お見送りと演習準備
それから、シルヴィアが呼ばれたので、ユリと悠莉もそれに同行し、三人は帝国の城の外に立っていた。
目の前には馬車があり、護衛であろう騎士がその傍に立っている。
「はぁ〜……シルヴィア、行っちゃうんですね。寂しい……」
「ふふ、私もよ。でも……行かないといけないから」
「はい……止めませんよ。ただ、何事も無く目的が完遂できるよう、願っています」
「うん。私も止めない、けど……私も、結莉みたいに何かプレゼントとかできたら良かったんだけど。生憎、形にはできなくて……ごめんね」
「気持ちだけで充分よ。そんなに落ち込まないで頂戴……あら、皇帝陛下。ご機嫌よう」
シルヴィアが歩いてくるグルーディアに気が付き、カーテシーをした。
悠莉もその姿を確認し、深々と礼をする。
そして、ユリは面倒そうにこっそりと息を吐くと、軽く頭を下げてシルヴィアへと視線を戻した。
「ユリ……」
「無礼は承知の上です。でも、知ったこっちゃないですよ。本来なら、もうちょっと丁寧に接するべきなんでしょうけど……私にあんな目を向ける人には絶対嫌です」
「……ええ、わかっているわ。色々と……言いたいことも、あるにはあるけれど……一先ずの別れ、苦言はやめておきましょう。ユリ、ユーリ……元気でね。また会いましょう」
「うん……また会おうね」
「絶対ですよ、シルヴィア」
シルヴィアは二人の言葉に嬉しそうに微笑むと、グルーディアに向かって感謝の言葉を告げてから馬車に乗り込んだ。
馬が走り出し、馬車が遠くへと去っていく。
「……行っちゃったね。……本当に、怪我とかしなければいいんだけど……」
「はい……そうですね。近くにいれば守れるんですけど」
寂しそうに肩を落としながら二人がそう言い、グルーディアを見た。
悠莉はユリの一歩前に出て、緊張した面持ちでグルーディアを見上げる。
「……そんな警戒すんな。手を出すつもりはねぇよ」
「結莉は嫌がっているので」
「チッ……面倒くせぇな。まぁいい、行くぞ。朝食ができてる、食うだろ?」
「……頂きますけど……」
「席は正面で我慢してやるよ。わかったら早く来い」
グルーディアがそう言って城内へと入っていった。
その背中を眺め、二人は顔を見合わせると、手を繋いでグルーディアに付いていく。
これから特訓もあるので、朝食は抜くわけにはいかない。
それから、ユリはグルーディアの正面で居心地の悪さを感じながらも朝食を取り、演習場へと来ていた。
悠莉は他人に支援の魔法を掛けることで特訓をしたいので、演習場には人がたくさんいる状態である。
「人、いっぱいだね……伝達はされてるみたいだけど……大丈夫かなぁ」
「うーん……。……怖がらせるようで申し訳ないんですけど、一応、可能性として……ゆうちゃんの力が知られたら、それを狙われる可能性はあるかも、ですね。人がいる内は大丈夫だと思いますし、勝手な行動は皇帝陛下が許さないでしょうけど。今は大丈夫じゃないですか?」
「……そっ……か。……簡単に強くなれちゃうんだもんね。魔物と戦うのは日常茶飯事だろうし、確かに、欲しいと思う人もいるよね」
「万が一があれば私が守ります。だから、離れずに行動しましょうね。私も不安ですし……主様がいないこの環境で、ゆうちゃんまで居なくなったら……」
「は、離れないよ。すぐ傍にいるから、落ち着いて……?」
悠莉がそう言ってユリの頭を撫で、こほんと咳払いをして演習場を見た。
そこまで大量の人に支援の魔法は掛けられないので、一日小隊一つに絞って悠莉の特訓を行うことになっている。
ふぅ、と悠莉が息を吐き出して、集まっている人たちに向かってぺこりと頭を下げた。
「はじめまして。賢者の悠莉です。……えっと……今日は、よろしくお願いします。魔法は順番に掛けますから、並んで待ってくださいね」
「……あー……っと……ユリです。一応、ゆうちゃ……こほん、悠莉の護衛をさせていただきます。時間があれば、組み手などご相手いただけたらと思っています。よろしくお願いいたします」
二人がそう挨拶すると、どよめきが広がった。
耳を澄ませば、あんな小さな子が、なんて心配するような声が聞こえてくる。
歓迎されていないわけでもなさそうなので、ユリはほっと息を吐き出すと悠莉を見た。
「一人ずつですかね。一気に複数人、行けます?」
「少人数なら、行けるかも。えっと……真っ直ぐ並んでください! 魔法が掛かったら、感覚でわかると思うので列から外れてください。効果は重複しないので、二回並んでも意味はありませんからね。掛かったら、小隊長さんの指示に従って、演習を開始してください」
「……列の整理は必要無さそうですね。じゃあ、傍で見てます」
ユリが悠莉にそう声を掛け、その隣に立つとこっそりと冷ややかな視線を小隊の数人に向けた。
悠莉に、嫌な視線を向けた数人。
自分の利益のために悠莉を手に入れよう、なんてふざけたことを考えた数人に、ユリは冷ややかな視線とともに微笑んだ。
そして、組み手はやる時間はあるだろうか、受けてくれるだろうか、なんてことを思う。
「……結莉? どうかした?」
「いえ、なんでもないですよ。ふふっ……」
くすりと笑い、ユリは肩を竦めた。




