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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
再会の世界

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涙を拭い合う

 庇うようにユリの前に立ち、ヴェルディーゼがルスディウナを見据える。

 その紅い瞳には、冷酷な光が宿っていた。


「……こうも最愛の人を傷付けられて、腹に据えかねてはいるけど。生憎と、場所が悪い。お前には帰ってもらおうか」


 とても、とても低い声で、怒りを滲ませながらヴェルディーゼが言う。

 それにルスディウナはにっこりと笑みを浮かべると、軽く首を傾げて言った。


「あら、ヴェルディーゼ。あなたは魔法を使いたくないんでしょう? それなら、どうやって私を追い出すと言うの? 魔法は仕方ないとしても……」

「……ユリを殺すために、随分大掛かりな準備をしていたみたいだね? 流石に、僕も手間取ったよ。鼠の処理に、舞台の破壊に……ルスディウナ。……お前の()()の居場所を掴むのにも」


 ルスディウナが表情を変えた。

 それはどういう、とユリが意味を尋ねようとするよりも前に、ルスディウナは次の行動を決めたらしい。

 相変わらず憎悪で塗れた瞳でユリを睨んでから、一瞬でその場から消える。

 そうして、ルスディウナの気配は、この世界から完全に消えた。


「…………ばーかばーか。毎回毎回主様に負けて悔しがりながら逃げ去るクソダサムーブ乙で〜す……ふん」

「ルスディウナが嫌いなのは凄くわかるけど……口が悪いな。……頭は冴えた? 大丈夫?」

「は、い……まだ、ちょっとぼーっとします、けど。……ゆうちゃん……部屋に、置いてきちゃって。大丈夫でしょうか……?」

「ああ、大丈夫だよ。一応龍也に行ってもらったしね」

「……そう……ですか。……そっ……かぁ。……良かったぁ……」


 ユリがそう呟いて、震える手でヴェルディーゼの袖を握り締めた。

 そして、唇を噛み締め、ただただその場で震える。

 涙が、零れてしまわないように。

 そんなユリをヴェルディーゼが抱き締めると、ユリは思い切りヴェルディーゼに抱きついた。


「こわ、かったぁ。私……怖くて、……頭、全然回らなくて……真っ白で……でも、巻き込むわけには、いかなかったから……誰かが犠牲になっちゃいけないから……私が……どうにかしないと、いけなかったのに……っ」

「ユリはちゃんと時間を稼いだ。一歩及ばなかっただけで、今できる最善の対応をしてみせた。大丈夫、ユリはちゃんとやり切ったよ」

「で、でも……私……じ、自分で……自分の、目を……な、なんか、おかしくて……頭真っ白で、でも、従わなくちゃって、それでっ」

「落ち着いて、ユリ。ほら……顔上げて」


 浅く息を吐き、パニックになっている様子で訴えるユリにヴェルディーゼがそう言った。

 言われるがままにユリが顔を上げると、ヴェルディーゼと目が合った。

 ヴェルディーゼは優しく微笑み、そっとその頭を撫でる。


「ゆっくり息を吸って、吐いて。怖いことなんて何もないよ。もう大丈夫だからね。もう、ユリを傷付けるような人はいない。報復は……今は、考えなくていい。本当に、よく頑張ったね……直接相対して、自分じゃ勝てないって理解していただろうに。ほとんど何も考えられない状態で、それでも守ろうとしたんでしょ。偉いね……ユリは頑張って、そして、最善の結果を叩き出してくれたんだよ。大丈夫」

「……でも……私、変な洗脳みたいな……」

「あれは……たぶん、目が合っていることが条件かな。戦闘中に目を逸らすこともできないし、あれを防ぐことはできなかった。変にルスディウナの機嫌が悪くなる前にやられて、そして解けたんだから……最善のタイミングだったよ。誇っていい。僕はユリのことを誇るよ」


 真顔でヴェルディーゼが言うと、ユリがはにかんだ。

 そして、上目遣いでヴェルディーゼを見上げると、爪先立ちになってその首に腕を回す。


「……頑張りました」

「うん」

「頑張ったん、です。……わたし……ちゃんと、できましたか」

「ちゃんとできた、どころの話じゃないよ。やれるだけのことを成し遂げたんだから。あんな決断、そう簡単にできるものじゃないよ? 思考を手放すなんて」

「……はい」

「ユリ」


 優しい声で名前を呼んで、ヴェルディーゼがその頭を撫でた。

 そして、改めてユリを抱き締め直して、囁く。


「泣いていいよ」

「……ぁ、」

「ちゃんと、泣いていい。押し殺さなくていいんだよ。もう気を張らなくて大丈夫」

「……ふ、ぅ、……ぅあ」

「頑張ったね。凄く頑張ったんだよね。……遅れて、ごめん……ごめんね。生きてて良かった……」

「……あ、……あぁあああああ゛あ゛っ……! う、うぅぅああああああああ……! ……っ、ひぐっ……こわ、かったぁ……! わた、私、死ぬんじゃないかってっ……みんな巻き込んで! 最悪で、最低な終わり方をしちゃうんじゃないかって……! ……こわ、くて……怖かった、です……っ、主様、いなくて、不安でっ……置いていかないでぇ……置いていかないって言ったのにぃ……っ」


 泣きじゃくるユリの涙を拭いつつ、ヴェルディーゼが目を伏せる。

 そして、少し暗い表情をして口を開いた。


「……ごめんね。緊急事態だったから……いや、言い訳にしかならないな。あれは……僕の判断が間違ってた。ルスディウナに居場所がバレてるのもわかってて、ユリのこともわかってて……それなのに」

「……ん、ぅ……だ、だい、じょうぶ……です。……頼られて、嬉しかったから……だから、泣かないでください……」

「…………そっか。ありがとう、少し心が軽くなったよ。……大好き。愛してる」

「……私も……大好きですし、愛してます。……ふへ……」


 ふにゃ、とユリが笑って、ヴェルディーゼの目元に浮かんだ涙を指で掬ってから、そっとその胸元に顔を押しつけた。

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