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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
クローフィ・ルリジオン

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祭りに行こう

 数日後、ユリがにまにまと笑いながら小さな袋を覗き込んでいた。

 軽く揺らせば、袋は少し重い金属の音を奏でる。

 袋の中身は、女将がくれた働いた分の給料である。

 祭りも後半になり、ユリとヴェルディーゼが抜けても宿も回るようになってきたので、祭りに行ってこいと女将に告げられたのだ。


「うへへ……デート代……兼、お祭り代……っ!」

「……自由に使うのは構わないけど、使い切ろうとはしないでね」

「使い切っちゃ駄目なんですか!? ……いや駄目か。生活費……っていうか旅費? たくさんいりますもんね……」

「いや使い切るのはいいけど……使い切るために買い物したりはしないでね」

「え、優しい……」

「優しいかな。まぁいいや、行くよ。たくさん遊びたいって昨日言ってたでしょ」

「……あの、主様」

「ん?」

「楽しみで寝れなかったので抱っこしてもらっていいですか。寝るので」

「……はぁ」

「わぁい」


 寝不足のせいか、ユリが羞恥心をどこかに捨ててヴェルディーゼに抱っこをねだった。

 溜息を吐きながらもヴェルディーゼがユリを抱き上げ、宿の外に出る。

 祭りも後半、そろそろ終盤に差し掛かってきたところのはずだが、まだまだ外は人で賑わっていた。


「さて……どこに行こうか。ユリはどこに――あ、もう寝てる。……昨日は確かに、外が少し明るくなってきた頃にようやく寝たはず……眠いのも仕方ないか。また夜に眠れなくなって、悪循環にならないといいけど……」

「……むにゃ……お祭り……ふへぇ……」

「……ユリが好きそうなところ、どこかな……いや、先ずは腹ごしらえ? ユリが外で食べたいからって宿の朝食は断ったんだよね……うーん……」

「……主様……食べるぅ……」

「……絶対美味しくないのになぁ……はぁ、祭りの様子が良く見えるカフェでも探そうかな」


 ヴェルディーゼが目的地を定め、カフェを探しにぶらぶらと歩き始めた。

 ちなみに、流石にユリを抱えながら歩くと視線が鬱陶しいこと間違いなしなので、しっかりと結界を張っている。

 しばらく歩くと、カフェを発見したところでタイミング良くユリが目を覚ます。


「……ぅ……ん、んん……っ」

「あ、おはよう。朝食、カフェでいい?」

「ふぇ……? ……んんー……いいですよぉ……」

「じゃあ、入るね」


 ユリに確認もできたので、ヴェルディーゼがカフェに入って席に腰掛けた。

 ヴェルディーゼはユリを正面に座らせ、肩を揺すって意識を覚醒させる。

 起きていないわけではないが、ユリは二度寝をし掛けていた。


「ユリ、起きて」

「ん、んんー……っ! ……二度目のぉ……おはようございます……」

「おはよう。ほら、起きて。朝ご飯」

「……あさ、ごはんー……なんですか……?」

「注文するんだよ。ユリが宿の朝食を断ったんでしょ」

「……そーでしたぁ……」


 ふわふわとした雰囲気でそう言いつつ、やはりユリが少しずつ眠りに落ちていく。

 仕方無いので、ヴェルディーゼが魔法で強制的にユリの眠気を消し去る。


「……はぅっ!? 眠気が急に……!?」

「店の中だよ、ここで寝始めたら迷惑になる」

「……あっ……そうでした、そういえばカフェに入ったんですよね。ええっと……何にしようかな」

「好きに悩んで。カフェで寝るのは良くないけど……まぁ、注文に悩むくらいなら時間を使ってもいいでしょ。……別に混んでないし。朝は人少ないのかな……」

「すっからかんですよね。……よしっ、決めました。主様は決まってますか? 決まってたら呼びますよ」

「ん……決めたよ」


 ヴェルディーゼが頷くと、ユリが同じように頷きを返して店員を呼んだ。

 そして、笑顔で注文を伝えると、店員が去っていくのを見届けてヴェルディーゼを見る。


「主様、あの、寝ちゃってごめんなさい……目立ったでしょうし……その……お、重かった、ですか……?」

「重くはないかな。何もしなければ目立っただろうけど、結界だって張ったし……面倒だと思っただけだよ。結果的にはユリを抱えられて嬉しかっただけ。反応が無いのは物足りないけど」

「うぅ……喜ばれて嬉しいような、面白い反応を期待されて嫌なような……」

「ほどよい重さで……」

「主様ぁ!?」


 自分から重くはなかったかと尋ねたとはいえ、重くはないと答えた後にそんなことを言い始めたヴェルディーゼにユリが叫んだ。

 最高位邪神の名を冠するヴェルディーゼのことである。

 当然ながら並大抵の重さなら軽いと言って持ち上げられる。

 そんなヴェルディーゼのほどよい重さなど、軽いはずがない。


「怒りますよ!? いいえ怒りました! 今日のお祭りでは! 主様のために何か買ったりしませんから!」

「……大丈夫? 耐えられる?」

「私が主様に何かをプレゼントしたくなる前提で語られている……!?」


 わちゃわちゃとそんな話をしていると、店員が食事を運んできた。

 途端にユリが朗らかに笑みを浮かべ、食事を受け取る。


「……ふうっ。冷静に考えると耐えられるわけないですね、撤回します。それはそうと失礼過ぎるので殴ってもいいですか?」

「構わないんだけど、殴るのも失礼だと思うよ」

「…………やめます」


 はは、とユリが笑って静かに食事を口に運び始めた。

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