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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
クローフィ・ルリジオン

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誤魔化してる気がするのに

「やぁあああ〜……っとぉ! 出られたぁ!」


 ユリがぐっと身体を伸ばしてそう声を上げた。

 背後には背の高い木々が並ぶ森があるが、その正面はこれまでと違って草原が広がっており、少し遠くには街らしきものも見えていた。

 元の世界の都会らしさなど微塵もない草原、そして遠くの街にユリが目を輝かせる。


「やっぱりそこそこ掛かったね。ユリの方向音痴も視野に入れた上で、ある程度掛かる日数は計算してたんだけど……そこそこオーバーしちゃったな」

「……方向音痴ですみません。努力はある程度しているんですけど……」

「わかってるよ、大丈夫。……疲れてない? このまま街まで行けそう? いざとなったら抱えていくけど……」

「か、抱えられて街に入るのは流石に……! 大丈夫です! まだ行けます! 歩けますよ! 何せ! 主様に散々無理矢理走らされましたからね! 命令で! 無理矢理!」

「……行こうか」

「目を逸らさないでください」


 真顔で言うユリから顔を背けつつ、ヴェルディーゼがユリと手を繋いで歩き出した。

 ヴェルディーゼは誤魔化す気満々なので、ユリがぷくりと頬を膨らませつつ背後を見る。

 これまで、自分達が過ごしてきた森だ。

 多少の恋しさだって感じるし、何よりもそこにはきっと、クーレがまだいるはずで。


「……いいえ。クーレちゃんは……私達を巻き込まないことを選びました。なら、私は……それに従うべき、の、はず……うぅ……クーレちゃん、大丈夫かなぁ……」

「ずっと気にしてるね。……そういうものかな」

「主様はそこまで気にしていませんよね。クーレちゃんのことに言及しても、私のための言葉ばっかりです」

「……少し観察しただけだけど……全員の相手をしても別に勝てそうなくらいには実力差があったからね。まぁ、他者への関心が薄いのが主な原因だろうけど」

「いや……いつも私に凄く関心を寄せていませんか、主様」

「好きだからね」

「……そ、……う……です、かぁ……ふへへ……私も好きです」


 ふわりと頬を染めてユリがそう返した。

 そして、先程までの物憂げな雰囲気はどこへやらハイテンションな様子でユリが街へと歩き始める。

 その様子を見て、ヴェルディーゼが小さく笑みを浮かべた。


「――とでも! 言うと! 思ったかァ!」

「……急にどうしたの……」

「主様、誤魔化そうとしていませんか!? 不意打ちはまぁ効きましたけど、私は誤魔化されませんからね! 主様今笑いましたね!?」

「うん、喜んであからさまに足取りが軽くなるユリが可愛かったからね」

「……。……んんんん……そ、そんなことより! 他人に関心が薄いなら私に惚れることもないはずですよ! つまり! 主様は普通に他人に関心があるッッ!」

「暇潰しでちょっとしたちょっかいを掛けた相手が面白人間で、観察してたらそのままこうなっただけなんだけどなぁ……」

「……本当に?」

「本当だよ」

「……おかしいなぁ、何か誤魔化してる気がするのに……」

「……」

「あ、意味深に黙った……わぷ!?」


 ヴェルディーゼが手のひらでユリの口を塞いだ。

 じたばたとユリが暴れるが、ヴェルディーゼはびくともしない。

 ユリは拗ね、ぷくりと頬を膨らませてそっぽを向いた。


「そんなに僕の言葉が信じられないの?」

「そういうわけじゃ……」

「でもユリは何も信じてないよ」

「……私なりの根拠があるんですけど」

「そっか、なら後で聞くよ。今はそれより夜になる前に街に着かないと」

「……わかりました。じゃあ、早く街に行きましょう。……あの、主様? どうして私を抱えるんです?」

「いやぁ……可愛いなぁって。僕が惚れたのが君で良かった」

「え、あ……あ、ありがとうございます? ……どういたしまして……??」

「うん。さて、行こうか」

「……は、離してくださいっ!?」

「行こうか」

「も、もしかしてからかってます!? いつから!? どこから!?」


 ヴェルディーゼが片手でユリを抱き上げた。

 歩いている最中では強引に降りて逃げ出すこともできず、ユリが必死に降ろしてと訴える。

 しかしヴェルディーゼは笑顔を浮かべるばかりで、聞き入れる素振りを一切見せなかった。


「主様! からかってますよね!? 降ろしてください、自分で歩けます!」

「……どこから、だったっけ。そうだね、僕がそんなに僕の言葉を信じられないのって聞いたところからずっと僕はユリの反応を楽しんでるよ? ……というより、わざと反応させてる……かな。常に楽しんではいるし……」

「なんでですか! うぐぐ……降りられない……っ」

「すぐに着くから、大人しくしてて」

「だから嫌なんですよ! 恥ずかしいって言ってるじゃないですか! ……あ、怪しまれたらどうするんですか!」

「疲れて歩けなくなったとか言えばいいんじゃないかな」


 むぐ、とユリが口を噤んだ。

 それを聞いた人に無用な心配は掛けかねないが、相手が疑り深い性格でもない限り何も言われないだろう。

 それにユリも疲れていないわけではない。

 抱えられるのが恥ずかしいから大丈夫だと言っただけで、歩けないほどではないにしろ確実に疲れているのである。


「これからまた慣れない場所で過ごすんだから、少しでも疲労は回復させておかないと。僕は慣れてるけど、ユリはそんなことないでしょ」

「だ、抱き抱えておくことが目的のくせに、それらしいことをっ……! そうは行きませんからね!」

「……喜んでるのに、どうして口では反抗するんだろう……? ……まぁいいか」

「喜んでないですけど! そんなことより! 絶対何か誤魔化してる気がするのにぃ!」

「ああ、それで……誤魔化してないんだけどね。何が引っ掛かってるんだろうなぁ……」

「むー! それがわかるまで主様の望み通りの展開には絶対にさせませんから! 絶対! 誤魔化してるっ!!」


 ユリがそう言い張り、必死に地面に降りようと暴れ回った。

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