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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
再会の世界

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避難先と宛名の無いメッセージ

 それから、四人はしばらくの間並び、街へと入った。

 冒険者カードで冒険者としての身分を証明できるユリとヴェルディーゼはともかく、名前の書かれたそれを提示するわけにもいかない怪しい二人――もとい、ローブを纏った悠莉と龍也もすんなり通れたので、明らかに怪しい、とヴェルディーゼ以外の三人が顔を見合わせる。


「……主様? 何したんです?」

「別に何も」

「そんなわけないだろ……素通りできるわけないんだから」

「警備が緩いんじゃない? 何もしてないのに入れたよ」

「むしろ強化されてると思う。結莉とヴェルディーゼさんは質問とかされてたし、人も多かったよ」

「うっかり忘れちゃったのかな。人選が……」


 と、そこで三人から厳しい視線を浴びせられ、ヴェルディーゼが口を閉ざした。

 そして、にっこりと微笑むと、にこやかな表情のままに言う。


「だって、絡まれたら面倒だから。ここは苦戦するところじゃないでしょ?」

「それは……そう、なんですけど。……でも、ダメじゃないですか。もし洗脳じみたことしてたら、あんまり乱用しちゃダメですよって叱らないと」

「ああー……乱用はしないよ。今回は洗脳とかじゃないし」

「今回はっていう言葉になんとなく含みを感じるけど……それなら何をしたの?」

「そのローブには細工がしてあって、意識されづらくなってる。見えてるのに、意識できなくて素通りする。そういう仕掛け。……思ったほど悪いことはしてないでしょ。大丈夫、元からそういうローブだから」

「思ったほどは、な? でも、それって正面から堂々と不法侵入した、みたいなことだろ?」


 結局は悪い行為であることに変わりはない、と龍也が言うと、ヴェルディーゼは苦笑いした。

 そして、三人から視線を外すと、街の入り口近くからでも見える巨大な城を仰ぎ見る。

 その瞳が真剣なものへと変わるのを見て、ユリが口に出そうとした言葉を呑み込んで、ヴェルディーゼの口が開かれるのを待った。

 するとヴェルディーゼは、ゆっくりと三人を紅い瞳で見下ろすと、微笑みを湛えて、穏やかな声で言う。


「状況は、切羽詰まったものではない……って、思ってるでしょ。街は平穏そのもの。きっと杞憂に違いない、って」

「……違う、の……?」

「急いだ方がいい。早急に友人とやらを()()して、一先ず国から出よう。その友達まで、文字通り……魔の手に掛かる前に」

「……わかった。それなら、城に侵入するのが手っ取り早いってことだよな。夜は……まだまだ来ないから……」


 早速頭を回転させ始める龍也に満足そうな顔をしつつ、ヴェルディーゼが悠莉に視線を向けた。

 そして、真剣な顔で確認する。


「悠莉。この国から逃げるとしたら、どこが候補?」

「……え、っと……一番安全そうなのは、共和国かな。国から国への移動だから、どうしても掛かるけど……隣国だから、一番手っ取り早く移動できると思う。王国と協力してるわけでも、敵対してるわけでもないし……王国と敵対してた帝国とも中立を貫いてる。とにかく中立の立場の国。私たちのことに関しても、良くも悪くも中立って感じだけど……王国がおかしくて逃げてきたってなったら、保護してくれると思う」


 共和国は、常に中立を貫いてきた国である。

 どこの国の味方をするわけでもなく、どこの国の敵でもない。

 勇者と賢者に対してもそれらの同じような対応をしてきたが、悠莉曰く、冷たいわけではないらしい。

 困っている国があれば、中立の立場が崩れない程度ではあれど、確かに手を差し伸べてきた国だから。


「帝国は、王国……この国と敵対していたんですね?」

「うん、魔王が現れるまでね。私たちにも、あんまり協力的ではないかな。必要最低限のことはやってくれるから、あんまり気にしてなかったけど……逃げたとしても、保護してくれるかどうかは……」

「そう、ですか……断られる可能性もあるわけですね。じゃあ、逃げるとしたら共和国……?」

「今のところの候補はそうなるか……ふむ……」

「何か気になることでも?」


 少し考え込む仕草を見せるヴェルディーゼにユリが首を傾げた。

 するとヴェルディーゼは首を横に振ると、優しくその頭を撫でて言う。


「なんでもないよ。気にしないで」

「え〜……絶対なんかあるやつじゃないですか」

「……ある意味、一番安全なのは帝国かもしれないなって。まぁ、避難先は共和国でいい。ダメなら帝国も視野に入れるくらいで。どうせ協力的ではないのは確定してるわけだしね……」

「はぁ……よくわかりませんけど……そうなんです、ね? えっと……リューくんリューくん、何か思い付きました?」


 詳しく説明する気は無さそうなので、ユリが首を傾げながらも龍也の方へ向かった。

 すると龍也は悩むような顔をして、ヴェルディーゼへと視線を向ける。


「このローブを全員で着るのとか、どうだ? その……世界への影響っていうのがどうなのか次第だけど」

「……うーん……できれば、使わずに行きたい。もちろん、必要なら惜しまないけど……」

「じゃあ……騒動になってもいいのなら、私が深淵で……いや、影響デカそうですね。ダメか……ん?」

「結莉、どうしたの?」

「あ、いえ。紙が落ちてきて……あれ?」


 ユリが風に乗って足元に落ちてきた紙を拾い上げ、何気なく内容を確認した。

 するとそこには、地図のようなものと、そして文字が書いてある。


『警備が手薄なのはこの道順です。これ以上は調べられませんでしたが、どうかご無事に、私のもとまで』


 宛名の無い短いメッセージに、ユリはぱちくりと目を瞬かせるのだった。

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