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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
ようこそ、神の世界へ

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模擬戦とヴェルディーゼの仕事

 それから数ヶ月後。

 ユリが鎌を手にしてヴェルディーゼに飛びかかりながら口を開いた。


「唐突ですけど、無自覚なのに焦がれているのはわかるってなんなんですか? 自覚してるじゃないですか」

「本当に唐突だね……好きなんだろうなぁって漠然と思うだけで、好きだなぁとは思えないんだよ。俯瞰してる感じかな……今は無自覚なことを自覚してる状態なんだよ。だから冷静に分析して、焦がれているって言える」

「はえー……うわっとぉ!?」


 気の抜けるような返事をしていたユリが慌てて飛び退いた。

 ユリがいた場所に突然氷の檻が現れる。

 数ヶ月が経った現在、ユリは研鑽を重ね、実力もそれなりのものとなっていた。

 今はヴェルディーゼとの模擬戦中である。


「閉じ込められてほしいのにな」

「こっわ。いやまぁ、なんというか……こういうのよく使うなって印象はありますけど。拘束系の魔法、捕まると悲惨なことになるんですよね……私が」

「ふふっ、別に嫌じゃないでしょ。抱き枕にしても大人しいし」

「最近ようやく慣れて寝れるようになってきたところなんですからね! それでも寝付きづらいのは確かなんですから、拘束系は回避以外の選択ないです。歓迎できません。拘束されたまま抱き枕コースですからね!」

「寝苦しそうな顔も可愛いんだけどなぁ……抱き枕としても、サイズ感が凄くちょうどいいし……あとあったかい」

「……寒がりなんですか?」

「どうだろう。あったかいのが好きなだけだと思うけど」

「まぁ私は寒がりですけど」

「そっか、じゃあ寒くしてあげよう」


 パチン、とヴェルディーゼが指を鳴らした。

 空が灰色の雲に覆われ、降ってきた大粒の雪が強風に煽られユリに直撃する。

 瞬く間に気温が下がり、体温を奪われ、ユリが白い息を吐いた。

 少し震えた吐息を見て、ヴェルディーゼがにっこりと笑みを浮かべる。


「……っ、あー……ミスりましたねぇ。情報与えちゃった……」

「そう、敵に情報を与えちゃいけないよ。それが有益になる場合はともかく……弱みを知られることになるからね。まぁ、こんな気温になれば弱いとか関係なく誰だって動きが鈍るだろうけど」

「ぐぬぬぬぬ……うぅ、鎌冷た……っ。上手く持てないぃ……」

「ユリの弱みは、深淵魔法しか扱えないが故に自分で体温を上げたりすることができないこと。逆も然りだね。毒なんかもそう、ユリはそれらを魔法で解決する術を持たない。だから、こうすれば」

