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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
再会の世界

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乱射

 あの後、暴走しそうになる度にヴェルディーゼに真顔で見つめられ、冷静になったユリは二人を先導して歩いていた。

 ヴェルディーゼに鍛えられているので、気配の把握はお手の物である。

 ユリが先導し、ヒドラの気配を捉えながら移動し、不意を突いて攻撃しようということで纏まったのだ。


「……寝てます、ね。ひゃ〜……やっぱデカ〜……」

「ユリさん、大きさはどれくらいなんだ? 大きい個体だと山くらいあるって聞いてんだけど……」

「えー、と……そうですね。えっと……目の前に盛り上がった土地があるじゃないですか? ちょっとした小山みたいになってる……見えます?」

「見えるけど……」

「ちょうどあの中にいます。すっぽり収まって寝てる感じ……なので、寝ている状態だとあの小山よりも一回り小さいくらいですね」


 ユリがそう説明すると、龍也と悠莉が固まった。

 小山とは言えど、山は山である。

 人なんて比べ物にならないくらいのサイズはあるし、そもそもが眠った状態でそれなのである。

 当然、起きればもっと大きいだろう。


「てか……なんか、もしかして翼生えてます? ヒドラって翼生えてるんですか? ずるくないですか? 飛べるの……?」

「えっ? ヒドラに翼は無いはず……だよね、リューくん?」

「ああ、そのはずだ。……そのはずなんだけど……突然変異とかか?」

「絶対生えてますよこれ。おかしいんですね。えぇー、なんで……あ」


 ユリが何かに気が付いたように声を漏らし、目を伏せた。

 そんなユリの様子に龍也が代わりに周囲を警戒する様子を見せ、悠莉が黙ってユリを見つめる。

 ユリは自分の中で結論を出すと、落ち着いた声で話を始める。


「絶対じゃ、ないですけど。このヒドラ、キメラなんだと思います。……ゆうちゃんと再会した時に倒したあの魔物は……人間と魔物のキメラでした」

「あ……!」

「魔物同士のキメラ……あるいは、動物かもしれませんが。……私たちの想定よりも、厄介かもしれません。もし魔物同士のキメラなら、ヒドラと……更に、他の魔物の性質も持ってるかも」

「……どうする? ヴェルディーゼさんに連絡するのか?」

「……いえ……主様は、わかっていて実力は足りてると言ったはずです。私がわかったのに、主様にわからないはずないですから。……ただ、この件で一番不可解なのは……いえ、後で話します。たぶんノイズになっちゃうから」


 ユリが言いかけて、途中で言葉を止めた。

 そして改めて前を向くと、気配を捉え直してゆっくりと先導を再開する。

 ユリが普段使っている鎌は、深淵を固めて作り出したもの。

 魔法なのだから、鎌の形になっているだけの深淵を元に戻して、また操ることもできる。

 いざとなれば、深淵で全てを呑み込んでしまおうと心に決めつつ、ユリが慎重に慎重に歩いていく。


「何かあったら言ってくださいね」

「うん……あっ、見えた」

「はい。あれと戦うので、ちゃんと気合入れてくださいね。……そろそろ黙りましょうか。話し声で気付かれたらまずいです」


 ユリの言葉に悠莉と龍也が頷き、静かにユリの後に続いた。

 そして、充分に近付くと、ユリが悠莉に手で合図を送る。

 小声でスキル発動のために必要な言葉が呟かれて、その杖から眩い光が飛び出した。

 光はヒドラの頭の一つに命中し、悠莉は後退、龍也が挑発のためヒドラの頭に斬りかかる。

 ユリは横に移動して二人の状況が確認できる位置に付くと、じっとヒドラを観察する。

 ヒドラが咆哮し、全員の耳に衝撃が与えられた。

 ユリが眉を顰めながらそっと一番近くにいる龍也の耳を深淵で覆い、音から耳を守る。


「リューくん、もう少し離れて! もう攻撃のことは考えなくていいです!」

「ああ!」

「ゆうちゃん、攻撃を! 一先ずリューくんが充分に距離を取れるまで目眩まし優先で!」

「了解!」

「えと、そしたら、えーっと……」


 指揮なんてしたことが無いユリがなんとか戦場を観察し、次の行動について考える。

 焦るし、何をどうしたらいいのかもいまいちわからないが、状況を俯瞰していられるのはユリだけ。

 こういう役割分担になるのも仕方の無いことだろう――が、不安で不安で仕方がなく、ユリがぎゅっと胸元で拳を握り締める。

 複雑に考えないように、ただできることを、とユリが頭の中で繰り返し、声を張り上げる。


「避難完了です! 火力優先で!」


 ユリが叫ぶと、悠莉が使っていた魔法を切り替えた。

 すると、悠莉が杖が向けた先で、数秒間隔で爆発が起こり始める。

 返事は無かったが、しっかりと指示は届いている。

 そして龍也の方だが、ヒドラから一定の距離を保ちつつも、しっかりと囮役として活躍していた。

 ヒドラの注意が逸れそうになる度にリスクを承知で近付き、その視線を奪う。

 危なっかしくはあるが、今のところは問題は無い。

 ――と、そこで再びヒドラが咆哮する。

 怒りに満ちたそれが軽い痛みを伴いながら三人の鼓膜を穿ち、ヒドラの九つの口が同時に開かれた。

 その口はそれぞれ別の方向を向いており、ユリがひゅっと息を詰める。


「下がってください! たぶんブレスの乱射です! 攻撃中断!! 全力で退避を……っ!」


 悠莉と龍也が退避を始めるが、間に合いそうになくユリが腕を伸ばした。

 そして深淵で二人を包み込むと、ほっとして息を吐く。

 そして――目の前に光が見えて、ユリが目を見開いた。

 どこか冷静な頭が、そういえば自分のことは考えていなかったな、なんて感想を零す。

 ユリが反射的にぎゅっと目を閉じて、身体を小さくし――衝撃が、その身体を貫いた。

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