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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
クローフィ・ルリジオン

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戦う練習であって

 森の中で、ユリが野生動物の肉を焼く。

 クーレの屋敷に滞在していた最中に貯蓄していたものである。

 襲撃に伴い予定とは違ったタイミングで出ることにはなったが、ヴェルディーゼがクーレが2人用にと纏めてくれていた食料をユリが眠っていた間に回収しておいてくれたらしい。


「……よし、これくらいでいいかな。今切り分けますね」

「ありがとう。……料理任せちゃってごめんね」

「いえいえ。狩りはできませんし、これくらいは。……はい、どうぞ。……あ、スープ用のお湯が沸きましたね。野草と諸々を入れて……あれ、ちょっと少ないかも。もうちょっと切って……はぁ、クーレちゃん、大丈夫でしょうか……あの白い人達が来てないかも心配ですし……あ、このナイフ武器になりまぴゃふっ!?」


 ユリが手にしていたナイフが唐突に勢い良く飛び出した。

 ヴェルディーゼが肉を口に運びながら片手間で飛んできたナイフを掴み、ユリに手渡す。

 ナイフが吹き飛んだ理由は、ユリがナイフを武器と認識してしまったことが原因である。

 今現在は武器である鎌を手にしていないユリは、白い装束の存在を少し怖がってナイフは武器になると思ってしまったのだ。


「えっ、えっ、わああ、主様ごめんなさい!? でもなんで!?」

「武器だって認識したら、それはまぁ……吹き飛ぶだろうね。鎌しか使えないんだから」

「……忘れてました!! そうでした! 危ないですね!!」

「気を付けた方がいいよ。人前でそんなことになったら……飛んでいった方向によるけど、殺そうとしたって勘違いされる可能性もあるからね」

「はぁい……人前ではナイフとか持たないようにします。というか……主様のお城の地面にクレーターができるほどの威力ですからね。当たったら大抵の人は死にますよね……主様は平然と受け止めてましたけど。前も、今も」

「僕はおかしい部類だからね。僕を基準にしちゃ駄目だよ」

「あ自分で言うんですね」


 ユリがそう言いながらヴェルディーゼからナイフを受け取り、これはただの道具と意識しながら追加の野草を切ってスープに入れた。

 軽く味を見てユリが頷くと、ヴェルディーゼがスープ用の皿を創り出してユリに差し出す。

 神なので無から有を創ることなど朝飯前なのだ。

 まぁ、ヴェルディーゼがおかしいだけなのだが。


「どうぞ〜。熱いので気を付けてくださいね」

「うん。あ、美味し……熱っ」

「言った傍から!? だ、大丈夫ですか? 火傷しました? 冷やします? 水、水を汲めば……っ」

「大丈夫だから。この程度で火傷なんてしないよ」

「本当ですか? と、とりあえず水を……」

「本当に大丈夫だから、落ち着いて。……どうしてもって言うならユリがその手で……」

「お……っ、襲われた日からセクハラ発言が増えてる気がするんですけどもしかして味占めました!? 嫌ですよセクハラジジイ主様は!! 気持ち悪い発言は抑えてください!!」

「……そっか。そんなに嫌ならやめるけど……はぁ、発言そのものは嫌なのに言ってるのが僕だから嬉しさも感じて複雑な表情をするユリ……可愛かったのになぁ。そしてその後、嬉しいとも感じる自分を手遅れだと感じつつ手遅れだと自覚できるだけまだマシだって言い聞かせる姿が……」

「す、全てを見透かされているっ!?」


 ユリがそう言って自分を身体を抱き締めた。

 割と手遅れなレベルの大きさの恋心がユリにはあるので、嫌悪感を抱くことはないもののだからと言って自分の感情全てを見透かされていては流石に怖い。

 そんなわけでぷるぷると震えるユリをヴェルディーゼが非常に楽しそうに眺める。

 ――と、そこでヴェルディーゼがふっと唇を緩めた。


「もう大丈夫そうだね」

「……あ……クーレちゃんのこと……ですか? 私が凄く心配していたから……」

「そうだね。心配するなとはもちろん言わないけど、あまりにも引き摺って、そればかりに気を取られているのは良くない。せめて、周囲に目を向けられるようになって……ちゃんと笑えるようにならないと」

「……はい。まぁ、もう奥まで来ちゃいましたし……今更戻っても、ってお話でもあります。……進んだ傍から目印消えちゃうし」

「こういう展開になることは想定してたんだろうね。クーレは最初からずっと冷静だったし。だからこそ、僕達が戻ってくることも危惧してたんじゃないかな。時間差で消えてたしね」

「え、時間差で消えてたんですか」


 ぱちぱちとユリが目を瞬かせた。

 クーレが用意していた目印が消えていることに気付いたのはユリだ。

 ヴェルディーゼを見失って辺りを見回していたところ、自分達が通った痕跡はあるのに目印が消えていることに気付き、真後ろにいたヴェルディーゼにユリはそれを報告したのだから。

 自分はしっかりと一つ一つ報告しているのに、この人はどうして軽くでも気づいたことを言わないのだとユリがヴェルディーゼをジト目で見る。


「……むぅっ。確かに主様に報告をする義務はありませんけど……無いの、ですけど」

「ごめんごめん。……本当、用意周到だね。そんなに関わらせたくないのか」

「大切だからと考えれば悪くはないんですけど……でも、やっぱり頼ってくれてもいいと思うんですっ。ううぅ……戦えないわけじゃないのにぃ」

「生きるための殺生すらできないユリが本当に戦えるのか、甚だ疑問ではあるけどね?」

「ひどい。いや正論ですけど……だって、私がしてきたのって戦う練習であって殺す練習ではないでしょう。それなのに、いきなり殺せなんて……む、無理ですよ。平和な場所で生きてきたんですし」

「……まぁ、僕が守ればいいか。ほら、ユリもしっかり食べて。もうしばらく掛かると思うから、しっかり栄養を摂らないと」


 ユリが頷き、自分で焼いた肉にぱくりと齧り付いた。

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