「きゃん!?」


 ピシ、と音を立ててユリの足が凍り付いた。

 その場から動けなくなり、ユリが冷や汗を流す。

 ヴェルディーゼは穏やかな微笑みを浮かべたまま、ゆっくりとユリに近付いてきていた。

 ゆっくりとした歩みなのはユリにこの状況を打開する猶予を与えるためだろう。

 それがわかっているだけに、ユリがどうにか状況を打開しようと頭を回転させる。


「……あああっ、一か八か! 駄目だったらすぐに助けてくださいね!!」


 ユリがそう叫びながら深淵魔法を足元で発動させた。

 深淵が氷を呑み込み、ユリの足をも呑み込もうとする。


「うひぃっ、ぞわぞわする……! 解除解除解除解除! ……かーらーのー、ていやぁっ!」


 ユリが魔法を解除し、一気に飛び出した。

 そのまま回転し、勢いをそのままにヴェルディーゼに向かって大鎌を投げつける。

 大鎌は回転しながら相当な速度で飛んでいったものの、ヴェルディーゼがぱしりといとも簡単に受け止める。

 しかし、その服は僅かに破れ、肌の表面も僅かに傷付けていた。


「ぃやったぁああああ! 当てた! 当たった! 当たりましたよ主様! 傷付けましたよ! やったぁああああ!!」

「おめでとう。ふふ、結構びっくりしたよ。魔法は使いこなせてるみたいで何より。……まぁ、流石に危なくてヒヤヒヤしたけど……」

「ふひひひひぃ……あー怖かった……」

「大鎌は……投げると危ないね。仕留められなかったら反撃されて終わりになっちゃう」

「あ、はい。そこは深淵をこう、縄状にして捕まえられないかなと……」

「……ああ、なるほど。壊されたりしないように頑丈にしてあるからね。いいんじゃないかな」

「はい! ……主様お手製ですからね……どっから取り出してるんだろうとか思ってましたけど」

「他人が作ったものなんて信用できないよ。僕が作った方が頑丈だし、何を盛られるかもわからないし……」

「敵が多いんですねぇ……」


 この場所に引きこもってのんびりと過ごしているユリがどこか実感のない様子で呟いた。

 とはいえ、ヴェルディーゼと交流区に来ていたからとユリは攫われ、拷問まで受けている。

 敵が多く、ヴェルディーゼも苦労しているのだろうなとユリが息を吐いた。


「……そういえば、主様はあの誘拐犯さんに何をしたんですか? 復讐のために主様に関わっていた人に拷問するとか尋常じゃないですよ」

「ん、ああ……あいつは確か、利益に目が眩んで他の神が創造した世界を侵略したんだったかな。けど、当時は僕に怯えてたから大したことはしてないはずなんだけど……侵略された側の神も温厚で、余計なことをしないように半殺しにしたりする必要もなかったんだけどなぁ」

「よ、余計なことをしないように……半殺し……??」

「侵略されたことに怒って、犯人を殺して余計な騒動が起こることもあるからね。それ相応のことをやらかさない限りはそれを代行して、殺さない程度にボコボコにするよ。そこの創造神は温厚だったからあの時は少しボコボコにする程度で済んだはずなんだけど……記憶違いなのかな……うーん、あそこまで恨まれてるなんて」


 ヴェルディーゼ曰く、あの神にはあそこまで恨まれるようなことはしていないらしい。

 ヴェルディーゼにわからないなら自分にもわからないだろうとユリがそれについてはそれ以上追及せず、ただなんとなく誘拐犯についての質問をする。


「それで、あの神様ってどうなったんです?」

「……ユリとは永遠に関われなくなったよ」

「へー……そうなんですね。あ、そうだ、もう一つ! これまで一緒に過ごしてきてなんですけど、主様の仕事ってなんなんですか? 軽くは聞きましたけど……書類仕事のことしか聞いてないですし。仕事って言って数日空けたりしてますよね!」

「……うーん。……まぁ、いいか。ユリもそこそこ戦えるようになってきたし……」

「それ、関係あるんですか……? お仕事が何なのか聞いただけなのに……」

「……念の為、だね。……簡単に言うと……滅びそうな世界の救出をしてるんだよ。この辺は改めてになるけど、全ての世界は僕の管理下にある。たとえ僕が創った世界でなくてもね。で、世界が滅んだら僕の責任になる。僕は最高責任者だから……管理者と呼ばれることもあるけど、まぁどっちでもいいや。とにかく……世界が滅ぶと理不尽にも僕の責任になるんだよ。まぁ、真っ当な創造神はそうならないように、できることはしてこういう問題点があったから改善中だよ、とかもしかしたら協力を要請するかも、とか書類で伝えてくれるんだけどね。それなら僕も協力しやすいよ。でも手遅れになってから報告してくる輩とか本当にもう――ああ、ごめん。愚痴になってた……」


 ヴェルディーゼが疲れたように息を吐くと、ユリが爪先立ちをしてヴェルディーゼの頭を撫でた。

 そして笑いながらヴェルディーゼを労うと、心配そうな顔をして言う。


「あの。……手伝い、ましょうか……?」

「……予想通りの展開なのに理由が予想通りじゃない……」

「え? ……あっ、ああ! もっ、もしかして、戦えるようになってきたしってそういう!?」

「……そんなことより理由が凄く優しくて僕は感動してるよ。もうマスコットとしてでもいいから連れて行こうかな……でも危ないしなぁ……いやでも、うーん……少しは楽になる……かなぁ……? ……でも殺しとかは躊躇うだろうし、短くても数ヶ月は……うーん……」

「私は主様の傍にいられるなら別にここじゃなくてもいいですけど。愚痴を口走ってしまうくらい疲れるんでしょう? あ、愚痴を聞く係でもいいですよ……?」

「……時々猛烈に帰りたくなるし。それもユリが原因なら……試しに連れて行ってみようか」


 ヴェルディーゼがそう言うと、ユリがぱっと笑顔を浮かべた。

 それを眺めつつ、ヴェルディーゼがユリの頭に手を置いて言う。


「ユリ。君を最高責任者専属補佐官(仮)に任命しよう」

「わぁい! (仮)のせいで格好が全然付かなぁい! ひゃーっ、これからは主様ともっと一緒にいられるかもしれないんですね! えへへへへへ……ふひひ」

「……可愛いなぁ」


 ヴェルディーゼがしみじみと呟き、ユリに触れて部屋に移動させた。

少し前から体調不良で、そろそろストックも無くなってきたのでお休みさせていただきます。

治ったら更新しますので、よろしくお願いいたします。

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