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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
クローフィ・ルリジオン

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問題とユリの才能

 翌朝。

 ベッドの上でユリとヴェルディーゼが向き合うように座っていた。

 ヴェルディーゼはユリを抱き締め、腰の辺りを支えている。


「ぅー……酷いです、私は拒否したのに……命令の強制力が憎い……」

「合意の上だよ」

「命令で言わせたくせに何が合意の上ですか! 読心できるんですからわかっているでしょう、もう!」

「心の奥底では嫌がってなかった」

「そうだったこの人深層心理まで読み取れるんだった。いやでも!」

「よしよし。勉強の続きしようねー」

「なんで私が子供みたいな扱いされてるんですか!? 無理矢理だったんですから正当な文句だと思うんですけど!」

「昨日はどこまでやったっけ。確か一旦2人で全部読んで――」


 ぎゃいぎゃいと不満を露わに騒ぐユリを無視し、ヴェルディーゼが昨日勉強したことについて思い出しているとコンコンとノックの音が聞こえた。

 間髪入れずにユリが入室を許可すると、扉が開いてクーレが顔を出す。

 そして向かい合っている2人を眺め、クーレがくすりと微笑んだ。


「随分お盛んだったみたいだね」

「ゔっ! ……く、クーレちゃぁん……違うんですよ、これは主様が……主様が悪いんです……」

「……ヴェルディーゼ。詳細は知らないけど……私にもユリにも、迷惑は掛けないでね?」

「掛けてない……いや、クーレには……ちょっと掛けてるかな?」

「私には掛けてないと?」

「大して掛けてはないかな。本当に嫌がることをやった覚えはないよ」

「……んんー……まぁ、あれは必要なことだったから例外として……いや、主従関係は無理矢理じゃないですか!」


 ユリは大した説明もされず、魔法で強制的に頷かされてヴェルディーゼの眷属になることに同意した。

 実際に為された説明は〝転生〟で、まともな説明すらされていないがそれはともかく。

 ユリが呟いた通り、銃を突きつけられた時の反応を確かめるテストは必要だったので例外。

 色々と強制されてはいるが、確かに嫌がることはほとんどされていないのだ。


「ごめんね、どうしても欲しかったから」

「……うぐぅ……手遅れ過ぎて何も言えない……うれしい……」

「嬉しいんだ?」

「救われて見事に恋に落ちてるんですからそりゃあそうですよ!」

「……空気が甘くなってきた……はぁ、ユリが嫌がってないならいいよ。もう少しここで休んでて。あ、そうだ、勉強の調子はどう? 早くから、その……うん。……勉強そっちのけでイチャイチャしてたみたいだけど」

「粗方頭には入ってるとは思います、けど……どうでしょう」

「あれ、早いね。今日はみっちりやらせないといけないと思ってたけど……」

「じゃあ軽くテストしてみようか。んー……ユリに問題」


 クーレがそう言うと、ユリがベッドの上でもぞもぞと気怠そうに動いてクーレの方を向いた。

 動きが緩慢なだけで答える意思はあるようなので、クーレが少し考えてからユリに向かって問題を投げかける。


「主に使われてる通貨の名前は?」

「クレス。確か、共通の通貨を普及させた王様の名前が由来ですよね? クレスは王様の名前を少しもじったもので……王様の名前は……ええと、なんだっけ」

「クローレスだよ。クローレス・ルリジオン。この世界で一番大きな国、吸血鬼が治めるルリジオン王国の三代目の王様。ルリジオンって名前は、この世界の名前から来てるんだ。そのままでしょ?」

「この世界の名前……クローフィ・ルリジオン。なるほどそのままですね」

「ルリジオンの名は一番大きな国だけが名乗れる、すっごく栄誉なものなんだよ。……あ、そうだ、次はヴェルディーゼに問題」


 少し楽しくなってきたようで、クーレがニコニコと笑いながらそう言った。

 ヴェルディーゼもクイズ形式で行われるテストは少し楽しんでいるらしく、ユリを抱き締めつつクーレに視線を向ける。


「忘れられがちなものの、ルリジオン王国で強く禁じられているものは?」

「……夜間の出歩き、で合ってる?」

「惜しいかな。ルリジオンでは色んな種族が暮らしているけど、吸血鬼の国だからね。当然吸血鬼の数が多いんだけど……吸血鬼は、夜に活動が活発になる。満月の夜は特に、本能が強く出ちゃうんだ。それで吸血鬼に他種族が襲われる事例も少なくない。だから、満月の夜の出歩きは強く禁じられてるんだ。うっかり外に出ちゃう人もいるんだけどね……私は関係ないけど」

「あー、満月か……うん、確かにそんなことが書いてあった気がする」

「あっ。確か満月の夜の影響が大きい吸血鬼は、申請すれば隔離や医者による鎮静などの措置が受けられんですよね。本に書いてありました」

「凄いねユリ、合ってるよ。病気じゃないし、どうしようもないからね。人を襲うのだって本望じゃない。家で大人しくしていることが困難なほどに影響が酷い人はそういう措置を受けられるよ。あ、あと家族に危害を加えちゃう人とかかな」

