信用の理由と弟
それからしばらくして、メインディッシュが完成したので、四人はのんびりと食事をしていた。
あれから時間が経ったので、悠莉と龍也もしっかりと情報を受け止めて、ちゃんとリラックスできている。
「結莉の料理って美味しいよね。美味しすぎて困っちゃうくらい」
「なんですか、それ。美味しくて困ることなんてないんだから、いいじゃないですか。褒められるのはもちろん嬉しいですけど!」
「だ、だってね結莉。美味しすぎて、これが無くなったらって思ったら……私、生きていけるのかな……」
「え、えっ!? ちょっ、そ、それは流石に……冗談ですよね? そんなに依存性があるなら私もう作りませんからね!?」
「からかっただけだよ。でも、それくらい美味しいんだ。……あ、そうだ! 龍くんに聞きたかったことがあるんだけど、いいかな?」
悠莉がふと聞きたいことがあったことを思い出したらしく、龍也にそう尋ねた。
口の中のものを飲み込んだ龍也はそれに不思議そうにすると、小さく頷いて悠莉の言葉の続きを待つ。
「一応……龍くんは、結莉たちのことを信じ切れなくて、一先ずお試しで一緒に行くことにした……よね? 結莉の提案だけど」
「あ……ああ、そうだな」
「龍くん、いつも美味しそうに食べてるし。ちょっと口調も砕けてきてる感じがあるし、もしかして胃袋を掴まれちゃったんじゃない?」
「うっ……ゆ、悠莉姉ちゃん……そんな言い方されたら、なんか頷きづらいだろ。あと、それだけが理由じゃない」
気まずそうに目を逸らしながら龍也が言うと、悠莉が小さく笑った。
そして、軽く謝ってから続きを促すと、龍也はぽつりと言う。
「……ちゃんと守ってくれたから」
「ん??」
「そ、そういうのじゃねぇよ……!?」
「主様ステイステーイ。落ち着いてくださいね」
ヴェルディーゼが圧のある声を漏らしたので、龍也が慌てて弁明した。
ユリもぽんぽんと隣にいるヴェルディーゼの肩を叩き、落ち着かせる。
そもそも龍也は悠莉に想いを寄せていると知っているはずなのに、とユリが苦笑いしつつユリが龍也へと視線を送ると、龍也はヴェルディーゼと目が合わないようにしつつ、更に説明を続けた。
「えっと……ヒドラが咆哮した時に、何も言わずに耳を覆ってくれただろ。ブレスからも守ってくれたし……あと、ヒドラを引きつける時も丁寧に上に運んでくれたし、下ろす時も、自分は飛び降りていったのに、俺のことはちゃんと下まで運んでくれて。……悠莉姉ちゃんの親友が、裏切るような悪い人だなんて、信じたくなかったし……俺も、別にそこまで疑ってたわけじゃないから、信じることにしたんだ」
「は?」
「うおあああああっはいはいはいはい私ここにいますよー主様しか見てないですよー! だから主様も私しか見ちゃダメですよー!」
「……冗談だから、そんなに必死に止めないで……」
ヴェルディーゼの頬を手のひらで包み込み、引き攣った顔をしながらユリが叫んだ。
どうやら冗談でやったらしく、ヴェルディーゼは困った顔をしながらそっとユリの手を剥がし、龍也を見る。
龍也は冷や汗を流しながらぎゅっと悠莉の袖を掴んでいた。
「……ご、ごめん。そんなに怖がられるとは思ってなかった。やりすぎた……」
「あ、え、……いや……こ、怖くない。怖がってないからな……!」
「ごめんなさい、リューくんが弟に見えてきました。いや弟いないんですけど……存在しない記憶なんですけど……」
「ふふ、龍くん可愛いでしょ。私も、昔っから一緒だから、お姉ちゃんとしてちゃんと守ってあげないとって思っちゃうんだ。龍くん、もう私より背が高いのに」
「……お姉ちゃん……弟扱い……はぁ」
完全に異性としては見られていないので、龍也がしょんぼりと肩を落とした。
それに苦笑いし、悠莉から何か聞き出せたら積極的に情報共有をしようと心に決めつつ、ユリはヴェルディーゼの袖を引く。
「あの……主様って、子ども好きですよね? 私ちゃんと覚えてますよ、ほわっほわの笑顔で子どもと接してたの」
「それは別に覚えてなくても良かったんだけど……まぁ、そうだね。それが?」
「リューくんには申し訳ないんですけど、年下感が可愛くないですか。弟っぽいのめちゃくちゃ可愛くないですか。そもそも悠莉姉ちゃん呼びが可愛い……ではなくて、なんか強がりなちっちゃい子に見えてきたので、主様的に子ども判定されてもう少し態度が柔らかくならないかなぁと……」
「元より僕からすれば人間なんて全員子どもだけど。精神面で見るなら、元から僕は結構龍也のことは子どもとして見てる。けど、まぁ、ちょっと未熟なだけで精神は安定してるし、見守るくらいの姿勢でいるだけだよ。あと僕が好きなのは子どもの無邪気なところ。龍也は無邪気ではないでしょ」
苦笑いしてユリが軽く頷いた。
近所の子どもを見ているような、温かい気持ちにはなったものの、確かに龍也は無邪気というわけではない。
「……はぁ、しょうがないですね。態度の軟化は諦めます。……そういえば、ゆうちゃんたちの友達って誰なんでしょう。詳しくは教えられてませんよね」
「まぁ、そうだね。後回しにしたのか、会うまでは教えたくないのか……どっちだっていいけど」
ヴェルディーゼがそう言って肩を竦め、ユリの頭を撫でた。




