加減と賢者の存在意義
ヴェルディーゼの龍也の模擬戦が始まり、ユリはぽーっとヴェルディーゼのことを見つめていた。
こんなにも安心してじっくりと戦闘を見る機会は中々無かったので、うっとりとした表情をしている。
「……はあ〜〜〜……ぁ〜……うわぁー……」
「結莉? 大丈夫?」
「大丈夫じゃないです主様がかっこよすぎる。語彙が死ぬ……死んだ……え、えぇ……? 顔面が強すぎませんか……? え……? 私こんな人とイチャイチャしてたの……??」
「ユリも釣り合うくらいには可愛いと思うけど……」
「えへへぇ、そうですかぁ? 照れちゃうじゃないですかぁ〜、んもぉ〜……ゆうちゃんも可愛いですよっ。ゆうちゃんだって主様にも釣り合うと思います! あっ、あげませんけど!」
「ふふ、わかってるよ。今の結莉にとって一番の褒め言葉だからそう言ったんだよね。……ちょっと嫉妬しちゃうけど……恋人のことが大好きな結莉、本当に可愛い」
ぽんっとユリが顔を真っ赤にした。
そして、動揺しながらあちらこちらに視線を彷徨わせると、咳払いをして震え声で言う。
「こほんっ、ごほんっ! こほっ、げほっけほっ……ゆゆゆゆゆゆゆゆうちゃん!? べべ別に大好きとかじゃありませんけど、誤魔化してるわけじゃないですけど主様とリューくんの方に集中しましょう! ね!?」
「……もう。照れちゃって……ヴェルディーゼさんにはちゃんと気持ち伝えられてるの……? 恥ずかしくても言わないとダメだよ? 大好きならちゃんと大好きって――」
「ゆうちゃぁん!」
「……ふふ、照れてる結莉が可愛いからからかっちゃった。もう言わないよ。ごめんね」
ユリが涙目になってしまったので、悠莉が謝ってからヴェルディーゼと龍也の方を見た。
模擬戦ではなく、先ずは剣の持ち方、振り方の指南かららしい。
「基礎からやってるね。一応、お城で指南は受けたんだけど……」
「主様のことですし、もっといい方法を知ってるってことなんでしょう。それか既に習ったことをもっとちゃんとできるようにやらせてるのか……主様、スパルタですから。どちらにせよ完璧になるまで終わらないですよ、あれ」
「でも、ユリには優しかったんじゃないの?」
「全然。人前だからとか、これからこのくらいのことはやるぞーって指標のために私をボコボコにしたとかじゃないですよ。普段からあれ、っていうかもっと酷いです。リューくんにも加減してそ〜……」
ヴェルディーゼの様子を見てユリが愚痴っぽく呟いた。
まだ最初ということもあり、ヴェルディーゼは丁寧に言葉とお手本で説明をしていた。
もちろん普段のヴェルディーゼもちゃんと丁寧な説明はしてくれるのだが、やって慣れろというスタンスである。
容赦なく、説明を交えながらも実践あるのみとずっと素振りやらをさせられた経験があり、ユリが遠い目になった。
「本当に鬼畜なんですから。スパルタだし。疲れるし。くっそ広いお城の庭とか何周も走らされるし」
「それはユリの体力が無いからだよ」
「ぴゃひ!? ……あ、主様? な、なんで……」
「なんでって、休憩だからだけど。悠莉は今日のところは座学ね。短いけど、休憩中に少しだけやろう」
「あ、うん、わかった」
「ちょっと待ってください、休憩ってなんですか。私の時はそんなもの存在しなかったのに? リューくんに甘くないですか、気に入ってるんですか」
「……今じゃなくて、これまでの話だよね? 必要無かったからだけど。必要な時はちゃんと入れてるよ。お気に入りかどうかは……真面目にやってくれるからそれなりに好ましいけど、特別気に入ってるわけではないかな。ユリが一番のお気に入りだよ」
「ほんとにぃ……?」
「本当本当。後で構ってあげるから、ユリは静かにしてて」
子どもを相手にするようにいなされてしまい、ユリがそういうのじゃないのにと唇を尖らせた。
ユリには厳しいので少し不満だっただけなのに、と。
しかし、あまり邪魔をするわけにもいかないので、ユリは不満そうにはしつつも大人しくしておく。
「悠莉が使うスキルは、魔法を発生させるもの。他のスキルより火力が高かったり、便利だったり、あるいは楽に使えたりとか。色々と、他のスキルの上位互換なんだけど……」
「他にも何かあるの?」
「他のスキルの魔法とは完全に別物なんだよ。見たことないからこんな断言したくもないんだけど……明確にモノが違うらしい」
「……そうなの?」
「そもそも賢者っていうのは、そうそう現れたりはしない。世界が危機に瀕して、勇者だけではどうにもならない時に、そのバランスを元に戻すために賢者っていう存在が生まれる。勇者よりも重要な場所にいるんだ。って言っても、賢者単体だとあんまり強いわけでもないから、勇者だって大事なんだけど。……ああ、少し話が逸れたな。賢者は色々便利なことはできるんだけど、何よりも支援能力が特出してる。とりあえず、そこについて理解を深めてもらいたいんだ」
「う、うん……わかった。支援能力……」
悠莉が頷くと、ヴェルディーゼも満足そうに目元を緩め、どう説明するかと虚空へと視線を投げた。




