熱烈な視線
数日後。
街では祭りが開催され、ユリ達が泊まっている宿、団欒の宿もとても繁盛していた。
「日替わりですね! 承りました、少々お待ちくださ〜い!」
制服を着たユリが、ニコニコと愛想を振り撒きながら机の間を駆け回る。
ひらひらとミニスカートが揺れ、客の視線が集まったのでその中でも良くない視線を向けている客にヴェルディーゼがガンを飛ばしつつ、酒を飲んでいる客に近付いていく。
「お客さん。少し飲み過ぎだね、他のお客の迷惑になるから……」
「あぁ〜? 何様だテメェ、俺ぁ今気持ち良く酔ってんだよぉ」
「だからって手当たり次第絡みに行くのはよろしくないね。男は殴って、女性には腰に腕回したりとか……女将ー」
「いいよー! やっちゃいな、ヴェルディーゼさん!」
「よし」
女将の許可を取り、ヴェルディーゼが少しおいたの過ぎる客を引きずって宿の外に放り投げた。
祭りの最中だからか迷惑客も多いようで、ヴェルディーゼはほとんど用心棒のような役割になっている。
仕事という名目でユリに良くない視線を向ける客を制裁できるので、別にヴェルディーゼとしては構わないのだが。
なお、一番ユリに良くない視線を向けているのはヴェルディーゼなのだが。
「ユリちゃーん、ヴェルディーゼさーん! そろそろ客足も落ち着いてきたし、休憩に入りな! もうちょっとしたらあたしも手が空くだろうから、昼食も作ったげるからね!」
「はぁい! 了解でーす! ――あ、オーダー承りますよ。どうせあっち戻りますからね! はいはい、コナレの肉巻きとスープにパン、デザートにフルーツ盛り合わせですね。承りました!」
「今行く」
ユリが最後に注文を聞いてから宿の裏へと行き、ヴェルディーゼと合流した。
仕事中の会話はどうしても少ないので、ユリが裏に行くなりすぐにヴェルディーゼに抱き着く。
「ふふぁあ……満たされるぅー……」
「ふにゃふにゃだね。寂しかった?」
「それはもう! いつもと違う格好の主様は眼福ですけど、忙しくって話せないのは辛いです! しょうがないことですから、休憩中にこうして満たされることで我慢していますけど……。……んむ、もしやこれが、たまに漫画やラノベで聞く○○ニウムとか、そんな感じのやつ……アルジニウム?」
「へー」
「相槌が雑ですよ主様。もっと私にアルジニウムを摂取させるのですっ。すぅぅぅっ……はぁああ……」
「……僕、危ないクスリか何か……?」
「推しの供給はどんな病でも治しますし、主様は私にとって推しと言っても過言ではないので薬って意味では間違いではないです。危なくないですけど。推しと言っても唯一無二なんですけどね!! 作品ごとに最推しというものは存在するものですが、主様は! 唯一無二ッ! なので! 私の最推し達ですら凌駕することはできないのですッッ!」
ユリが何やら熱弁しているので、それを適当に聞き流しつつヴェルディーゼもユリを堪能し始めた。
言っていることはよくわからないけど、相変わらずユリは可愛いなぁ、と。
ついでに、からかいと熱弁するのに夢中になっていることへの不満を込めて露出している太ももに手を伸ばす。
「つまりですね主様、主様は最高で最強なので最高ってことで……やぅっ!?」
「語彙が小学生になってる……はぁ、とりあえず座ろうよ。折角椅子があるんだし……休憩中なんだから、しっかり休もう?」
「……と……止めるためにそんなところを触らなくてもぉ……人がいないとはいえ、恥ずかしいじゃないですか!」
「……ユリは僕のものだから……」
「お、あ、おおぉ……? 独占欲ぅ……? え? なに? なんで?」
ユリが困惑してパチパチと目を瞬かせる。
急にヴェルディーゼが独占欲を発揮し始めた理由がよくわからないらしい。
「まさか視線に気付いてないの? なんで多くの人にその姿を晒すことになるのに、ミニスカートなんて履いてきたの? 今からでも着替える? 服出すよ?」
「あ、主様が据わった目を……べ、別に、それといった理由は無いですよ! ただその……主様が用意してくれた服、ミニスカばっかですし……好きなのかなと思って、恥ずかしくない丈のものを着ただけで……」
「そういうのはデートで着て。可愛いけど、多くの人にその姿を晒したくない。外で人とすれ違うのは仕方ないけど、ここじゃその姿をじっくりと見られることになるでしょ。常に僕が傍にいるわけじゃないし……」
「んんん……主様がナチュラルに嬉しいこと言ってくるぅ、恥ずかしいです……あのあの、似合ってますか? こういう格好好きですか?」
「ユリはどんな格好でも可愛いよ」
「そうじゃなくて……」
わかっているくせに、とユリが頬を膨らませてヴェルディーゼを見上げた。
それにヴェルディーゼが笑いつつ、ひらひらとしたスカートの裾を指で弄る。
そして、息を吐きながら答えた。
「そうだねぇ……そんなに自覚してなかったけど、恥ずかしそうな顔をするからっていう理由を除いてもミニスカートが好みみたいだね、僕は」
「やーん、へんたぁーい。ふへへ……主様の視線、凄まじかったですからね。今日」
「そう?」
「そうですよ。数分に一回はチラッと、です。隙あらばじーっと……お客様の誰よりも主様の視線が物凄く気になりました」
「……ご、ごめん。見てることは自覚してたけど、それは無意識だった……」
「いいですよ、赤くなるのを堪えるのは物凄くきついですけど、主様の視線だけは嬉しいですから」
ユリが頬を染めながらそう言って笑うと、ヴェルディーゼが苦笑いしながらユリの頭を撫でた。




