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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
再会の世界

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ユリの提案

 それからしばらくして、夕食時になり、三人は召使いらしき人物に呼ばれてダイニングへと向かっていた。

 召使いが扉をノックして、扉を開ける。


「おう、来たか。遅かったじゃねーか」

「お待たせしてしまい申し訳ございません」


 グルーディアの言葉にシルヴィアが淡々とそう返し、ちらりと周囲を見た。

 グルーディア以外に人は全くおらず、召使いも早々に立ち去っていった。

 既に食事も盛り付けられているようだ。

 理由はわからないが、グルーディアが人払いをしておいたらしい。

 ただ単に、リラックスしやすい環境のためならいいのだが、グルーディアの真意は測れなかった。


「おい、ユリ。俺の隣に来い」

「ああ、それでお誕生日席じゃなくて中途半端なところに……こほんっ、案内が無いなら席自由でいいですよね! ゆうちゃん、シルヴィア、どこ座りますかー? 全力で皇帝陛下から離れたいでーす!」

「チッ……仕方ねぇ。じゃあ皇帝命令だ、この椅子に座れ。んで席から立つな。破ったら追い出す」

「え゛っっ……はぁ、わかりましたわかりました。座ればいいんでしょう……」


 追い出されるのは困るので、ユリが大人しく皇帝の隣の席に向かった。

 悠莉とシルヴィアが心配そうな顔をするが、ユリはそれを手で制して椅子に腰掛ける。

 ――そして、少量の深淵で椅子を浮かせ、座ったまま悠莉とシルヴィアの隣に移動した。

 器用に手を使わずに椅子を交換し、ユリが満足そうに微笑みながら深淵を回収すると、グルーディアが何か言うよりも先に口を開く。


「皇帝陛下、何かご不満でも? 私は指定の席に座り、そしてご命令通り、席から立ってもいません。まさか……後出しでこれもダメ、なんて仰りませんよね?」

「……命令の仕方を間違えたか。仕方ねぇ、今日は諦めよう」

「ん〜……今日は、ですか」


 剣呑な声で呟くユリの肩をちょんちょんと指先で叩き、悠莉が微笑んだ。

 そして、いつも通りの声音で言う。


「天剣召喚、する?」

「ゆうちゃん!?」

「……こほんっ。二人とも、そろそろ……食事、冷めちゃうから」

「「あっ……」」


 そんな声を漏らして、ユリと悠莉が頷いた。

 とりあえずグルーディアへの今後の対応は後で考えるとして、慌てて姿勢を正し、食事をする準備をする。


「……んじゃ……堅苦しい話は抜きだ。適当に話でもしながら食っていいぞ」

「ええ……それではお言葉に甘えて、そうさせていただきます」


 シルヴィアがそう言うと、ユリと悠莉の二人は小さく手を合わせ、いただきますと呟いてから食事を始めた。

 少し冷めているが、やはり皇帝が口に入れるものというだけあってとても美味しかった。

 しばらくは黙って食事をしていたユリだが、ふと顔を上げると、グルーディアに声を掛ける。


「あの……皇帝陛下。ちょっと、相談事というか……お願いというか」

「なんだ、言ってみろ。叶えてやるよ」

「お城の敷地内に、広い場所とかないですか。魔王に備えてゆうちゃんも特訓を怠るわけにはいかないですし……私も、少しは運動しないと怒られるので……」

「運動か。……演習場を貸してやるよ。昼頃は空いてる。それでいいだろ?」

「おお……演習場。広そう……ありがとうございます、皇帝陛下」


 ユリがぺこりと頭を下げ、食事を再開した。

 そして、食事が終わると、グルーディアは立ち上がりユリの手首を掴む。


「ぅえ? なんですか?」

「まさか無償で貸すとは思ってないだろ?」

「はい、そうですね。ちゃぁんと考えてますよ。ゆうちゃんが、凄く役に立ってくれます。……演習場って、何のために使ってます?」

「……えっと……結莉、私そんなの聞いてない……」

「戦争……今は魔物との戦闘だな。……ああ、そうか。そういうことか」

「ゆうちゃんが魔法をかければ、魔物の犠牲者は減りますし……演習の際に体力を増やす魔法を使えば、効率が上がります。魔法を使っても、ちゃんと運動すれば体力は増えますからね。体力切れによる精度の低下が起こることなく演習が続けられるんです」


 ユリがそう言ってグルーディアを見ると、グルーディアが溜息を吐いた。

 そして、ひらひらと手を振ると呆れたように言う。


「ユリ、お前……いや、やんちゃ姫の入れ知恵か? 俺のことを測りやがったな」

「ちょっとした観察の一環ですよ。あとシルヴィアは関係ないです。……やっぱり、私よりも利益、なんですね? いえ、そもそもが私を娶ろうとしていること自体が、利益に繋がるから――」

「おっと、それは否定しないとなァ。それを考えてないっつったら嘘にはなるが、だから側室に誘ってるわけじゃあねぇ。理由はお前のことを気に入ったからで、そのついでに利益まで得られるから、誘わない理由が無いだけだ」

「得体が知れない人物っていうのは充分誘わない理由になると思いますが」

「得体の知れない人物じゃなく、俺が気に入った女だ。その気になったらいつでも来いよ」


 ニヤニヤと笑いながらそんなことを言い、グルーディアが去っていった。

 ユリはそれにむっと不満そうな顔をすると、溜息を吐いてから二人の手を握る。


「戻りましょう、二人とも。……この先が憂鬱になってきました……早く気分転換したいです……」

「ユリ……事前に私たちに相談してほしかったわ。そうしたら、代わりに話すとか、なんでもできたのに……」

「そうだよ。特訓は確かにしないといけないけど、演習場にいる人に掛けるなんて聞いてないもん」

「ご、ごめんなさい。……ゆうちゃんに話さなかったのは……私が頑張らなきゃって、なんか……そればっかり考えちゃってて。伝えるのも忘れてて……シルヴィアは……すぐにいなくなっちゃうから、手を借りすぎたくなかったんです。本当、色々伝達不足でした。……でも先ずは気分転換させてください。ほんとに」


 申し訳なさそうに言ったユリは手を繋いだままぎゅっと二人を引き寄せ、くっつきながら部屋へと戻った。

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