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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
再会の世界

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ユリの作戦

 衝撃が――衝撃()()がその身体を貫いて、ユリは軽く吹き飛びながらも目を開ける。

 その身体には傷一つ無く、腐ってもいなかった。

 尻餅を付いたことによるもの以外、痛みすらもない。

 一瞬呆然としたユリだが、すぐ傍にヴェルディーゼの魔力を感じることに気付いて、慌てて立ち上がりながら頬を緩めた。

 そういえば、結界は張るなんてことをチラッと言っていたな、とユリが安堵しながら周囲を見回す。

 悠莉と龍也には傷一つ無い、まだ深淵に守られている。


「ブレスは、止んでる……」


 ほっとユリが息を吐き、注意深くヒドラの様子を観察しながら深淵を解除した。

 視界が開けて、龍也がヒドラの位置を確認し、悠莉はちらりとユリを振り向く。

 その視線に気が付いたユリは無事ということを示すために軽く手を振り、ヒドラを見据え直した。

 一先ず二人には先ほどまでと同じ行動をしてもらい、ユリが思考する。


「ふぅ〜……冷静になれ、私……先ず、ブレスの乱射は厄介。やられたら全方向を深淵で囲まないといけない……なるべくやらせたくない……っ、ゆうちゃん!」


 ヒドラの頭の一つが口を開き、悠莉に狙いを定めるのが見えてユリが悲鳴じみた声を上げた。

 そして、悠莉の前方に深淵を展開し、ブレスを深淵で呑み込む。

 計らずも、ブレスをする時は毎回乱射してくるわけではないとわかった。

 ならば――と、ユリが足元に深淵を出して固め、それを上へ上へと伸ばしていく。

 そうして出来上がるのは、ヒドラよりもずっと高い、深淵でできた柱。

 とはいえ柱があると悠莉と龍也の邪魔になるので、いらない部分は手元に戻しながらユリが叫ぶ。


「作戦変更です!! 一先ずあの翼がお飾りじゃないのかどうかを確認します! 攻撃を中断し、攻撃を避けるのに全力を注いでください! 翼が使えるようなら作戦を説明します!! 今は体力の温存です!」


 ユリがそう言い、ヒドラに鎌を投げ付けた。

 ヒドラの視線がユリへと向き、ブレスが放たれる。

 しかし、そのブレスは柱だった部分を利用して拡張された足場に阻まれ、ユリに届くことはなかった。

 再びヒドラが咆哮し、その翼が動く。

 翼を用いてヒドラが空を飛び、ユリよりも高い場所へと舞い上がった。

 翼はお飾りではないらしく、安定感もある。

 どうやら、ちゃんと飛べると見て良さそうだ。


「ゆうちゃん、ヒドラの真下へ! 時間がかかっても構いません、真下から最大火力をお見舞いしてやってください! リューくん、その場から動かないで! 足場を作るので、上で一緒にヒドラを引き付け続けてください! ヒドラは真下へは攻撃できません! 真下からなら一方的に攻撃できます!」


 ユリが叫んで指示を飛ばし、手元にある深淵を使って龍也の足元に柱を生やし、合流した。

 また不要な深淵は回収して、ユリが龍也に説明を行う。


「リューくん、遠距離攻撃の手段って皆無ですか? 攻撃を続けて、ヒドラのターゲットがゆうちゃんに向かないようにしたいんです」

「あ、いや……剣を喚び出すことはできるから、できなくはないと思う。喚び出すのに結構体力は使うし……さっき思い付いたことだから、上手くできるかわかんねー、けど……」

「投げるんですね? 幸い、ヒドラは無駄に図体がありますからね。コントロールはほとんど必要無い。ゆうちゃんに当たりさえしなければそれでいいです。あと、限界より手前で中断してください。人間が素手で触っても大丈夫なのか試したことないけど、深淵で固めた剣を作り続けますから。それ投げてくれればいいです」

「わ……わかった。……よし!」

「あ、あと急に私の視界から外れないでくださいね。移動はしても大丈夫ですけど、逐一深淵を移動させないといけないので。気配頼りは不安が残ります」


 龍也が気合を入れて頷くと、水を指すことにはなるもののユリがそう注意した。

 万が一落下してもすぐに回収はするが、それでもとても危険なことには変わりない。


「ゆ、ユリさん、落とすなよ!? 頼んだからな……!?」

「そんなフリみたいに念を押されたら落としたくなっちゃうじゃないですかぁ、なんて……任せてください、絶対落としませんよ。――そいやぁ!」


 ユリが龍也を安心させるように言い、鎌を投げ付けた。

 鎌はヒドラに当たり、しかし頑丈な鱗に阻まれて弾かれる。

 弾かれた深淵の鎌をユリが手元に戻し、また投げ付けた。

 この繰り返しでヒドラを引きつけ続け、悠莉にトドメを刺してもらうのがユリの考えた作戦である。


「任せちゃいましたけど、ゆうちゃん大丈夫なんですかね? 高火力技、あります?」

「ある。やったらしばらく動けなくなるけど……悠莉姉ちゃんのことだから、ユリさんのことを信用してやると思う」

「うひゃ〜……信頼が重いような嬉しいような〜ぁッ!? っぶねぇ! セーフ!!」

「……!? ユリさん怪我は!?」

「セーフですセーフ!!」


 つい気が逸れて、ユリがギリギリでブレスを深淵で受け止めた。

 ギリギリ怪我もすることなく受け止めることができて、ユリが安堵の息を吐き出しつつヒドラを見据え直す。

 と、そんな時、ユリが下の方に違和感を覚えて視線を下に向けた。

 何も見えないが、渦巻く魔力を感じて、ユリが息を呑む。

 どうやら、悠莉の準備が完了したらしい。


「……思ったより、凄いことになりそ〜……」


 そうぼやきつつ、ユリが最後の最後までヒドラを引き付けようとまた鎌を投げ付けた。

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