関係発展?
部屋に戻ると、悠莉はぎゅっと龍也に抱き締められていた。
空気を読んで、ユリは無言で気配を消し、音を出さずに扉を閉める。
「……関係発展……?」
「かなぁ。暇潰しで相談乗ってたし……」
「ふむふむ。上手く行ってくれてたらいいんですけど……ど、どうしましょうか。この雰囲気の中入っていくわけにも……」
「っご、ごめんね結莉! ごめんね!? もう大丈夫、もう入って大丈夫だから!」
「ひゃっ……!? ……あ、ゆうちゃん……え、本当に大丈夫ですか? 本当に?」
慌てて飛び出してきた悠莉にそう確認すると、悠莉はこくこくと何度も頷いた。
そして、ユリとヴェルディーゼの背中を押して無理矢理部屋の中に入れ、ほっと息を吐く。
ちら、とユリとヴェルディーゼの視線が龍也の方を向いた。
「ゆ……悠莉。その、二人の邪魔になるかもしれないしさ。ちょっと歩かないか?」
「えっ……あ、いや、私は……でも……結莉が、心配するかもしれないし……」
「もう大丈夫ですし、好きにしてもらって大丈夫ですよ。もう無事は確認できましたからね。……もちろん、嫌ならここに居ても大丈夫ですよ?」
「少し歩くだけだ。……ダメかな?」
「……嫌、じゃ、ないんだけど……。……ううん、わかった。ちょっとだけだからね……」
悠莉がそう言い、部屋から出ていった。
扉が閉められ、パタンと軽く音がする。
「……さて、主様」
「ん?」
「助けてくれて、本当にありがとうございます。大好きです愛してます好きすぎて死にそうです尊い」
「助けたばっかりなのに死なないで。僕も結構限界だから……もう気緩めていいよね……はぁ。……焦ったぁ……本当に良かった……」
ヴェルディーゼがそう言ってぎゅっとユリを抱き締めた。
それにユリはへにゃりと嬉しそうに微笑みつつ、咳払いをして言う。
「……あの、ごめんなさい……思うんですけど、主様、助けるの毎回一歩遅くないですか? 大事な時に限って」
「事前に対策をして、それでどうにもできないとそうなりがち、だね。自覚してる。……というか、ユリにもバレることなくどうにかできれば、ユリは知ることはないし……結果的にね……」
「え、あ、私が思うより助けられてるんですか。伝えてくれたら、お礼とかもっといっぱいするのに……いつもありがとうございます。お礼とかご褒美とか、ガンガン求めてくれて良いんですよ? ……じゃなくて、対策できそうならその辺どうにかしたいって話なんですけど、どうですか? イチャつき出したら止まらなそうなので先にしておきたいんですけど」
ユリがそう言うと、ヴェルディーゼがそっとユリの手を引いてベッドに腰掛けた。
そして、視線を少し遠くにやると、軽く眉を顰める。
「……難しいと思う。色々やって、それでもそれらをすり抜けるものがあるからユリに危険が及んでるんだし……完全には抑えきれない。……本当にごめん。本当なら、僕が全部……ちゃんとユリを守り切るべきなのに」
「あ、いや、主様を責めたいわけじゃなくて……」
「……でも、あそこまでして、ユリが傷付くのなら……もう、閉じ込めるしかないのかな。……時間を掛けて作り上げた、専用の鳥籠……あそこなら、誰にも突破できない。入り方は僕しか知らない……フィレジアも知らない場所。そう、あそこなら、誰かが情報を漏らすこともない……どこよりも安全な場所。もう二度と、こんな思いは……」
するり、ヴェルディーゼの手がユリの頬を撫でる。
甘い蜜のような瞳が、じっとヴェルディーゼのことを見つめていた。
そして、ユリはそんな瞳をしたまま、囁くように言う。
「ダメですよ、主様。私も、危ない目に遭うのは嫌ですけど……ダメです」
「なんで」
「なんでって。そりゃ……」
「……ユリが封印された時、僕は初めて泣いた。生まれて初めて、泣いたんだよ。ユリ以外に大切な人がいないわけじゃないけど……師匠が死にかけた時も、僕は簡単に覚悟したし、冷静だった。……あんなに動揺したのは、初めてだった……ユリ。僕にとってユリは、それくらい大切なんだよ。自分の命よりも大切。ユリを救うためなら、僕はなんだってする。……そうしてきた。……止めるのなら、僕は……」
「闇堕ちしないでください主様。主様の気持ちは、わかってます。だから、話を聞いてください」
困った顔をしながらユリが言うと、ヴェルディーゼがそっとユリを押し倒した。
そして、何もせず、黙ってユリを見つめる。
「あのですね。閉じ込められたら、デートとかできないじゃないですか。なのでダメです」
「えっ」
「私は、主様とデートしたいし、サプライズとかもしたいし……なのでダメです。主様、一つの部屋に閉じ込めようとしてますよね。お家デート的なこともできないじゃないですか。まぁ同じお城に住んでるんですけど……デートとか一切ないの、寂しいじゃないですか。……ね? だから、やめましょう? 頑張って、私も色々考えますし……もっと強くなりますから」
「……うん。……ごめんね、ユリ。不安定で……」
「しゃあっセーフ……! 危な〜……や、ヤンデレ監禁ルート、美味しいんですけど怖いのでダメです……あ、さっき言ったのは全部本当のことなんですけど! なんですけど……!」
「……ユリ……せめて、もうちょっと後で言えなかった?」
怒ったようにヴェルディーゼがそう言い、気の抜けた様子でユリの隣に転がると、ぎゅっと全身を使ってユリの存在を確かめるように抱き締めた。
ユリは一瞬照れるように頬を染めると、すぐに表情を取り繕って優しい表情をする。
「愛してます、主様。疲れたでしょう、甘えていいですよ」
「ユリ……今思ってることは?」
「恥ずかしくて爆発しそうですたすけてください。……でも、今すぐ添い寝はしたいです……」
ユリがそう答えると、ヴェルディーゼは満足げに笑ってもう一度ユリを抱き締めた。




