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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
再会の世界

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シルヴィア

 扉のすぐ向こうで、声がする。

 この部屋を掃除したかどうか――この部屋というのは、間違いなく、四人が今いるこの部屋だ。

 入ってきたら、見られる前に意識を奪わなければならない。

 ヴェルディーゼがそんなことを考えながら、ぷるぷると震えながら大人しく抱き締められ、口を塞がれているユリを見下ろす。

 可愛すぎて集中が乱れたので、ヴェルディーゼは視線を扉の方に向けて固定した。


「その部屋〜? ああ、したした! 大丈夫!」

「あ、そう? よかった〜」


 そんな声とともに足音が遠ざかっていくので、ヴェルディーゼがほっと息を吐き出してユリを解放した。

 するとユリは床にへたり込みつつ、じとりとヴェルディーゼを睨む。

 そして、小声ながらも確かな不満を込めて文句を言う。


「主様……! 手首、思いっ切り掴まないでください……! 痛かったじゃないですかぁ……」

「あ、ごめん。それで何か言いたげだったんだ……」

「それに、口も……わざわざ塞がなくたって……」

「だって人が近付いてきてるのに何か言おうとするから」

「それは……あまりにも痛かったから……はぁ、それは私も悪かったのでもういいです。その、ごめんなさい……」

「手首掴んだのは、僕が悪いから。こっちこそごめんね、焦って……とにかく行こう、今は人少ないみたいだから」


 ヴェルディーゼがそう言うと、三人が頷いて部屋の外に出た。

 確かに、もう誰もいない。

 ヴェルディーゼが再び先頭に出て、先導を始めた。

 途中、兵士に見つかりかけて甲冑に隠れたり、カーテンの後ろに隠れたりと、無理がある隠れ場所を気配遮断やローブによる効果でゴリ押しして乗り切り、一行は進んでいく。

 そして、いよいよ一行は、悠莉と龍也の友人の居場所まであと少しというところまで辿り着いていた。

 危ない場面もあったものの、見つかることなくここまで来れた。

 だからこそ、ここから先も警戒して行かなければならない。


「……人が多いな」

「王女様の私室が近いからね。あと少し……あとは、ここを真っ直ぐ行くだけ……そうだよね、ヴェルディーゼ?」

「うん。……焦らず行こう」


 ヴェルディーゼはそれだけ言い、慎重に様子を窺う。

 すぐには、人は来なさそうだ。


「急ごう。走れば間に合う」


 ヴェルディーゼの言葉に三人はまた静かに頷いて、走り出した。

 と、そこで、ユリが何も無いところで躓いてしまい、物音が鳴ってしまった。

 近くには兵士がいたらしく、甲冑の音が聞こえてくる。

 すぐにヴェルディーゼがユリを回収したが、二人の友達にも気付いてもらわないといけないのに、間に合うかどうか――と考えたところで、突然部屋の扉が開いた。

 そこは、紙に書かれていた二人の友人の部屋である。

 悠莉と龍也が迷わず駆け込み、ヴェルディーゼもユリを抱えたまま部屋の中に滑り込む。

 部屋の主は扉を開けたまま四人に手で部屋の手前側、その隅にいるよう指示すると、ひょこりと扉から顔を出す。


「王女殿下! 先ほど、この辺りで何か物音がしましたが……」

「ああ……やっぱり、勘違いさせてしまったわよね? 紛らわしくてごめんなさい、私が部屋の物を倒してしまったの。あなたたちは持ち場に戻って頂戴」

「「はっ!」」


 兵士たちが遠ざかっていくと、部屋の主はゆっくりと扉を閉めて、部屋の隅にいる四人を見回した。

 そして、心底嬉しそうに笑って言う。


「みなさん、お久しぶりね。来てくれて嬉しいわ。もう、普通に喋っても大丈夫よ」

「……お姉さん?」

「あれ? 結莉、シルヴィアと面識があるの?」

「あ、その名前はご存知じゃないです。でも……あの、シリアお姉さん、ですよね?」

「ふふっ。ええ、そうよ。ちゃんと……ユーリ様と会ってくれたのね」


 シリアは、この世界に降り立ってすぐの頃、ユリが勇者や賢者に会う方法を尋ねて、丁寧に教えてくれた人物だ。

 更には冒険者として登録するといい、とアドバイスをしてくれたり、とにかく親切に接してくれた。

 それをよく覚えていたユリは、呆気に取られた顔でシリア――もとい、シルヴィアを見つめる。


「……え? じゃあ、王族の人に、私……話しかけて……?」

「そんなことはないわ。〝シルヴィア〟は王女だけど、〝シリア〟はごく普通の一般人だもの」

「あ、そういうことか。ユリさんとヴェルディーゼさん、シルヴィアさんがお忍びで街にいる時に会ったんだな」

「お忍び……。……確かに、主様、高貴な身分だろうみたいなことは言ってたけど……言ってたけどぉ……!」

「王族の知り合いが増えたね」

「クーレちゃんとか今でも好きですけど、歓迎もできないですっ。どう接したらいいかわかんないんですから……うぅ……」

「他にも王族の知り合いがいるのね。聞いたことない名前……いえ、お二人は最初から、他とは違う雰囲気がありましたもの。深くは追及しないでおきましょう。早速、本題に入ってもいいかしら?」


 シルヴィアが微笑みながらそう尋ねると、四人が頷いた。

 それを確認して、シルヴィアは表情を引き締めると、先ず最初にここに来てもらった理由について話す。


「私を、城から逃がしてほしいのです。そして……皆様は、国外まで逃げてください」


 真剣な表情で言うシルヴィアに、ヴェルディーゼを除く三人が息を呑んだ。

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