作戦会議と道
城へと向かう道中、ヴェルディーゼは一先ず悠莉と龍也の友人に会うため作戦を立てようと言い、全員の顔を見回した。
悠莉と龍也はヴェルディーゼの言葉に頷いて考え込んでいて、ユリは高貴な身分の人物に会うかもしれないと知って遠い目をしている。
割とどの世界でも王族とは知り合いになっているのだから、いい加減に慣れそうなものだが、なんてことを思いつつヴェルディーゼは再度口を開く。
「とりあえず、簡単にだけど……すぐに思い付くのは、二つかな。城に忍び込むか、正攻法で会いに行くか。もちろん勇者と賢者の立場を使って会えればそれが最善だけど……裏切りの可能性があることを考えると、厳しい気がする。行けたとしても罠」
「……そうなる、よな。うん……となると、忍び込むことになるのか……?」
「正攻法っていうのは、立場を使うだけじゃないでしょ。身分を偽るなりして……もしくはちゃんとした手順を踏んで、正式に会えるなら、これもリスクが少なくていいね。こういう場合って大体無理だけど」
「主様の経験則ってなんか本当に当たりそうなので怖いで〜す。いつからこの役目を全うしてるのか知りませんけど……」
半分茶化すような声で、もう半分は真面目にユリが言うとヴェルディーゼが目を逸らした。
培われてきた経験則が当たりがちなのは、ヴェルディーゼにも覚えがあるので。
あまりネガティブにさせすぎてはいかないので、何も口にはせずヴェルディーゼは悠莉へと視線を向ける。
「……」
「な、なに? ヴェルディーゼさん、なんで私のこと見てるの? 作戦なんて、そんなすぐには思い付かないよ……」
「何か、考えがありそうな顔してたから。自信は無いんだろうけど。不確実でもいいから、とりあえず話して」
「え、えぇ……」
「ゆうちゃんゆうちゃん、私も話してほしいです。とりあえずなんでもいいから案出ししましょう? ね?」
ユリがちょいちょいと悠莉の袖を引いて言うと、悠莉は渋々頷いた。
そして、自信なさげに自分の指同士を絡ませつつ、ぽつぽつと言う。
「その……もし、本当に、緊急事態が起きてて……あの子が、私たちの助けを求めてたらの話なんだけどね。もしそうなってるとしたら……あの子は、私たちに道を用意してると思う。あの子に会うための道か、状況をどうにか好転させるための道かはわからないけど。でも、それができる子だから」
「ふむふむ……ありがたいこと、ですよね? それ頼りにして作戦立てないわけにもいかないですけど……」
「本当にそんな道があれば、本当に凄くありがたいね。小難しいこと考えず、僕は三人を守ることだけに集中すればいいし」
ヴェルディーゼがそう言ってユリを後ろから抱き締めると、ユリがきょとんとしてヴェルディーゼを見上げた。
そして、ユリは頬を緩めてヴェルディーゼの腕に両手で触れ、ひっそりと確認する。
「あのあの。もしかして……うっかりが怖いんですか?」
「当たり前でしょ。僕は本当に……重要な時に限って……」
「あーはいはいはい、大丈夫ですよ〜。私、ちゃんと支えますから。だから目に光を取り戻してくださ〜い。……こほん、忍び込む場合ですけど……その人の部屋、大体どの辺にあります? 何階の真ん中らへん〜とか、そんな感じでいいので」
「えっと……三階の右辺り、になるはずだ」
「んー……兵士さんとかの配置にもよりますけど……深淵を使えば、三階からスタートできると思います。空中のヒドラを引きつける時に使った深淵の足場を使って、窓から侵入する感じで。割るのはまずいから……鍵とか、どうなってるんでしょう……やっぱり実物を見ないことには具体的な対策は厳しいですよね」
ユリがぽんぽんとヴェルディーゼの腕を優しく叩いて落ち着かせつつ言うと、悠莉と龍也が頷いた。
すると、ヴェルディーゼは落ち着いてきたらしく、そっとユリを抱き寄せながら言う。
「具体的なところまでは、まだ考えなくてもいいよ。臨機応変に動けるように、色んな作戦をある程度頭に入れてくれれば、それで充分」
「あ、そうなんですね。じゃあ考えるのもほどほどに、もう少し先に進むのに集中した方が? みんな考えてたら魔物に気付かなかったりしそうですし」
「まぁ……そうだね。あ、戦闘は悠莉と龍也がメインでやるようにね。ユリにも慣れさせたいけど……実力自体は足りてるから。魔王の性格的に僕を舐めてかかってきそうだし……まぁ、最悪こっちから挑発でもすれば戦えるでしょ。最低限の対応してくれれば僕はいいけど」
「私が嫌です。主様にばっかり戦わせたくないです……主様のためなら、私――」
陶然と目を細めて、陶酔したような声でユリが言うので、ヴェルディーゼがそっとその唇に人差し指を当てて黙らせた。
不安定になっているので、ヴェルディーゼがユリが抱え上げて二人の隣を歩き始める。
「到着するのには、どうしたって時間が掛かる。まだ、焦らなくていいよ」
そして、不安そうな二人にそう声を掛け、その心のざわつきを鎮めるのだった。




