役割引き継ぎ
ごめんなさい、大寝坊です。
その後、悠莉と龍也が戻ってきたので、ユリは二人にこれからヴェルディーゼは基本的に傍にいるだけになる、ということを説明した。
「詳しいことは説明できないんですけど……まぁ、そんな感じで。主様はしばらく歩く置物になります」
「間違ってるわけじゃないけど、言い方もう少しどうにかならないの……? あと、危ない時は守るよ。細かいところに気を払っていられないだけだから」
「……というわけで! 主様はしばらく行動できないので、私が護衛と案内役を務めま〜す! えっと、なんか……この世界の資料とか、色々確認できるようにしてもらったので……頑張りますね……?」
「わからないところがあれば質問していいよ。ルスディウナと交戦してたりしてなければ答えるくらいはできるから」
ヴェルディーゼの言葉に、ユリがほっと息を吐き出した。
ルスディウナ抹殺のため、ヴェルディーゼはしばらくこちらでの行動が難しくなる。
差し当たって、ユリがこれまでヴェルディーゼがしていたことを可能な限りは引き継ぐわけだが、それに伴いユリはヴェルディーゼからいくつかの権限を与えられていた。
ヴェルディーゼは、全ての世界の最高管理者として、管理者権限を持っている。
そしてそれは最上位のものであり、だからこそ、自分はユリに権限を与えることができる、とユリはヴェルディーゼに説明された。
もっとも、それはごく一部の権限でしかないが。
ユリはヴェルディーゼの眷属であるため、そこそこ大きい権限を与えられてはいるのだが、ヴェルディーゼが管理しているものとは比べ物にならないのだろう。
ヴェルディーゼはユリに、楽そうでいいなぁ、という羨望の眼差しを一瞬だけ向けたりしていたので。
それはそれとして、ユリに自分の仕事を任せることを申し訳なくも感じているが。
「えっと……その、ゆうちゃん、リューくん。そんな感じで……大丈夫ですか?」
「もちろん、大丈夫だけど……私はユリが心配かな。やることが増えたんだよね。それに……その……私たちを、ヴェルディーゼさんに代わって守るんだよね。……それが、凄く……申し訳ないよ」
「そう、だな……もちろん、俺たちでやれる限りはやるけどさ……世界のために、死ぬわけにはいかないから……どうしても、頼らないといけない場面はあると思うし」
「気にしないでください。魔王討伐には間に合わせるそうですし……魔物相手なら、私一人で危なげなくやれますよ。たぶん。魔物の相手はちょっと慣れましたから」
ふふん、とユリが自慢げに胸を張りながらそう言った。
そして、すぐに真面目な顔をすると苦笑いしながら言う。
「二人の成長を奪うわけにはいきませんからね。基本的には、引き続き戦闘は二人に任せます。常に動けるようにはしますけど。だから、本当に気にしなくていいんですよ。……えっと……次の行動は……皇帝陛下に、すぐに帝国を出ることを伝えればいいんですかね。引き留められないといいんですけど……諦めてる、とはいえ……主様が行動できないって知られたら……」
「元々合流までって話だったし、きっと大丈夫だよ。……大丈夫……だよ、ね……?」
ユリが皇帝に好意を向けられているので、若干心配そうに悠莉がそう返した。
そう信じたいところだが、どうなるかは未知数である。
グルーディアは確かに今はユリのことを諦めているが、それはヴェルディーゼがいるから、というのが理由。
もしヴェルディーゼがしばらく行動できないと知られれば、どうするかどうかはわからない。
「……ふぅ〜。今悩んだってしょうがないですね。別に皇帝陛下には話さなくていいことですし。よし。えーとじゃあ……? 出立の予定については夕食時にって伝えたから……自由時間、ですかね……?」
「うん。明日には動きたいし、休んでおくといい。特に龍也には無理させたからね」
「何したんですか……?」
「移動は基本全力疾走だったし……人質を殺されないように、二人同時に救出する必要があったから……狂信者の対応もさせたし、救出もさせた。もちろん、僕がやれる限りの支援はしたけどね」
「え、すご……リューくん……そんなこと、私もしたことないのに……私よりも主様の役に立って……。……え? ……なにそれ、許せませんね」
途中まで素直に龍也のことを凄いと褒めていたユリが、すとんとその顔から表情を消し去った。
能面のような顔をするユリの目を塞ぎ、ヴェルディーゼが抱き締めて咳払いをする。
「ユリはまだ不安定だから気にしないで。大丈夫だから。というか、僕が大丈夫にするから」
「……私……私が、主様の、一番……なのに……」
「お願いだから落ち着いて。これからユリは役に立つでしょ? なんで僕がユリに自分の仕事を託したのかわからない?」
「……なんで……? ……私を一番信じているからですね!! 本当にマジでごめんなさいリューくん、正気じゃなかったんです本当に本当にごめんなさい」
「あ、いや……気にしてないけど……」
「それは良かったですけど本当にごめんなさい。主様にも迷惑掛けるしあ〜も〜……」
「大丈夫だから……このまま、僕は意識を他の世界に移すね? 大丈夫だからね」
「はぁい……」
ヴェルディーゼがユリの返事を聞き届けてから、そっと目を伏せて意識を他の世界に向けた。




