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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
クローフィ・ルリジオン

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襲撃

 それから、ユリはクーレの部屋に向かい仲良く話をし始めた。

 ヴェルディーゼはそれを微笑ましく眺めながら話には入らず、部屋の端で壁にもたれかかって腕を組んでいる。


「クーレちゃん、主様って強いんですよ? どれくらいかと言うとー……えっと……うーんと……」

「強いことはなんとなく感じ取ってたけど……例えが浮かばないくらい強いんだ? ちょっと気になるかも」

「……えーっとぉ……あ、主様! 例えを! ください!」

「この世界で一番硬い鉱石を素手で捻じ曲げたり一撃で砕けたりするよ」

「え……怖いね」

「よく私生きてますね」

「手加減してるからね、模擬戦で怪我させるのは良くないし」

「えっ、あっ、そっ、ソウデスネ!」


 ユリの目があからさまに泳ぎ、言葉も何故か片言になったのでクーレがじとりとユリを見た。

 若干赤くなった頬を見れば、何を考えていたのかなど一目瞭然である。

 ちらりとクーレがヴェルディーゼを見ると、頭を抱えていた。


「……ヴェルディーゼと2人きりならともかく、私がいる場でそういう発想でそういうこと言うのはあんまり良くないと思う……」

「はい……はい、ごめんなさい……思ったことがつい口から漏れ出まして……ごめんなさい……忘れてください……いやぁあ……主様ぁ……」

「……思ったことをすぐ口に出すのはやめようか?」

「わかってます! わかってます!! でもその教訓だけ残して記憶消せませんか!? 居た堪れないです! 逃げ出してもいいですか!」

「うーん……駄目」

「なんでですか! 意地悪しないでください! うぅ〜……クーレちゃん、主様がいじわ……クーレちゃん?」


 ぱち、とユリが目を瞬かせてクーレを見た。

 ユリが羞恥に悶えている間に、クーレは何やらとても険しい顔をしていた。

 クーレはそのままの表情で立ち上がり、部屋の隅にある水晶に手を伸ばす。

 尋常でないクーレの様子にユリが口を閉ざし、ゆっくりと息を吸って窓から外を見た。

 遠くに複数の人影が見える。

 その人影は真っ白な装束を身に纏っており、その顔は見えなかった。

 ユリが気配を殺して壁に背を付ける。

 そして、少し低い声でクーレに話し掛けた。


「……クーレちゃん。あれは……」

「部屋から出て右に曲がったところの突き当たり」

「……え?」

「花瓶の裏に避難用の隠し扉を起動させる魔法が仕掛けてある。2人も起動できるようにしておいたから、そこから逃げて。屋敷の裏に出れるから、見つからないはず」

「で、でも……クーレちゃんは……?」

「私は大丈夫だから、気にしないで。早く行って……森を抜ける道は、私の血で木に目印を付けておいたから。見つけるのに多少手間取るかもしれないけど、それを探せば出られるよ。森を出てすぐに街が見えるよう、ちゃんと目印を付けておいたから」

「だ、駄目ですよ、クーレちゃんを置いていくなんて……怪我をしたらどうするんですか! 私も残ります! 主様ほど強くはないですけど……私だって戦えるんですよ!」


 冷静に2人を逃がそうとするクーレに、ユリは泣きそうな顔でそう言った。

 クーレが死ぬと思っているわけではない。

 しかし、死ぬ可能性が無いわけでもないのである。

 だからユリは心配で、何とかクーレを説得しようとする。

 静かな声で早く行ってと繰り返すクーレに、ユリが尚も食い下がろうとしていると、黙っていたヴェルディーゼがユリの手を掴んで扉の方へ引っ張った。


「行くよ、ユリ」

「あ、主様? なんで……なんでですか!? どうして! 見捨てろって言うんですか!? 怪我をするかもしれないのに!? このままクーレちゃんを置いていけるわけないじゃないですか! 離してください! 行きません! ここで、ここで私はクーレちゃんと一緒にっ……!」

「……〝行くよ〟」

「……あっ……」


 ヴェルディーゼが掴んでいる自分の腕から不自然に力が抜け、ユリが小さく声を漏らした。

 眷属契約による命令の影響だろう。

 命令の強制力により抵抗もできないユリは、ヴェルディーゼに引き摺られながら泣きそうな顔でクーレを見る。


「く、クーレちゃ……」


 ぱたん、とヴェルディーゼによって扉が閉められた。

 2人の姿が見えなくなり、クーレが部屋の中で俯く。

 本当にこれで良かったのか、とクーレがぐるぐると頭の中で自問自答を繰り返し、少ししてから頭を振って思考を振り払う。


「……これで良かったんだ。死にに行くわけじゃない。2人を巻き込むわけにもいかない。……だから、これで良かった。……ああでも、2人には悪いことしちゃったなぁ……ユリにはあんな顔させて、あんなに心配掛けて……ヴェルディーゼには、あんな役割を背負わせちゃった。あんな顔するユリを引き摺って出ていくの、辛かっただろうな。……ふふ」


 くすりとクーレが微笑み、扉を開けた。

 そして、玄関へと足を進めながら呟く。


「だから……大丈夫だったよって、ちゃんと言えるように。あいつらを、しっかり追い払わないとね」


 元より2人を逃がしたのは、2人を巻き込まないようにするため。

 彼らとクーレの実力には雲泥の差がある。

 ただ、再会した時に向かい合って笑い合えるように、と。

 クーレは心に決めて、玄関の扉を開けた。

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