英雄扱い
更に数日が経ち。
一行は、いよいよ城下町へと辿り着いた。
今、四人は城下町の門の外側、入り口のすぐすぐ傍で話し合いを行っている。
「どうしよっか。えっと……一応ね、来賓専用の入り口があって……私たちは、そこを顔パスで通れるんだけど……都合が悪い、かな……?」
「忍び込む可能性があることを考えるとね。ただ……うーん、逆に目立ってもらうのもありと言えばあり……かな。うん」
「というと、どういうことだ……? ……囮?」
「そうそう。二人には存分に目立ってもらって、民衆や城の人間の気を引く。その間に、僕とユリが友人とやらに接触する。この作戦も、全然いいんじゃないかな。問題点としては、案内役がいないこと。僕たちは警備の配置も何も知らないまま行くことになる。口頭じゃ限界があるからね。失敗したら……指名手配犯になるか、牢獄行きか……ふふっ」
楽しそうに笑うヴェルディーゼにユリが頬を引き攣らせた。
何も楽しいことなんて無いはずなのに、なんてことを思いつつ、ユリは少し考えて、一人納得するように頷く。
「一般用の入り口でいいんじゃないですか? ゆうちゃんとリューくんのことがバレても、目立ちたくなかったからって言えばいいことです。お忍びで様子を見に来たと伝えればいい。少し休憩をしに来たとでも言えばいいんです。違和感なんて無いですよ。勇者と賢者は確かに凄いのかもしれませんが、人間なんですから。……というか主様、私たちにこういうこと考えさせたいから、案出ししつつちょくちょくこういう話し合いさせてるんですよね……?」
確認するようにユリが視線を送ると、すっとヴェルディーゼが目を逸らした。
図星らしい。
別に誤魔化そうとしなくてもいいのに、と思いつつ、ユリは龍也と悠莉の反応を確認する。
すると、二人――特に悠莉は、キラキラと目を輝かせてユリのことを見ていた。
「結莉……そういうさりげない発言、凄く素敵だと思う!」
「な、なんですか!?」
「人間なんだからって! いや、嫌な扱いを受けてたわけじゃないんだけどね! なんだか嬉しくって! 私たち、完全に憧れの英雄様だったから……他の人と対等には扱われてなくて。なんとなく寂しかったんだ」
「……まぁ……異世界から来た勇者様、賢者様。……気持ちはわからないでもないですけどね。ふふ……大丈夫ですよ。ゆうちゃんの大親友が、この世界にいる間はちゃんとゆうちゃんのことを対等に扱いますから。もちろんリューくんも」
「……実力的に、戦闘面ではどう足掻いたって対等には……」
「主様、水を差さないでください」
真顔で水を差してくるヴェルディーゼにユリが冷めた声で言った。
それにヴェルディーゼは少し悲しそうな顔をすると、苦い顔をして言う。
「だって……戦闘面においても対等でいられるのは、困るから。二人の身が危ない。……水を差したのは、ごめん……心配になって。二人のことを心配したのもそうなんだけど……もしそれで二人が死んだりしたら、ユリは自責の念にも駆られるんでしょ。それはダメ」
「……ん、ぐ……主様なりに心配したからなのは、わかりましたけど。何も今じゃなくても……いえ、まぁ、大事なことではありますよね。……それじゃあ……城下町、入っちゃいます、か?」
「あ……そうだな、一般の入り口は並ばないといけないし。早く行かないと」
ユリの言葉に龍也が頷くと、ヴェルディーゼが無言のままに悠莉と龍也にローブを差し出した。
それを見たユリは、ぼそりと呟く。
「……主様って、それしか変装手段が無いんですか?」
「うるさいな。魔法をあんまり使うわけにはいかないから、これくらいしかできないんだよ。たくさん使っていいなら顔ごと変えてる。……悠莉、適当に民衆を誤魔化せそうな魔法でも使って。多少でも効果があればいい、それで誤魔化せると思うから。……知ってる人相手には、声も聞かせない方がいいかな……」
「あ、うん。わかったよ! あの子に会うまでの辛抱だね……!」
「あ、ああ……大丈夫かな? 俺たち、結構色んな人に挨拶してたよな……」
「大丈夫だって信じるしかないよ、龍也。ほら、行こう」
ヴェルディーゼがそう促し、列に並んだ。
ユリはヴェルディーゼの隣に立ち、手を繋ぎながら後ろに並んでいる悠莉と龍也を見る。
慣れないのか、落ち着かなそうにフードを弄ったり、ローブのあちこちに触れたりする二人にくすくすと微笑んで、ふとユリが龍也に尋ねた。
「そういえば……今思い出したんですけど。街に置いてある、連絡板? に、勇者の名前は〝リュー〟だーって書いてあったんです。あれってなんなんです? 名前、龍也ですよね」
「……あ、それ、私のせいかも。というか……うん、絶対私のせい……私が龍くん龍くんって呼ぶから、それが名前なんだって勘違いされて……そのまま。……ご、ごめんね、龍くん……」
「俺はそっちの方が呼ばれ慣れてるから、別にいいんだけど……悠莉姉ちゃん、そんなに気になるのか?」
「気になるよ! だって、私のせいで龍くんの名前が勘違いされて……」
「……気にしなくていいのになぁ……」
申し訳なさそうにする悠莉に、龍也は苦笑いしながらそう呟いた。




