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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
クローフィ・ルリジオン

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クラシロエスと落ち着かせるために

 それからなんとかヴェルディーゼを落ち着かせ、三人はアークルズと向き合っていた。

 ユリが攫われかけたこと、そこにクーレが駆け付けたという話。

 そしてクーレが睡眠薬だと断定した筒も渡し、アークルズは頭を抱えていた。


「……先ずは礼を言おう……新たな客人よ」

「ふふっ、ユリとは友達だからね。当然だよ。……ところで、この惨状は……クラシロエスの仕業なの?」

「少なくとも、火を放つ白ローブの存在は確認されている。数人だが確保もできたので、これから偽物なのかどうか判断する。求めるのであれば君にも結果は共有しよう。……もっとも、十中八九本物だろうが。白ローブも本物そのもの、人数も多い……偽物とは思えないからな」

「偽物集団にしては、人が集まりすぎてるってことだね。……ユリまで狙ったんだから、それはそうだろうね?」

「ひぇ……あ、主様、落ち着いてください……そもそも、クラシロエスってなんなんです? 犯罪組織とか聞きましたけど……」


 必死にヴェルディーゼを落ち着かせながらユリが尋ねると、クーレが頷いた。

 そして、少し考える素振りを見せてから答える。


「クラシロエスは……やってることは犯罪だけど、主張自体はそう異常なものではないんだ。その主張っていうのが、吸血鬼が全ての頂点に立っているのはおかしい、どんな種族であれ機会は与えられるべきだ、っていう常識としては異端だけど、別に主張としては正当なもの。だから人が集まる。ただ……やっぱり犯罪だからね。人の集まりやすい、厄介な組織でしかないんだよ。そんな輩に、世界や国を預けられない。そんな組織。世界の浄化っていう名目で、色んな種族の人が狙われてるみたいだよ。特に吸血鬼……私は中でも、その……〝高貴な血〟、王の資格を持ってるの。それも……私の持つ資格は、凄く、凄く大きなものだから。他の吸血鬼よりも、ずっと。だから、狙われて……ユリも、私のための人質とかのために狙われたんだと思う。……ごめん。巻き込まないようにって逃がしたはずなのに、結局巻き込んじゃった」


 クーレが本当に申し訳なさそうに頭を下げると、ユリが慌てて強引にクーレの頭を上げさせた。

 そして、どう伝えるか迷ったあと、その手を取って微笑む。


「悪いのはクーレちゃんじゃないんですから、そんなに申し訳なさそうにしないでください。クーレちゃんは恩人です……迷い込んだ私達を屋敷で保護してくれましたし、今日も攫われかけたところを助けてもらっちゃって……抵抗する力が、無かったわけではないのに……」

「だけど、もう少し巻き込まないやり方があったはずで……」

「そんなもしもはどうでもいいです! クーレちゃんが生きていて、それから私たちは助けられたこと! 重要なのはそこなので!!」

「……う、うーん」

「とにかく、です! ありがとうございます、クーレちゃん。助けてくれて……生きててくれて。クーレちゃんは感謝だけ受け取っておけばいいんです。……領主様、何かやれることはありますか? やれることは頑張りますよ!」

「収拾は付きそう?」


 ユリに便乗してヴェルディーゼが尋ねると、アークルズが頷いた。

 消火活動もかなり進んでいて、今は外も落ち着いてきているらしい。

 もっとも、この街にいた人達の混乱は未だ収まっていないそうだが。

 何せ唐突な襲撃である、パニックにならない方が少数派だろう。


「収拾は付き始めている、もう少しすれば外は落ち着くだろう……しかし、被害は相当なものだ。どこを見ても、焼け落ちた建物ばかり。人的被害も……少なからず存在する。元より荷物の少ない旅人や観光客は落ち着き始めているが、この街の住人は……未だ、深い混乱の最中にいる。……英雄に祈りを捧げる祭りの直後にこんなことが起きたのだ。無理はないだろう……」

「混乱……うーん、一時的にでも気持ちを紛らわせられれば……でも、下手にやっても暢気に何やってるんだって怒られそうですよね……?」

「気を紛らわす……か。僕の場合はユリを眺めるだけで済むし、よくわからないな……」

「私は主様の発言がよくわからないですぅ……んんっ。……ん〜……」

「あー……ユリ、歌上手でしょ。それっぽく歌ってみたら?」

「へ!? ……いえまぁ、それはっ……家族にも親友にも、大絶賛でしたけど……え? 何で知ってるんです? 主様の前でちゃんと歌った記憶はないですけど」


 ユリが頰を引き攣らせながら言うと、ヴェルディーゼが無言で唇を吊り上げた。

 どうやらユリが人間の時に歌っているのを覗き見ていたらしい。

 ユリが顔を真っ赤に染めつつ、ぶんぶんと首を横に振る。


「駄目に決まってるでしょう! それっぽくって……鼻歌にしても、そんな、こう……心が穏やかになるような曲を即興でとか、無理ですよ! 知ってる曲にしても……途中で口ずさんじゃいそうですし……というか、鼻歌ってそれこそ暢気だって思われそうじゃありません?」

「……ユリ、ちょっと」


 ヴェルディーゼがそう言って手招きし、ユリを近寄らせるとその耳元に口を寄せた。

 そして、他の人に聞かれないようにしながら囁く。


「日本語も話そうと思えば話せるから、穏やかな感じのそれっぽい曲を日本語で歌えばどうにかなるよ。そっちに意識を向けさせてくれれば、僕が魔法で全員の精神を落ち着かせてあげる」

「……そんなことができるんですか……?」

「できるよ。ただ、バレたくない。クーレや領主含め、歌に意識を向けさせて。クーレは探る気がないからともかく、領主はまだ微妙に警戒が残ってる。結界を張るにしても……認識できなくさせたら、どこにいるんだってそれはそれで怪しまれるだろうから。ユリは自由に歌えばいいよ」

「……わ、わかりました……やってみます……」


 ユリが頷くと、ヴェルディーゼがユリの頭を撫でた。

 詳細が決まったので、ヴェルディーゼがアークルズに落ち着かせてみると伝える。


「……ヴェルディーゼ、大丈夫なの?」

「ん? 大丈夫だよ、変なことはしないし」

「……なら、いいんだけど……」


 クーレが微妙に怪しみながら頷き、しかしユリに微笑みかけると部屋から出ていく二人を見送った。

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