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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
再会の世界

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星空の下で

 夜になると、三人は順番に湯浴みをし、そして貸し与えられた寝間着に袖を通していた。

 そうして眠る準備を済ませた三人は、ベッドの前で言葉を交わす。


「……誰かと一緒に寝るのって、ドキドキするわね。だ、大丈夫かしら……」

「あー……寝言とか、いびきとか、寝相とか……気になりますよね。大丈夫ですよ、もし何かあっても、何もなくても、なーんにも言いませんからね。知りたければ答えますが」

「ふふっ、そうだね。結莉も、ずっと抱き着いて離してくれなかったよって伝えたら凄く恥ずかしがって……」

「ゆうちゃん! その話関係ありますか!?」

「あの時の結莉、可愛かったなぁって……ふと思い出して。ごめんね?」


 ユリが少し顔を赤くしてぽかぽかと悠莉の背中を叩いた。

 今現在、ユリはヴェルディーゼと一緒じゃないとまともに眠れないが、恥ずかしいので寝る時にユリが積極的に抱き着いていることは少ない。

 だが、起きた時にはしっかりと抱き合っているので、完全にそういう癖があるのだろう。

 ヴェルディーゼの上に乗ってしがみついていることすらあったので、とにかく寝ている時のユリは何かにびっとりとくっついていないと気が済まない、のかもしれない。


「……ユーリ。そんなことを言ったら、私も……何か恥ずかしい話をされてしまうんじゃないかと、疑ってしまうでしょう。やめて頂戴……」

「ごめんね。……確かに、可愛くて誰かに共有したい気持ちにはなるかも。シルヴィアが嫌がるなら言わないけどね」

「も、もう……! ……じゃあ、ユリもユーリも、私より先に寝て頂戴! それなら恥ずかしいことを聞かれる可能性だって無いわ……!」

「……ぁ、あー……そう、ですね。……や、でも、一人最後に寝るのは寂しくないですか?」


 ユリが両手の指を絡めさせながらそう言うと、シルヴィアが眉尻を下げた。

 そして、つんっと悠莉の額を突付いてからベッドに横たわり、微笑む。


「それもそうね。ユーリ、何かあっても、そういう話はしないでね?」

「もちろん、わかってるよ。……じゃ、寝よっか。シルヴィアは朝早いしね」

「はーい。じゃ〜私右端行きまーす」


 ちらりと窓を確認してからユリがそう言い、シルヴィアの隣に転がった。

 悠莉はその逆側に寝転がり、三人はシルヴィアを中心とした川の字になると、目を閉じる。


「おやすみなさい、ユリ、ユーリ」

「うん……おやすみぃ、二人とも」

「……おやすみなさい」


 三人はそう言い合うと、静かになった。

 慣れない環境で疲れていたのか、柔らかい毛布に包まれて、すぐに眠りに落ちたようだ。

 ――ユリを除いた、二人は。


「……」


 そっと二人の様子を観察し、眠りに落ちていることを確認して、ユリはベッドから降りる。

 ユリはヴェルディーゼがいないと眠れない。

 酷い悪夢に魘されて、飛び起きて、そしてもう、数日は眠れなくなってしまうから。

 唐突にヴェルディーゼと引き剥がされた今は、尚更だ。

 無理矢理に眠って、悪夢による悲鳴で起こしてしまうのも忍びないから、なんてことを考えつつ、ユリが音を立てないようにそっと窓を開けた。

 窓――というより、それはガラスのドアで、その先はバルコニーになっている。

 ユリはそっとバルコニーに足を踏み出して、ゆっくりと扉を閉めた。

 そして、手すりに腕を預けると、沈黙したまま星空を眺め、視線を少しだけ下へと向ける。

 ここからは到底見えないが、その先には王国があった。

 今頃、ヴェルディーゼたちも帝国へと向かってきているはずだ。


「……はぁ」


 憂いを帯びた吐息が、その口から零れる。

 その頭を占めるのは、ヴェルディーゼのことだけだ。

 ――だから、同じくバルコニーにいて、じっとこちらを見つめている人影の存在に気付けなかった。


「よう、ユリ。眠れないのか?」

「ぅひっっ……!? ……皇帝……陛下。……それはこっちの台詞ですよ」

「俺は風に当たってただけだ。すぐに戻る」

「……そう……ですか」


 ユリはそれだけを返すと、再び王国の方を見る。

 長い白銀色の髪が風に靡いて広がり、夜空で輝く黄金色の月のような瞳が、不安そうに揺れている。

 寂しそうなその横顔は月光に照らされ、グルーディアの瞳にはひどく美しく、神秘的に映った。

 ふと、その唇がそっと開かれて、言葉を紡ぐ。


「……いつ、迎えに来てくれるんでしょう……」


 紛れもない、想い人への言葉。

 それに眉を顰めて、グルーディアは溜息を吐く。


「ったく。知らねぇ男のことばっかり見やがってよ……」

「……私視点では、皇帝陛下こそ〝知らない男〟です。本気で嫉妬したら大変なんですから、あの人。……でも、もしこのことを知ったら……あっという間に、来てくれるのかな……。……皇帝陛下、噛ませ犬になってくれませんか?」

「はぁ?」

「……すみません、忘れてください。バカなこと言いました。……ぁ〜……頭回らなくなってきた〜……」


 ユリがバルコニーの手すりに手をかけたままその場でしゃがみ込んだ。

 そして、ふぅっと息を吐き出すと、ちらりと横目でグルーディアを見る。


「皇帝陛下。そろそろ休んだらどうですか。私は……もう少し星空を堪能して……あの人を、探して。……それから、戻ります」

「……そーか。早めに寝ろよ。おやすみ、ユリ」

「はーい、おやすみなさい」


 そう言って部屋へと戻ってくるグルーディアを見届けてから、ユリは立ち上がって手すりにもたれかかった。

 綺麗な景色に背を向けて、ユリが眠る二人の姿を眺めてから、そっと目を閉じる。

 遠く、遠く、遠く――遠い場所に、気配を感じる。

 眷属だからこそある繋がりを手繰り寄せて、ユリはそれを捉え、感じるのに耽った。

 便利な魔法を使える悠莉がいないので、寝ずの番をしているのだろう。

 気配は時折動いていて、それが、ユリの心に温かなものを齎した。

 ふと、気配が上を、星空を見上げる。


「……同じ空を見てる……同じ、景色を。……それだけでも、少しだけ……安心するなんて。……我ながら単純ですよねぇ、私……主様が見てたら、単純で可愛い……とか、言うのかな……」


 ユリはそう呟くと、それ以上は何も言わず、ヴェルディーゼの気配を感じたり、星空を眺めたりして過ごすのだった。



「……ふふ。魔法が無ければ、見えることも、聞こえることも無いとでも思ってるのかな。……鈍感で……単純で、可愛い。……離れていても、大丈夫だよ。こうして、僕たちは通じ合っているからね……きっとすぐに、迎えに行くから」

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