テスト
お待たせいたしました、更新開始いたします。
長々とお待たせしてしまいましたが、今日からはしっかりと更新いたしますのでどうぞお楽しみください。
ユリがヴェルディーゼに仮の役職を与えられてから数日後。
ユリは自分の部屋の左隣にあるヴェルディーゼの執務室にいた。
中心にある執務机でヴェルディーゼは書類仕事を行っており、ユリは困った顔をしていた。
「……あの、主様……まだですか? 立ちっぱなしで足が痺れてきたんですけど」
「ああ、うん。待ってね、もうちょっとだから……よし。それじゃあ少しテストをしようか」
「はい……はい?」
ユリが頷き、その直後に首を傾げるとヴェルディーゼが足を組んだ。
そして、少し苦笑いしながら言う。
「どの程度かまではわからないけど……ユリはたぶん、死んだ時のことがトラウマになってると思うんだよ。だから、テスト。実際に銃を突き付けて確かめる」
「へ……や、いや、流石にちょっとそれは……なんだかとても嫌な予感がしますし……やめておいた方が……」
「そうは言っても、確認しておかないと危ないんだよ。程度がわからないと、油断して銃が存在する世界に連れて行っちゃう可能性もあるでしょ。……ユリも我儘言いそうだし……そんな世界に行って、怖い思いをするのはそっちだよ? 銃を向けても絶対に発砲しなくて、敵意も殺意も悪意も無い僕と、自分を殺そうとするかもしれない敵に銃を向けられるの。どっちの方がマシかって、言うまでもないでしょ」
「それは……そう、ですけど……怖いものは怖いです」
「今すぐじゃなくてもいいけど、そのことでうじうじしてたら余計に辛いんじゃないかな? いつやろうって悩んでる過程で撃たれた時のことを思い出しちゃう可能性もあるでしょ」
ヴェルディーゼの言葉にユリが唸り声をあげた。
ユリも頭ではわかっているのだが、恐怖心があるだけに中々頷けない。
だがここで保留にして、いつやろうかと悩んだところでもっと辛くなるだけである。
しかし、ヴェルディーゼも鬼ではない。
葛藤するのもわかるので、立ち上がってユリの後ろに回り、ゆっくりと抱き締めた。
「これならどう? つい撃たれるかもって思っちゃっても、背後に僕がいる。万が一、撃たれるって思い込んだとしても……僕がいるんだから、守ってもらえるって思えないかな。あ、魔法で思わせてもいいよ?」
「……洗脳紛いのそれ、嫌いなんですけど。……でも……」
「銃弾が向かってくる光景を幻覚で見せて、その銃弾を握り潰してあげようか? ほら、実際にそういう体験をしたら咄嗟に守ってくれるって思いやすいでしょ。銃弾よりも銃を怖がっていそうだし……そこまでは読み取れるのに、どうしてどれくらい怖がってるのかはわからないんだろうなぁ。それができれば楽なのに……」
「う、うぅ……ぐ……ただ突き付けられるよりは……そっちの方が……」
「あ、じゃあそうだね、視覚外から幻覚の銃弾を飛ばそうか。で、気付かない内に僕が握り潰そう。それならどう?」
「……じゃあ……それ、で」
ユリの言葉にヴェルディーゼがこくりと頷き、少し強めに抱き締め直した。
そして、魔法で銃弾の幻覚を作り出し、ユリの視界から外れるように発射させる。
そしてヴェルディーゼが銃弾が近付いてきたところでそれをぐしゃりと音を立てて握り潰し、にっこりと笑った。
「ユリ。ちゃんと守ってあげるからね」
「……ぅ……っ、びっくり、したぁ……そ、そんな、グシャッて音がするなんて思いませんでした……」
「銃弾程度なら握り潰せるよ?」
「そこもそうなんですけど、幻覚なんですよね……?」
「ああ。幻覚だけど……そうだなぁ。完全な幻覚でもないんだよ。半分くらいは本物。僕が触れれば干渉できるけど、ユリに当たっても透けるようにしたんだ」
「な、なんですかそれ……」
「つまり、まぁ頑丈さとかはただの銃弾と変わらないね。だから音がした」
「……あ、ああ……そういうことだったんですか……いや半分本物とかよくわかりませんけど」
「ふふ。さて、じゃあテストをしようか」
「……う……はい。………………はい……わかりました……」
嫌そうにしながらもユリが頷くと、ヴェルディーゼが笑った。
そして、落ち着かせるようにその頭を撫でながらユリに手のひらを見せる。
「じゃあ、銃を出すよ」
「……ひゃぃ……ひゅゃぁ……」
「あははっ、変な悲鳴。……そんなに逃げないで」
「ゔ……はい……わかりました……はい……ハイ……」
「はい、じゃあ出すね」
もう一度そう声を掛け、ヴェルディーゼが手のひらに銃を出して突き付けた。
ヴェルディーゼの腕の中でユリの身体が強張り、震え始める。
「――ッ、あ、……ひ……ぃや……」
「ユリ」
「お、おかあ、さん……おとうさん……やだ……やめて、死――」
ヴェルディーゼが執務机に銃を叩き付けて潰した。
鳴り響いた轟音にユリが肩を震わせ、目を彷徨わせる。
「……ん。銃が存在する世界に行くのは禁止だね」
「はっ……え、……あ……?」
「ほら、銃は見るも無残な姿になったからね。大丈夫だよ」
「……は……」
肩で息をするユリに声を掛け続け、ヴェルディーゼがユリが落ち着くのを待つ。
しばらくするとユリが目を閉じ、少し汗を流しながらもへにゃりと笑った。
「……ごめん、なさい。……音が……聞こえなくなって。殺されるとか、そんなことしか考えられなくなっちゃって……それで……」
「トラウマは根深いみたいだね。いいよ、謝らないで。……なんなら、やっぱり手伝うのもやめにしても」
「それは嫌です。主様、私をお城に居させるだけで何も要求しないんですもん。落ち着かないです」
「……危ない目に遭うかもしれないよ」
「それがわからないほど頭お花畑じゃないですっ。一応、手伝いを受け入れてくれるくらいには私の実力も付いてきてるんでしょう?」
「……それは……そうなんだけど……怖いものは怖いだろうし、守るつもりはあっても隙を突かれたらユリが一人で対応することになるかもしれないよ」
「あーもー! 承知の上って言ってるじゃないですか! ちょっと強引でしたけど、テストの結果で……銃を突き付けられるのだけは駄目って、わかりました。だから、それについては主様に頼まれても、我儘を言います。あ、もちろん行かないって方向で。嫌な時は嫌って言いますから、手伝わせてください」
「……わかった……」
渋い表情でヴェルディーゼが言うと、ユリが嬉しそうに笑顔を浮かべた。




