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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
クローフィ・ルリジオン

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仕事と師匠

 その後、ユリは三角座りのままヴェルディーゼに運ばれ、昼食の為に椅子に座らされていた。

 しかしユリは椅子に足こそ付けていないが、椅子の上で三角座りをし絶妙なバランスを保っている。

 膝に顔を埋めているので、むしろ自分が今どこにいるのかもわかっていないのかもしれない。


「……うぅ〜。主様とは絶交です……あんなからかい方をしてくる主様なんてぇ……うぅ、えぐっ」

「ただいま、戻ったよ」

「……。……どこに、行ってたんですか……」

「女将と話してきただけ。早めに働かせてくれるって」

「……そう、ですか……」

「とりあえず、お昼食べよう。つい悪戯したくなって……ごめんね」

「……ついって、もう……」


 ユリが唇を尖らせながらそっと足を降ろした。

 そして、じっとりとした表情でヴェルディーゼを睨む。

 まだ耳に息を吹き掛けたことは怒っているらしい。


「……運ばれてることは流石にわかっていましたけど、ここに来ていたんですね。……お腹が空いてきました」

「うん、好きなだけ食べて。苦手なものがあったら遠慮無く言ってね、代わりに食べるよ」

「……機嫌取ろうとしてます?」

「うん」

「残念でした、私は好き嫌いしないタイプです。……主様、女将さんに迷惑かけてないですよね」

「え? ……掛けてない、と、思うけど……」

「なんで自信無いんですか……も〜。……ふぅ。しょうがないので、機嫌は直してあげます。でも、本当に勉強の邪魔はしないでくださいね! 折角珍しくやる気が出てたのに……どっちみちやらないといけないですし、ちゃんとやりますけど」


 ユリがそう言って肩を落とした。

 よくやくユリがいつもの雰囲気に戻ったので、ヴェルディーゼが安心してユリに笑いかけながらその頭を撫でる。

 ここでまた夜のことやらさっきのことやらを掘り返したら、また可愛く機嫌を悪くするんだろうなぁ、なんてことを性懲りもなく考えつつ。


「主様が邪な顔してる……」

「よ、邪?」

「絶対反省してないですね。変なこと考えるだけに留めるなら何も言いませんけど!」

「……あ、あはは」

「んん……そろそろ真面目な話をします! 女将さん、お祭りの前から雇ってくれるんですよね? いつから大丈夫なんですか?」

「とりあえず、制服を用意してからだね。用意でき次第また声掛けてくれるって」

「ほわあ……ありがたいですねぇ。んふふ……そういえば、飲食店で働くのって初めてです。いや、宿屋だから飲食店ではないんですけど」

「……ユリは器用だから、きっと大丈夫だよ」

「主様はどうなんですか? 器用そうに見えますけど」


 そう言ってユリが首を傾げた。

 ヴェルディーゼはそれに悩むように眉を寄せ、息を吐く。


「どうだろうね。こういう仕事はしたことないから」

「あれ? お金稼ぎをすることはあったんですよね。何をしてたんですか?」

「商会を立ち上げたり、情報屋をしたり……そういうことしかしてなかったね。誰かの下で働くことってそんなに無いかも」

「……仕事を探す手間がどうのこうのって話は……? それ、自分から商売始めてますし、関係ないですよね……?」

「商会なら何を主力として売るか。情報屋なら情報収集。需要に合わせて、何なら効率的に稼げるかしか考えてなかったから。要するに仕事探しというより需要を探ってたんだよ。ただ、今回は……ここは宿屋だし、食事のためだけに来る客も多いし、酒も出るし……情報収集にはもってこいだと思ってね。今回はここでもいいかなぁって思ってたんだよ」

「ふぁへぇ〜……色々考えてるんですねぇ……」

「世界を穢す何かが綺麗だったりすると、高値で取引されてたりするからね。今回はその必要は無さそうだけど、稼ぐのは大事だよ。……っと、昼食が来たね」

「あ、ありがとうございます。美味しそう」


 ユリが運ばれてきた食事を見てそう言い、いただきますと呟いてから食事を口に運び始めた。

 そして、何も考えずにヴェルディーゼの方を見て、その仕草を眺める。

 改めて観察してみると、ヴェルディーゼはとても綺麗な食べ方をしていた。

 アニメに出てくる貴族のようだ。


「……ん、何?」

「いえ、綺麗だなぁと……」

「……そっ……か。うん、ありがとう」

「主様って、マナーとか気にするタイプなんですか? こう……所作が物凄く美しいというか……」

「ああ、それで綺麗、ね。んー……大昔に、僕の面倒を見てくれた師匠がいてね。似合ってるからってマナーとかを教えてくれて……それが癖になってるだけだよ。カトラリーがあるのに手掴みで食べるとか、マナーの欠片も無いようなことをしなければ何も気にしない。僕だって意識してないし」

「主様の師匠! 初めて聞きました……どんな方なんですか? 性別は?」

「……そういえばあれは日本の服か。着物を着た女性だよ。性格は……うん……ちょっと悪いかな。気になるほどではないけど」


 ヴェルディーゼがそう言って肩を竦めた。

 ユリはヴェルディーゼの師匠がとうしても気になるようで、もっと話をとせがむ。

 その間にも食事はしっかり口に運んでいたが。


「特徴は! 主様のお師匠様の特徴はっ! 性格でも外見でもなんでもいいですから!!」

「えー……うーん……長らく会ってないしなぁ。正直細かいところまで覚えてないんだけど……師匠っていう自分の立場を利用して、何かと僕を利用してた……かな。いや、使ってたって言った方が正しいかもね。悪いことはしてないから別にいいんだけど……」

「ほうほう。例えばなんですか?」

「例えば……僕には情報が集まるから、こういう情報を流せとか」

「へぇ〜! ……んふ、主様のお師匠様……いつか会ってみたいです!」

「……あはは……はぁ、ユリのことは徹底的に隠さないと」

「なんでですか!?」

「悪い人じゃないけど、面倒だからね。ユリを貸せなんて言われたら、僕はユリを……いや、なんでもない」

「そこで止めないでください、逆に怖いです」


 ユリが真顔になってそう言い、食事を終えた。

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