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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
クローフィ・ルリジオン

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クーレの隠し事

寝坊して投稿が少し遅めになりました。

 自分の部屋の中で、クーレが静かに椅子に腰掛けていた。

 その表情は物憂げで、どうやら何か考え事をしているらしい。


「……どこまで話そうかな。2人は信用できそうだけど……全部を明かすわけには行かないし。……万が一も、ありえないわけじゃない。正直、2人には怪しいところもある……けど。……ああ。ずっと1人だったから、独り言が増えてる……でも、前は無意識だったし……自覚できてるだけいいのかなぁ」


 クーレがぶつぶつと独り言を呟き、退屈そうに頬杖を突いて目の前にある水晶に手を翳した。

 すると、水晶の内側が変化し始め、ユリとヴェルディーゼの姿を映し出し始める。


『きゃぅっ!? わ、わああっ、だ、駄目ですよ、主様! クーレちゃんのお話だってまだあるのに!』

『ちょっとくらい平気だよ。別に何か変なことをしようとしてるわけでもないんだし。……まだ夜じゃないしね』

『夜だったら襲ってたってことですか!? 主様、自分の感情がよくわからないとか言っておきながらっんむむ!!』

「わっ……と、危ない危ない。あんまりプライベート過ぎるところは流石にね……全くもう。こっちまで恥ずかしくなってきちゃうよ……」


 クーレがそうぼやきながら水晶から手を離した。

 そして、ゆっくりと深呼吸をしながら考えを纏めていく。

 そのままじっとしてクーレが思案していると、ノックの音が響いた。


「……ユリ?」

「はい! 今、入ってもいいですか? 主様も一緒ですよ!」

「うん、いいよ。思ったより早かったね」

「ユリがいたから作業が捗ったよ。で、話って?」


 ユリを先に入らせ、ヴェルディーゼが扉を閉めながらそう尋ねた。

 するとクーレは一先ず座るように促し、何から話そうかと少しだけ沈黙する。


「……まず……私は病弱で、明るい街じゃ夜でも眩しくて……悪いと肌も焼けるから、ここで過ごしてるって言ったよね」

「はい。屋敷の中で説明されましたね、怪しいだろうからって」

「うん。ここは日中でも薄暗いから……まぁ、吸血鬼なのに夜にも街中を出歩けないなんて、致命的にも程があるんだけど。ああ、それはともかく……その、1つ……隠してたことがあって」


 申し訳なさそうに言うクーレにユリが目を瞬かせた。

 そして、もしかして隠し事をしているから1番ではなく2番だと伝えたせいだろうかと不安げに瞳を揺らす。

 それに慌ててそういうわけではないとクーレがユリを宥めつつ、隠し事を明かした。


「……私……この森も、屋敷も。全部、どこで何が起きてるかを把握できるんだ」

「……把握? ……って……あ。つまり、私達への接触も、偶然ではなく意図的に?」

「うん。……騙すような形になって、本当にごめんなさい。でも……偶然を装ってこそいたけど、良い人なら迷って飢えて……永遠に出れなくなってしまう前に、早く保護をしないとって思っていたのは本当だよ。ここは野生動物も凶暴なのが多いし……もちろん、騙すのは悪いことなんだけど……」


 クーレがしょんぼりと肩を落としながら頭を下げると、ユリが慌ててその手を握って顔を上げさせた。

 そして、そのまま慌てた様子で必死に頭を回転させ、クーレが謝る必要は無いと説明する。


「えっ、いえいえいえ! クーレちゃんは何も悪くないですよ! それって、たぶん、私達側の感情を考慮しての行動でしょう? 知らない人が急に現れて出るにはこっちの道の方がいいよ! とか危ないから屋敷に来よう! なんて言われたら怖いですし……だから、様子を窺っているふりをして、警戒していたということにして……急に現れたことに違いはないですけど、意識が〝怪しい人〟から〝自分と同じ道に迷った人〟もしくは〝この森に詳しい人〟になりやすい。そういうことですよね?」

