様子のおかしいユリ
翌日。
よく眠り、気持ちよく目覚めたユリは、随分とテンションが上がっていた。
そのままの気分で身支度を整え、タイミングを見て悠莉と龍也を起こし、全員の支度が終わるとユリはスキップでもしそうな動きで、案内に従って城から出る。
なお、ヴェルディーゼはユリよりも先に起きていたので準備万端である。
寝ているかどうかも怪しいが。
「おっはよーございまーっす皇帝陛下ぁー! ごきげんよー!」
「……どうした……?」
「通常運転ですが! これが!! 私はいつもこうですよー今までがおかしかったんですよー!!!」
「いつにも増して騒がし……様子がおかしいと思うけど」
「主様って私に対しても辛辣なとこありますよね。そういうとこも好きです愛してますよ主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様ぁ!!!!!」
「怖い、怖いからやめて……」
早口で好意を伝えてきたと思えば、主様と連呼してくるユリにヴェルディーゼが嫌そうにそう言った。
するとユリはぴたりと動きを止め、不満そうにしながら冷静を装って声を掛ける。
「……んんっ……では、皇帝陛下。改めまして、大変お世話になりました。数日間、城に泊めてくださったこと、心より感謝申し上げます――ハイじゃー出発しましょー! いえーいしゅっぱつしんこ〜!」
「本当にどうした!? 療養するか!?」
「元気なのにするわけないでーっす! 馬車ありがとーございますねー! 乗りましょ乗りましょ〜う!」
高すぎるテンションのままユリが馬車に乗り込んだ。
ぐいぐいとヴェルディーゼと悠莉の腕を引っ張り、龍也にもキラキラとした目で早く来るよう促して、全員が乗り込むと馬車は出発する。
グルーディアは呆気に取られた顔のままで、ユリはそれを楽しそうにけらけらと笑った。
「びっくりしてますね! なんででしょう!」
「……えっと……ヴェルディーゼさん。これ……ユリ、どうしよう……?」
「沈めた方が早そうなくらい騒がしいな……えぇ……? なんで……? 昨日はそこそこ大人しかったのに……」
「ヴェルディーゼさんにもわからないのか……なんか、変なものでも食べたとか?」
「ユリ、まだなんにも食べてないよ。飲み物は……うん、水を飲んでたくらい。間違ってお酒飲んだとかでもない。まぁ、そもしもお酒が部屋にあるわけないしね……」
「みんなして酷いですよぉ……っていうか、主様はこっちに意識向けてていいんですか?」
「半分くらいは意識あっちにあるから大丈夫。何かあったら向こうを優先するけど」
ヴェルディーゼがそう言って肩を竦めた。
全員に心配されてしまったので、ユリは胸に手を当てて言う。
「……いかに自分が不調だったのかを自覚して……体が軽くなって、心が軽くなって、楽しくなって、ふわふわして……今にも暴れ出したい気分なだけですよ!! 私は今、ゲームのアプデ情報が出た時とかガチャで神引きした時みたいなテンションです!!!」
「僕には一切伝わらない例え話をしないで……ああ、でも確かに、定期的に暴れてたっけ」
人間だった時のユリの様子を思い出し、ヴェルディーゼがそう呟いた。
とりあえず、体が軽くなった影響というだけらしいので、心配はしなくていいだろう。
そう判断をしたヴェルディーゼは、そっとユリの頭を撫でてから言う。
「じゃあ、この状態はいくらか効率が落ちてるし……僕は、向こうに集中するね。二人のことは任せたよ。でも、何かあればすぐに僕を呼ぶこと。切羽詰まってなければ、すぐに対応するから」
「はーい! あっ、そうそう……主様、ご飯の時って呼びます? 一応、絶対必要なわけじゃないですよね」
「そうだね。……夜だけ、にしておこうかな。半分は向こうに意識を向けておきたいから、ユリの料理だけに集中できないのがもどかしいけど……本当はたくさん食べたいけど……」
「……ゆうちゃんさえ良ければですけど……お昼ご飯とか、少しだけ残しておきましょうか?」
「いや、いい……他の時間にもこっちに意識を向けたくなっちゃうから……ああ、ユリ落ち着いてきたね。よかった」
ヴェルディーゼがほっとした表情でそう言い、ユリの頭を撫でた。
へにゃ、とユリの表情がだらしなく崩れ――焦った様子でヴェルディーゼが手を引くので、ユリは不思議そうにその手を見つめる。
まだまだ撫でてもらえると思っていた顔をしている。
「……ごめんね。またああなられると……困るから。後はセルフでよろしく……僕は向こうに意識を飛ばすから……」
「セルフサービスぅ……? ……まぁ、いいです。しょうがないですもんね……はあぁ。じゃあ、行ってらっしゃいませ。無理はしないでくださいね!」
ユリの言葉にヴェルディーゼが浅く頷き、目を閉じた。
寂しそうにその姿を見つめて、しかしユリは気を取り直して周囲の気配を探っておく。
「ん〜。街の中ですし、今はまだ大丈夫ですかねぇ……」
「ねぇ、結莉……大丈夫? さっきまで、あんな……」
「もう平気なので落ち着いてください。テンション下がってますしぃ〜……やることはちゃんとやりますけども。……ああ、リューくん。警戒は私がしておきますから、休んでいてください。主様が、少し無理をさせたって言ってましたし」
「え、でも……」
「私は別に、特別何かをしていたわけじゃないですから。ね?」
優しく微笑むユリに、龍也は渋々頷くと、警戒を止めて背もたれに背中を預けた。