「……よく覚えてるなぁ……」

「主様はこういうの得意だと思ってました。なんか有能そうな雰囲気出してますし」


 ユリが意外そうにそう言うと、ヴェルディーゼが苦笑いを零した。

 そして、更にユリを抱き締めてその頭を撫でる。

 突然の行動にユリが目を白黒させ、照れるように頬を染めてあわあわとヴェルディーゼの手を振り払い始めた。

 とはいえユリも満更でもない様子で、砂糖を吐きそうなほどに甘い空間ができあがり始めたのでクーレが一言好きに休んでくれていいからと告げ、部屋から退散した。

 それを見届け、ヴェルディーゼがふっと息を吐く。


「ひゃ……耳元でそんな風に息を吐かないでくださいっ。怒りますよ……」

「耳弱いねー。……ねぇ、ユリ」

「え、はい……なんですか?」

「……もしかして凄く頭良い?」

「……へ」


 唐突なヴェルディーゼの発言にユリが固まった。

 そして、ゆっくりとヴェルディーゼの発言を理解し、わなわなと口元を震わせる。

 ユリが顔を真っ赤に染め、ヴェルディーゼを見上げて思いっきり睨んだ。


「な……なんですかそれ! 人のこと馬鹿だと思ってたんですか!」

「わっ、あ、ああ……言い方が悪かったね。思ったより覚えるのが早かったから……」

「ばかばかばかばか! 主様にそんな風に思われたくないぃっ」

「もう認識は改めたから、落ち着いて……いやほら、不思議だったんだよ。親友と一緒にいるために、凄い高校を受験して受かったんでしょ?」

「そうですけど、それがなんですか」

「猛勉強して受かって、それなのに入ったあとは勉強なんてほとんどしてなかったから。テスト前に少しやってたくらい? それでも趣味に割く時間はそれなりに多く確保してたよね」

「それは……そうですよ。良いところですから、試験だって中学の授業分だけじゃ賄いきれない部分はあります。凄い塾とか学校とか通ってる前提っぽかったですし……とにかく、そこは自力で勉強しなきゃいけないんですから。大事な受験ですし、必死にもなります」


 それがどうしたのだと言いたげな態度でユリが言うと、ヴェルディーゼが優しい表情で頭を撫でた。

 そのまま、ヴェルディーゼがかつて自らの城から覗き見ていたユリの受験後の生活を思い返す。

 確かに、受験前は必死だった。

 入学試験でも必死だった。

 面接の対策も必死に行って、合格していた。

 だが、必死だったのはそこだけだった。

 入学後の定期試験は大した勉強をすることもなく余裕で上位に食い込み、軽い予習と復習こそすれど大した勉強も行わずに授業に付いていく。

 勉強をしていなかったのは、ただ勉強嫌いなだけだろう。

 名門校と呼ばれるそこで、勉強嫌いで大した勉強をしていないにも関わらず、ユリは平然と授業に付いていっていた。


「……入学試験。拍子抜けだったんじゃない?」

「うえっ? あ、う……まぁ、そうですね……想定よりは、ですけど。あれは私が必死になりすぎちゃってて……」

「記憶力もそうだけど……ただの丸暗記って感じでもない。賢いというより……効率的に知識を吸収する方法を理解してる? いや普通に頭も良いか。……そもそも頭脳が一般人と違う……?」

「え、あの……?」

「いや、それはいい。どうでもいい……ユリ」

「は、はいっ!」


 ヴェルディーゼの手がゆっくりとユリの髪を撫でる。

 紅い瞳がユリの姿を捉え、ゆっくりと細められた。


「嬉しい誤算だね。賢い子は好きだよ」

「……普段見せないようにしてるところが出てますよー……」


 ユリが目を逸らしながらそう言うと、ヴェルディーゼが目を丸くした。

 そして、頭に手を当てるとゆっくりと深呼吸し始める。

 それをユリが心配そうに見つめ、そっとヴェルディーゼの黒髪に指を通した。

 そして、迷いながらもそっといつもヴェルディーゼが自分にするように頭を撫でる。


「……ん、ありがとう。大丈夫だよ」

「いえ。……別に隠す必要もないですけどね……命を狙われたりしない限りは受け入れる所存ですよ」

「僕が嫌なんだよ。ユリへの好意に関係することなら、なるべく隠さないけど……あれは違う。……実験動物とかに向ける興味みたいなものだよ」


 ヴェルディーゼが苦虫を噛み潰したような顔をしてそう言うと、ユリが少し頬を引き攣らせた。

 そして、ヴェルディーゼを見上げて言う。


「それは……だいぶ嫌ですね……受け入れますけど……」

「寛容だね。……そういえば、ユリって観察眼も中々のものだよね。前は僕の複雑な感情にも気付いて、隠さなくていいって言った。さっきのも見せないようにしてるって伝えたことはないはずだけど。それから、クーレのことも……隠し事はしてるって気付いてるんでしょ」

「そうですね、でも強く追及するつもりもないです。悪巧みとかしてる雰囲気でもないですし」

「……そうだねぇ。……ちょっと寝よう。ユリは好きにしていいよ、でも僕は……少し休んで、落ち着かないと……」

「はい。おやすみなさい、主様」


 ヴェルディーゼが寝転がるとユリがそう言い、しっかりと寝付いたのを確認してからその腕の中に潜り込んだ。

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