「……い、言い当てられすぎて逆に怖いよ。いや、案外わかるものなのかな……」


 クーレが困った顔をしながら一歩下がると、ユリがショックを受けたように固まった。

 引かれてしまったと感じたのだろう。

 クーレちゃんに嫌われた、と涙目になってヴェルディーゼにくっつき始めたユリをヴェルディーゼが宥めつつ、クーレに視線を向けて微笑む。


「つまり、僕達の怪しさも重々承知の上で屋敷に招き入れた、ということだね」

「……うん」

「主様ぁ……? 怪しさってどういう……」

「突然森に現れた2人。警戒してたのも……本当。でも、ふらふら行く宛もなく歩いてる感じだったから、危険は承知の上で保護しに向かったんだ。いつもは人が迷い込んでも警戒してるふりをするだけなんだけど……今回は、本当に隠れて警戒してた。見破られるとも思ってなかったよ」

「……あっ」


 突然現れた、という発言でどうして怪しさなんて言葉が出てきたのかを察し、ユリが黙り込んだ。

 ユリとヴェルディーゼは転移で城から森の中に移動したのである。

 転移してきたのだから、突然現れたに決まっている。


「……あ、主様……どうしましょう……?」

「あっ、私は別に問い詰めるつもりはないよ。2人はこれまで、怪しい行動はしてこなかった。ユリは森に出て遭難し掛ける始末だし……」

「ひゃぐっ!? うぅっ……事実ですが! 事実ですが!!」

「ヴェルディーゼは……怪しまれないように行動してた印象だけど。でも、私について何か調べるわけでもなかった。むしろ、よく食糧を調達してくれてて……その、ありがとう」

「ううん、充分な量を集めないと不安だしね。自分のためだよ。少なくとも、はぐれても合流するまで凌げる量は必要だし……」

「……そう、だね。この様子だと目標を少し増やした方がいいかも……しょっちゅう迷ってるもんね……無闇に移動せず、移動するならするで目印も残してくれるからまだいいけど……」

「うう……反論したいのに……必要無いって言いたいのにぃ……ううぅ……自分の方向音痴ぶりが恨めしいです……」


 ユリが頭を抱えて蹲ってしまった。

 そのままぶつぶつと独り言を呟いて酷く落ち込むので、2人は苦笑いでユリを慰める。

 何も、ユリは方向音痴なことを自覚していないわけでもなく、知っていて努力していないわけでもないのだ。

 外を出歩く時は常にヴェルディーゼの傍にいて、少しだけ離れる時も声を掛けるし目の届かない場所には絶対に行かない。

 ふらふらと興味の惹かれるものに近付いていくわけでもない。

 正直なところ、もはや迷う要素はないのである。

 しかしそれでも迷う。

 ユリはとにかく道を覚えられないので、道も何も無い森の中では覚えることを半ば放棄しているが、それ以外の努力をしていてなお盛大に迷うのだ。

 今回目印があったとはいえ1人で帰れたことが奇跡かと思えるほどに、ユリは迷うのである。

 ちなみにヴェルディーゼは魔法的な要因があるか、あるいはユリの鎌と深淵魔法しか使えないという体質と同じようにそういう体質なのではないかと疑っている。

 ヴェルディーゼが見ていた限り、元の世界ではふらふらして迷ったり道を覚えられなかったりはあれど、人にちゃんと付いて行っても迷うことはほとんどなかったので。


「まぁ、ユリの方向音痴の話はともかく。騙してたことを謝りたかったんだね?」

「うん……いつまでも隠しておくのは、良くないかなって思って」

「……そうだね。言えないこともあるだろうけど、理由が無いのに隠しておくのは落ち着かないだろうね」

「……。……うん……そういうわけだから。ごめんね、時間取らせちゃって……」

「あ、謝らないでください……気にしなくていいですから、ね? クーレちゃんが話してくれて、私は嬉しいです」

「……ありがとう、ユリ」


 クーレが柔らかく笑ってそう言うと、ユリも満足げに微笑みを返した。

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