼは急いでいた。
「……急ぎたい。急ぎたいのは確かだけど……」
「うぅ……? どうしたんですか主様……」
「いや……こんな頻度で襲撃されるなら、クラシロエスの拠点探して潰した方がいいかなって。ユリはどこかに預けるとして……」
「っ……そ、それは嫌です。いえ、あの……本当に足手まといで、邪魔で……どうしても駄目なら我儘は言いませんけど……こ、克服しないといけませんから」
「……ユリがそうしたいならいいけどね。はぁ……まぁいいや、行くよ。……あ、不安定だから飴あげるね」
「わぁい。……あむ、うまうま……」
飴玉でヴェルディーゼがユリの機嫌を取りつつ、どうするべきかと考えながら更に進んでいった。




