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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
再会の世界

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侵入開始

 偶然足元に落ちたはずなのに、何やら偶然とは思えないことが書かれた紙を見て、ユリが戸惑った顔をする。

 悠莉は不思議そうにそれを覗き込んで、ハッと息を呑んだ。


「結莉、それ、もっとちゃんと見せてほしい!」

「へ? あ、はい、どうぞ……?」


 ユリが首を傾げながらも紙を手渡すと、悠莉が真剣な顔をして地図をなぞり始めた。

 龍也も隣でじっと地図を見つめ、ヴェルディーゼは興味深そうにその後ろから紙を眺めている。


「……やっぱり……これ、お城の三階の間取りだよ。ってことは、このメッセージ……」

「友達からのもの? 偶然にしか思えない届き方だけど」

「……偶然にしか思えないから、友達からのものなんだ。警備が手薄な道順……って、この線のことだよな。ってことは……後ろから侵入して、ぐるっと回って……」

「偶然にしか思えないからって、どういう……」

「……あの子は、幸運っていうスキルを持ってるんだ。星五つの」

「そういえばソシャゲのレアリティみたいな感じでスキルがある世界でした。運がカンストしてるみたいな感じなんですね……」


 ユリがそう呟き、ちらりとヴェルディーゼを見た。

 ヴェルディーゼ自身その紙については何も言っていないが、その目が好都合だと語っている。

 どうやら、二人の話を疑うつもりはないらしい。


「……それじゃあ、お城……侵入します? ローブ無しで行けますかね」

「まぁ……僕とユリなら、気配を上手く消しておけばなんとかなるんじゃないかな。多少不安は残るけど……仕方ない」

「二手に分かれたりとかも、しないんですか……? 人数が多いとすぐにバレそう……」

「悠莉と龍也は、そのローブがある限りいないようなものだから。その辺りは考えなくてもいいよ。悠莉にも多少対策してもらうしね?」

「う、うん……大したことはできないかもしれないけど、頑張るよ」


 こくりと頷いて悠莉が言うと、全員が顔を見合わせた。

 そして、一行は城の裏手へと回り、侵入を開始するのだった。



 裏手に回ること自体は案外簡単に行き、一行は周囲を警戒しながら、紙で示された道順、その始まりの場所に近い窓を探していた。


「えっと……今がこの辺りだろ? だから……もう一つ先の窓か。あれだ! あそこから侵入したい!」

「了解です。上までは私が運びますね。……ゆうちゃん、結界の維持、大丈夫そうですか?」

「う、うん……あんまり使ってなかったから、ちょっとやりづらいけど……大丈夫。ちゃんと維持できてるよ」


 悠莉が行使しているのは、気配遮断の結界である。

 気配だけでなく、足音、僅かな息遣いなども消してくれる優れものだが、それ故に維持が中々に難しい魔法だった。

 使えるようになった時に一回試してみたくらいで、ほとんど初めて使った魔法なので尚更である。

 ユリは額に汗を浮かべながら結界の維持をしている悠莉に心配そうな視線を向けながら、全員に寄ってもらいなるべく最小限の深淵を使い、目的の窓へと近付いていく。


「……よし……この辺で一旦止めて……全員屈んでいてくださいね。リューくん、鍵の確認お願いします。届きますか?」

「あ、ああ、なんとか」


 ローブを纏っているため気付かれづらい龍也に窓の鍵を確認してもらい、他の三人は屈んで龍也の言葉を待つ。

 悠莉は結界の維持で必死なので、他の作業ができないのである。


「……開いてる! 警備も今はいなさそうだ。入れるぞ。隠れられる場所は……」

「よしっ。これも友達の幸運のお陰なんでしょうかね。とりあえず入りますか? 隠れ場所が厳しそうなら……」

「しばらく人の気配は無いよ。すぐ曲がるよね? 近くの部屋も誰もいないみたいだし、いざとなれば部屋に隠れられるから、一旦入っちゃっていいよ」

「わかった。じゃあ、一人ずつ行こう」


 ヴェルディーゼの言葉に軽く頷き、先ず龍也が城の中へ入った。

 次にユリが窓の上へ登り、悠莉を引っ張り上げて登るのを手伝ってから窓を降りる。

 最後にヴェルディーゼがサッと窓を飛び越えて侵入し、また四人で一塊になって移動を始めた。

 中はしんと静まっていて、話し声一つ聞こえない。

 それにユリはなんだか落ち着かない様子で身動ぎをし、なんとなく紙を覗き見る。

 紙によると、ここから城の正面側に回る必要がある。


「人がいればわかるから、ここからは僕が先導する。ここで曲がるんだよね?」

「ああ、そう書いてある。行けそうか?」

「……人はいない。けど、近くに階段があって……人が上がってくるかも。……曲がった先の部屋は……数人いるな。一旦戻って部屋に隠れることも視野に入れておいて」


 三人が頷き、ヴェルディーゼの後ろを歩き始めた。

 もしバレたらと思うと緊張して仕方が無いが、もちろん諦めるわけには行かない。

 道を曲がり、真っ直ぐ進んで、また曲がる――と、その時、階段がある方から声が聞こえた。


「……あ、窓の鍵! してない!」

「は!? 嘘、このタイミングでそんなの、怒られるだけで済むかどうか……!」

「急いでかけてくる!」


 窓掃除をしていたメイドだろうか、女性二人の声が聞こえて、階段を駆け上がるような足音が聞こえ始めた。

 足音は一人分、窓の鍵をかけ忘れた方だろう。

 このままでは見つかってしまうので、ヴェルディーゼは周囲の部屋の気配を確認すると、ユリの手を掴み、二人にも付いてくるよう手で示して部屋の一つに入り、扉を閉める。


「ぁのっ……」

「静かに」


 思い切り掴まれたことに若干の不満がありそうなユリにそれだけ言い、ヴェルディーゼがユリを抱き締めて口を塞いだ。

 ぴく、とその肩が震えるのを眺めながら、ヴェルディーゼはメイドらしき人物が階段を降りるのを待つ。

 足音が遠ざかって、また近付いてきて――こちらへと、曲がる。

 階段は、別の方向のはずなのに。


「この部屋、もう掃除した?」


 扉のすぐ向こうで、声がした。

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