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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
クローフィ・ルリジオン

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子供好き

「まーつりーだまーつりーおーまーつりー! ひゃっほーい!」

「無駄に美声……」


 無駄に透き通った美麗な声で歌いながら、ユリがスキップ気味に大通りを歩いていた。

 ユリは歌が上手いらしい。


「主様主様、これ何のお祭りなんでしたっけ!」

「ん? あー……なんだったかな……あ、そうだ。ここで何か災いがあって……それを収束させた英雄に感謝を伝えるための祭りなんじゃなかったかな。期間が長いのは、それだけ酷い災いで……かつて、それだけ長く英雄に感謝を捧げたからだとか。女将が言ってた。その英雄の子孫が今の領主なんだって」

「ああそれで、英雄クッキーとかいう名前で領主の家紋らしきものを模したクッキーが……なるほどです。買います。並びましょう」

「えー……そんなもののために並ぶの?」

「大した列じゃないですよ、見てください。五人くらいしか並んでないです」

「……ならいいか」


 ヴェルディーゼは並ぶのはあまり好きではないらしい。

 どうせただのクッキーなのに並ぶのかと難色を示していたが、ユリが興味津々な上に列も本当に大したものではないので、ユリと手を繋いで列に並んだ。

 並んでいる人がみんな親子連れなのは少し気になるが。


「……やっぱり、これに興味を持つのは……大体子供……」

「誰が子供ですか。いや成人はしていませんけど……折角ですし、こう……それっぽいもの買いたいじゃないですか! 私は買いたいです!」

「いや、ごめん……子供ばっかりだからなんとなく落ち着かなかっただけ。記念みたいなものでしょ。食べ物だからまた旅に出る時に邪魔になったりもしないしね」

「まぁそんな感じです。……落ち着かない気持ちもわからなくはないですけど……そんな見るからにそわそわするほどですか? 観光客です!! って顔しとけばいいじゃないですか」


 並び始めてから、ヴェルディーゼが物凄くそわそわしていた。

 とても珍しい姿にユリが幸せな気持ちになりつつ、再び列を見て首を傾げる。

 気になってそわそわするのはわかるが、そこまでそわそわしてしまうものか、と。

 そうしていると、目の前で母親とともに並んでいた男の子が振り返って話しかけてきた。


「お兄さんとお姉さんも、これ買うのー?」

「あ……ふふ、そうですよー」

「そうなんだ! あのね、これね、かっこよくて美味しいんだよ!」

「あっ、あの……すみません、うちの子が……急に話しかけちゃって……」

「いえいえ、大丈夫ですよ。人見知りしなくて、人懐っこくて……大人しく順番も待っていて、いい子ですね。偉いですよ」

「うんっ、お母さんがね、上手に待てると褒めてくれるから!」

「そうなんですね、お母さんの言うことを聞けて偉いです」

「……」

「ねぇねぇ、お兄さん、お兄さんお菓子持ってる? あのね、お兄さんから甘い匂いがするよ!」


 男の子が興味津々な表情をしながらそう言うと、ヴェルディーゼが固まった。

 母親が慌ててヴェルディーゼに頭を下げる。

 男の子が目を輝かせてヴェルディーゼを見ており、まるでお菓子をねだっているかのようだったからだろう。

 それにヴェルディーゼが苦笑いを返し――どこからか小さな瓶を取り出す。

 中には丸くて蜜のような色をしたものが入っていた。


「飴だよ、食べる?」

「いいの!?」

「うん、いいよ。……あ、でも、この子食べられないものとかないかな?」

「え、ええ……ありません……」

「そっか。ならあげる。けど、これからもちゃんといい子でいるようにね」

「うんっ! いい子にする!」

「よし、はいどうぞ」

「ありがとう、お兄さん!」


 ヴェルディーゼが緩んだ笑顔で男の子に飴玉を差し出した。

 ユリに向けるものとはまた違う、優しい表情をしているヴェルディーゼにユリが鼻を押さえる。

 そうしないと鼻から〝尊い〟の具現化が噴出しそうだったので。


「……ここに来て……子供好き属性ッ……!?」

「え、何? 飴いる?」

「いります。あむ。……甘、何これ美味し。もっと!」

「駄目。一個だけだよ」

「うぐぐ……うぅ……もっと食べたかった……」

「……しょうがないなぁ。それ食べ終わったらね」

「やったー!」


 ユリが両手を上げて喜んだ。

 この会話を聞くと男の子が羨ましがりそうなので、しっかり結界で遮音を行っている。


「ん……もしかして、子供好きだからそわそわしてたんですか?」


 口の中で飴玉を転がしているせいで、若干くぐもった声でユリが尋ねた。

 ヴェルディーゼはそれにどう答えるか迷った様子で困った笑みを浮かべ、少ししてから頷く。

 そして、ユリの頭を撫でながら口を開いた。


「子供好きっていうのも、そうだよ。ただそれだけが理由じゃなくて……親と一緒に来てる子供が多い中で、子供に比べれば成長してる二人、って理由で視線を集めてるだけじゃないような気がしたから。特に、子供から視線を感じてね。何となく落ち着かなかったんだけど……この飴が理由だったのかもね。人間より吸血鬼だとか、獣人だとか……亜人が多いから、人間より鼻が利いて視線が集まってたのかも」

「あ、なるほど。……というかそれ、常に持ってるんですか? そもそもどこに?」

「ポケット。戦闘中とか、寝る時は亜空間にしまうけど……すぐ取り出せるし、常に持ってるようなものかな」

「……子供のために?」

「それもあるけど、僕自身甘いものは好きだからね。……でも、今はユリがいるからね。ふふ」

「どういう意味ですかコラ」

「バレたらねだられそうって意味だよ?」

「……ぐあぁっ……! だったら謎の笑みの正体は何なんですかぁっ……」

「ふふっ」


 ユリがダメージを受けたような声を上げて頭を押さえた。

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