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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
クローフィ・ルリジオン

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初めての街へ

 ひゅぅっ、とユリが掠れた息を吐き出す。

 ユリはヴェルディーゼの腕の中でぐったりとし、息を切らしていた。


「ぜぇ、はぁ……っ、は、ひゅー……げほっ、うう……あつい……」

「そんなに暴れなくてもいいのに……嫌なわけじゃないでしょ」

「い……意地に、なっていて……っ、ふぅぅ……ちょっと、落ち着いて、きた……」

「……落ち着いてるかなぁ……?」

「うう……はぁ、はぁ……っ。……あの、今、どこ、ですか……」

「うん? もう街の目の前だけど……」

「……目の前?」


 ユリがそう呟きながら顔を上げた。

 すると目の前に立派な街が見えるので、ユリが目を丸くする。

 そして、自分はどれくらい暴れていたんだと頰を引き攣らせた。

 森から街まで、目に見える距離とはいえそこそこはあったはずである。

 街が見えたのは単に開けていたからで、歩きやすくはあるだろうが少しの時間で着くとは思えない。


「……私、どれくらい暴れていました?」

「んー……3時間くらいかな。正確な時間は把握してないけど、結構長かったよ。正直、転移してもう街だって伝えてもよかったけど……こっちから見えるってことは、あっちからも見えるだろうし。怪しまれたくもないからね。……早く行くことを優先したけど……坂が多くて中々大変だったなぁ。ふふっ」

「主様……わかってましたけど、化け物みたいな体力していますよね……私も大暴れしていたのに、息すら乱さないとか……しかも休憩だってしていないんでしょう? そもそも森から出たばかりなのに……普通に歩いてたら力尽きてたかも」


 ユリはヴェルディーゼに鍛えられている。

 が、それでも森で体力を消費した状態で坂の多い場所を3時間ぶっ続けで歩き続けられるほど体力があるわけではないのである。

 それも、ユリが腕の中で騒いで喚いて暴れまわっていたのである。

 人間ならかなり鍛えていないと疲れないはずがないのだが、流石は神といったところである。

 鍛えていても流石に息の1つくらいは乱れそうなものだが、一切乱れていないのだから。


「……ふぅ。にしても……街、ですか。……人がいますね、門番みたいな……?」

「どうだろうね? 声掛けた方がいいのかな……入るのにお金が掛かったりとか……わからないな。創世神がその辺りフォローしてくれると楽なんだけど……」

「……あれ? お金掛かったら詰みじゃないですか? 税が取られてもおかしくない気はしますけど……」

「ん? クーレから貰ってるよ?」

「い、いつの間に……!? ……あの、いくらくらい……?」

「……お金の単位ってなんだっけ……」

「クレスですよ」

「ああ、そうだ。えっと……3000クレスとかって言ってたかな。安めのパンが3クレスだって」

「パンが1000個買える量と……え? 結構多くないですか? パンが3円……じゃなくて3クレスだとすると……宿屋ってどんなもんでしょう?」


 ユリがそう言って首を傾げた。

 ヴェルディーゼが街の入口に立っている兵を見ると、息を吐いて近付いていく。

 そして、無害そうな笑みを浮かべると門番らしき人物に声を掛けた。


「少しいいかな、聞きたいことがあるんだけど……」

「ん、ああ……旅の者か。何が聞きたいんだ?」

「少し遠くから来たものだから、この辺りには疎いんだ。だから、この辺の宿屋の相場とかを聞きたくて。いいかな?」

「もちろんだ、俺はこの辺りの出身でな。中々詳しいんだ。それで……あーっと、宿の相場か。バラつきはあるが……一泊50クレス辺りだな。ちなみに、オススメは団欒の宿ってとこだ。常連はみんな温かく団欒しているのが特徴でな、それから穏やかに過ごせないやつは女将に追い出されるんだ。まぁ、別に団欒に強制参加させられるってこともない。静かなのが好きな人でも穏やかに過ごせる宿なんだ。とりあえず、様子を見に行ってみたらどうだ? 食堂も兼ねてるから、行きやすいと思うぞ」

「……わかった、団欒の宿だね。ちょっと見に行ってみるよ。ありがとう」

「どういたしまして。不慣れみたいだし、特別に税の徴収はしないでおいてやるよ」


 門番の男がそう言うと、ヴェルディーゼが目を丸くした。

 税の徴収があることが知れたのは嬉しいが、そんなことより男の発言である。

 色々と大丈夫なのだろうかとヴェルディーゼが眉を顰める。


「……ありがたいけど……いいの?」

「おうよ。領主様は太っ腹な方でな、俺みたいな末端の門番にもそこそこの給料をくれるんだ。この程度なら生活にも影響しねぇ。代わりに納めておくから安心しな」

「……」


 ヴェルディーゼが戸惑いを露わにしながらどうしようかと悩む。

 ありがたいことではあるが、かといってここで恩を作るのも、と。

 実際のところ大した額ではないので、彼はただの善意でやっているに過ぎないのだろうが。

 ただ、それでも恩は恩である。

 ヴェルディーゼは大いに気にして悩みに悩む。

 そこで、ようやくしっかりと整った呼吸ができるようになったユリがくすりと笑って男に声を掛けた。


「すみません。この人、善意に不慣れなんです。だから、その……恩返しをできるかもわからないのに、とか、色々考えてしまってるんだと思います」

「ん? そうなのか? 気にするなよ、恩返しが目的なわけじゃないんだぞ? どうしても気になるってんなら、そうだな……この街を楽しんで滞在してくれ! もうすぐ祭りがあるんだ、良かったら参加してくれよ」

「ほら。この方もそう言ってくれていますし、早く行きましょう?」

「……う、うん……ありがとう」


 本当に税を払わずに街に入れそうな流れに戸惑いつつ、ヴェルディーゼが街に足を踏み入れた。

 そして、門番が朗らかに笑って言う。


「ようこそ、クラリアの街へ!」

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