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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
クローフィ・ルリジオン

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領主と対面

 そわそわとユリが身体を揺らす。

 目の前には領主の屋敷があり、ユリは少し緊張しているらしかった。

 対照的に、ヴェルディーゼは普段と変わらない様子でユリを眺めて和んでいる。


「……あ、主様って物怖じしないんです?」

「物怖じというか……僕普段、城に住んでるし……今更屋敷如きで緊張はしないかな。面倒だから力を誇示してるだけで、別に城じゃなくてもいいんだけどね。物置のことも考えると、ここよりもう少し小さい屋敷とかいいかもしれないね」

「メンタルが強い……城に住んでるとか関係無く緊張するんですけど……ふぅぅ……え、ええと、門ってあそこですよね……? 手紙出せばいいんですかね……?」

「緊張するならいいよ、僕がやる」


 ヴェルディーゼがそう言ってユリの頭を撫で、門番に近付いていった。

 手を繋いで強制的に連れて行かれているので、緊張は一切和らがないが。


「領主……様に招待されて来たんだけど、これ、確認してもらってもいいかな?」

「領主様より話は伺っている。……本物だな、通っていいぞ。玄関に行けば案内が用意されているから、そいつの指示に従えばいい」

「ありがとう」


 ヴェルディーゼが頷いてユリの手を引いた。

 ユリが相変わらず腰が引けているが、強制連行である。

 あの手紙は、ユリとヴェルディーゼ、どちらかに宛てていると明記されていたわけではなかった。

 ヴェルディーゼが捕捉していた監視の様子からしても、用があるのは両方。

 ユリに帰らせたとて、また来ることになるだけである。

 それはヴェルディーゼも面倒だし、ユリも二度苦しむことになる。

 なので、ユリがどれだけ情けない顔をしていても、ヴェルディーゼは容赦なくユリを引き摺っていった。

 あまりにも情けない顔をしているので、色んな意味で口元が緩みそうになるのを抑えるのは大変だが。


「……あ、あの人かな。……ほらユリ、そろそろもう少しちゃんと立って」

「イ゛ヤ゛ーッ!!」

「声が汚い……全く、世話が焼けるなぁ……結果の遮音と認識阻害解いてもいいの?」

「ごめんなさい嫌ですやめてください。や、でも、でもぉ〜……緊張が緊張で緊張なので緊張なんですよ……」

「緊張してるってことしかわからないね。領主の前でそういう変なこと言わないでよ。どうせユリは自分でやっといて物凄く苦しむんだから」

「ハイ……」


 ユリが大人しくなったので、ヴェルディーゼが改めて案内役と見られる執事の方へと向かった。

 ピシッとした雰囲気の老齢の執事に、何やらユリの心が騒ぎ出しユリが顔を上げる。


「お待ちしておりました、お二方。どうぞこちらへ」


 ユリがアニメや漫画で見るようなそれらしい執事に少し元気を取り戻しつつ、そっとヴェルディーゼの背中に指を添えた。

 ユリが僅かな魔力をヴェルディーゼに向かって放つ。


『主様。なんか……ここの人、反応が淡白じゃないですか?』

『ユリからの念話なんて珍しい……と、それはともかく。たぶん、領主から何も聞かされてないんじゃないかな。どんな立場かわからないから、丁寧な態度ではいるけど何も追及しないでいる。追及していると取られかねない言動も取らないようにしている。……とか、なんじゃないかと思うんだけど……』

『物凄い保険を掛けますね。何でですか?』

『……いや……汚染のせいで変な影響を受けてたら怖いと思って。世界の汚染で何もやってない人が何故か怪しまれたり、良い人が豹変したり……色々影響があるからね。どれくらい汚染されてるのか、正確にわかってるわけではないから』

『あー、なるほど……それだと面倒だなぁって考えてたわけですね』

『そうだね』


 執事に付いていきながら二人が念話で話をする。

 この念話は眷属契約によって可能となっているもので、どれだけ距離が離れていても、居る世界が違っても、世界同士に時差があったとしても会話ができる優れものである。

 眷属契約を介さない普通の念話も存在しているが、ここまで便利なものではない。

 ちなみにこの念話も魔法の一種なので、深淵魔法しか扱えないユリは使うことができない。

 今の念話はヴェルディーゼに触れ、合図を送ることで念話を繋いでもらっただけなのである。


「こちらで領主様がお待ちしております。中へどうぞ」

「あ……はい」


 ユリが執事に向かって返事をし、ヴェルディーゼが扉を開けた。

 やはり執事は淡々としていて、嫌になる程度ではないが眼光も鋭い。

 ここまで来るともはや警戒である。


『……いや、そうか。警戒……』

『主様?』

『あ、まだ繋げてたんだった。切るね』

『え、あ、ちょ』


 ブチッとヴェルディーゼが念話を切り、ユリの手を引いて部屋の中へと入った。

 中では領主と見られる男がソファーに腰掛け、お茶を飲んでいる。

 中で共に待機していたらしいメイドに丁寧に腰掛けるよう促され、ヴェルディーゼが自然に、ユリがぎこちない動きでソファーに腰掛けた。

 メイドが二人にお茶を差し出すと、ようやく領主が口を開く。


「先ずは……招待に応じてくれて感謝する。私はアークルズ・クラリアだ。この辺りの領主をしている」

「……ヴェルディーゼ」

「あっ、えと……ゆ、ユリです……」


 淡々とした自己紹介をするヴェルディーゼとしどろもどろなユリを眺め、領主、アークルズが目を眇めた。

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