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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
クローフィ・ルリジオン

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血の匂いと証拠

 軽い自己紹介を終えると、アークルズは紅茶を一口飲んで二人を見据えた。

 鋭い目つきにユリが小動物のように震える。


「早速本題に入らせてもらおう。……君達は、吸血鬼ではないな?」

「そうだよ。それが何? この街は吸血鬼じゃなくても誰だって入れるよね」

「では、高貴な吸血鬼が匂いがするのは何故だ?」

「……高貴な、吸血鬼……?」


 ぱちくりと目を瞬かせ、ユリが呟いた。

 吸血鬼だけなら心当たりはもちろんあるが、話していいのかどうかもわからずユリがヴェルディーゼを見上げる。


「……吸血鬼の知り合いならいるけど」


 ヴェルディーゼがアークルズを見据えながらユリの方へ手を伸ばし、頭を撫でながら言った。

 ほっとユリが息を吐き、どこか不安げで強張っていた表情が和らいでいく。

 それを見定めるように眺めつつ、アークルズは続けた。


「知り合い……か。……ならば、何故君達から高貴な吸血鬼の血の匂いがする」

「血!? ……きゅ、吸血鬼だからじゃなくて、ですか?」

「……確かに、血を流さずとも吸血鬼からは血の匂いがする。しかしそれは、血を流した時の匂いとは別物だ。……君達からは、血を流した時の血の匂いがする」

「うん……なるほど。領主は僕達が〝高貴な吸血鬼〟とやらを傷付けた、あるいは殺したんじゃないかって疑ってるわけだね」

「殺っ……!? そ、そんなことしてないです! 私も、主様も! するわけがありません!! だって、クーレちゃんは……大切な友達です!」

「なら、この匂いはどう説明する?」

「そ、それは……それ、は」


 高貴な吸血鬼の血の匂い。

 その高貴な吸血鬼というのがクーレのことなのであれば、心当たりが無いわけではない。

 何せ、クーレは襲撃に遭ったからこそユリ達を逃がしたのだ。

 そして、避難するための隠し通路で、ユリは眠っていたのだから。

 クーレが襲われ、怪我をしたのだとしたら。

 あるいは、殺されていたのだとしたら。

 多少なりとも、血の匂いが付いていたとしてもおかしくはない。


「……っ」


 そんな思考の過程で、ユリはクーレの最悪の結末を想像してしまい顔色を悪くした。

 それを見て、アークルズは更に視線を鋭くする。

 どうやらユリが顔色を悪くしたので、更に怪しまれてしまったらしい。


「無実である証拠は無いよ。あるのは、血の匂いっていう高貴な吸血鬼と関わりがあったって証拠だけ。犯人なのか、ただ近くにいたから匂いが移ったのか……それは君にはわからない。詳細に説明したところで、血の匂いを感じる以上それで納得することは不可能でしょ」

「……」

「だけど、だからって疑いが晴れるまで投獄を……ってわけにも行かない。僕達には、何の罪もない、ただの高貴な吸血鬼の知り合いって可能性が残されているから。……詳しくは知らないけど、それだけ重要な存在なんでしょ。だから安易な行動をしなかった」

「……ああ」

「断じて僕達は彼女を傷付けてはいない。……話したところでそれを証明できるわけではないけど……可能な限り、話はさせてもらうよ。心当たりが無いわけじゃないからね。その代わり……ってわけでもないけど、可能な限り先入観は消しながら聞いてくれるかな。話の中で疑問点を見つけて問い詰めるのは構わないけど、最初から疑いから入られたら所謂白い部分も黒く見えてきちゃうでしょ」


 微笑みを浮かべながらヴェルディーゼが言うと、アークルズがしばらくの沈黙の後に頷いた。

 どうやら先入観も可能な限りは無くして聞いてくれるらしい。

 アークルズの視線が和らいだので、ユリが深く息を吐いて緊張を解しながらヴェルディーゼを見上げる。

 微笑みを浮かべてはいるが、貼り付けたような笑みだった。


「それじゃあ……なるべく簡潔に、話そうか。ユリは補足をよろしく」

「あ、はい……」


 そして、ヴェルディーゼはクーレとの生活について簡潔に話し始めた。

 クーレとの出会い、生活、そして別れの日。

 白ローブの何者かに襲われ、自分達は逃されたということを淡々とヴェルディーゼは語る。


「――と、こんな感じかな」

「クーレちゃんの生死は……不明です。確認はできなかったので……」

「……そうか。わかった……一先ずは、犯人では無い、としておこう」

「ふぅん。白寄りのグレー、かな」

「ああ……君達の言う白ローブは、最近この辺りを賑わせている犯罪組織だ。名を、クラシロエスと言う。君達がそうでない保証は無いが……疑わしい点はほとんど無かった。……何故あの森に迷い込んだのかは、わからないが」

「ああ。質問してくれていいのに……ユリが方向音痴だからだよ」

「主様!?」

「許可してくれるなら、実演できると思う。この屋敷を歩かせれば迷うよ。それで少しでも疑いが晴れるなら、こちらとしても嬉しいしね」


 アークルズはそれに少し迷ったが、許可を出してユリに屋敷の中を歩かせた。

 適当に歩くだけでは方向音痴なのかどうかはわからないので、三分ほど好きに歩いてもらってから今までいた部屋に戻ってくるよう伝えてある。

 それを少し離れたところから二人が追っていき、三分後。


「……あ、あれ? こっちじゃ無いっけ……? ……あれ? ん? ……こっち……?」


 ユリが今までいた応接室とは別の場所で立ち止まっては首を傾げるので、アークルズはなるほどと頷くのだった。

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