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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
クローフィ・ルリジオン

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別れの覚悟

 ヴェルディーゼに手を引かれ、ユリがよたよたと歩く。

 命令によって抵抗はできない。

 しかしどうしてもクーレが心配なユリは、進んで歩くこともしなかった。


「……っ、ひっ……ぅ、あ、主様……」

「……クーレはそんなに弱くないよ。大丈夫」

「で、でも……外には、人がたくさん、いて……このままじゃ、クーレちゃんが……」

「……行くよ」


 優しい声でヴェルディーゼがそう声を掛け、ぐっとユリを引っ張った。

 そして、クーレが言っていた花瓶の裏に手を回し避難用の通路を出現させる。

 中は静かで、灯りもほとんど無く真っ暗だった。

 例え中に誰かが入ってきたとしても、息を潜めればバレることはないだろう。


「……クーレ、ちゃん……」

「……少し休もうか。入口に僕の魔力を放っておけば、敵が来てもわかる。クーレが来ればこのまま待っていればいい」

「……でも、クーレちゃんは……早く行って、って」

「大丈夫。クーレもたぶん、念の為だろうから……ほら、ユリ。精神の方の消耗が酷いよ。少しでも休むべきだよ」

「……でも」

「大丈夫、少し休めば良くなるよ」


 ユリが俯き、小さく首を横に振る。

 クーレのことが心配で、眠ることすらできないらしい。

 しかし精神の消耗は甚大で、ヴェルディーゼがユリの頭を撫でると一瞬で眠りについた。

 ヴェルディーゼはそんなユリを見下ろし、少し考えてから上着を脱ぐとユリに掛けてやり、そっと息を吐いた。



 クーレが住まう屋敷の正面玄関の前。

 そこは、辺りが真っ赤に染まり、凄惨な有り様となっていた。

 ぽたぽたと、何の変哲も無い長剣から血が垂れる。

 吸血鬼であるクーレは武器を使わず、吸血鬼の能力で戦う。

 ならば、その剣は。


「……殺さ、な……」


 ザシュ、と鋭い音が響き、ごろりと何かが地面に転がった。



 眠りについていたユリが、ゆっくりと目を開く。

 そのまま身体を起こすと、ユリの身体にはヴェルディーゼの上着が掛けられていてその服の持ち主はその場にいなかった。


「……主、様……? どこ……あ、……そう、そうだ、クーレちゃん……! クーレちゃんはっ……」


 ユリが慌てていると、コツ、と足音が響いた。

 その音にユリは安堵と落胆が入り混じった表情になり、そっと通路の奥を見る。

 そこには、上着を脱いで白いシャツのみを着たヴェルディーゼがいた。


「……ああ、起きたんだね。精神の方は……うん、良くなってる」

「……どこに、行ってたんですか?」

「奥……出口から気配を探ってたんだよ。裏側には人はいないみたい。表までは探ってないけど……」

「……そう……です、か。……」

「そんなにクーレのことが大切?」


 ヴェルディーゼがユリと視線を合わせるようにしゃがみながらそう問うと、ユリが少し目を丸くした後に躊躇うことなく頷いた。

 そして、通路の奥を気にする素振りを見せながらぽつぽつと語る。


「だって。……だって、クーレちゃんは……この世界での……異世界での、初めての友達です。異世界で初めて出会った人です……特別じゃないわけがありません。なのに……こんな、別れ方……生きてるのか死んでるのか、怪我は無いか……安否もわかっていないのに、ここから出ていくなんて……」

「……ユリ。これからも一緒に仕事に付いていきたいって言うなら、覚悟しないといけないよ。異世界で出会った人々……それらを大切に思うのはいい。きっと、当たり前の感情なんだろうから。だけど、呆気なく別れはやってくるってことは、理解して覚悟しておかないといけない。今回は……確認できてないから、どうなったのかはわからない。でも、無事の可能性は充分にあるよね。……でも、次も、その次も……ずっとそうなると思う?」

「……」

「そんなわけがない。そんな奇跡があったとしても……人間と神じゃ時間感覚が違いすぎる。世界間での時差もある。……だから、覚悟しないといけない。呆気ない別れを」

「別、れ……」

「言い方は悪いけど……こんなことで心が折れかけているなら、もう来ない方が良い」


 ヴェルディーゼの言葉にユリが息を呑んだ。

 ぐるぐると思考が空回り、ユリが辛そうに蹲る。


「……どちらにせよ。今はユリを一人にできないから、この世界には居てもらうよ。だから、結論はゆっくり出せばいい。ただ、考えておいて」

「……わかり、ました。……。……クーレちゃん……無事だと、いいんですけど……」

「そうだね。せめて、無事を祈っておこうか」


 ユリがゆっくりと息を吸い、気を取り直してそう言うとヴェルディーゼがそう返事をしてユリに手を差し出した。

 ユリはその手を掴んで立ち上がると、自分に掛けられていた上着を軽く叩いて汚れを落とす。

 そして、控えめに微笑むとそっと背伸びをしてヴェルディーゼに上着を掛けた。


「……ありがとうございました。私が眠っちゃったから、掛けてくれたんですよね」

「ああ、うん。万が一敵が入ってきても黒い布でも掛けておけば誤魔化せそうだったからね。そのまま放置もできないし」

「……そんなに疲れてたんでしょうか、私……」

「精神の方が、ね。ユリは身近な人が死にかけるなんて事態に出くわしたことはないでしょ」

「……クーレちゃんは死にかけてないです。……うぅ、助けに行きたいけど……それは、クーレちゃんも望んでいなくて……うううぅ。……我慢します……主様、命令なんておふざけでしか使ってきませんし。クーレちゃんが、巻き込みたくなくてここに行かせたのも……わかっていますから」

「うん。じゃあ、行こうか」


 ヴェルディーゼがそっとユリの手を引き、奥へと足を進めた。

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