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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
再会の世界

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必要な犠牲と完璧主義

 腹拵えを済ませた一行は、現在地図を見ながら歩いていた。

 ヒドラ、そして勇者と賢者の現在の実力を確認するためか、近くで待機している魔族の討伐に向かうためである。


「で、ヒドラってどんな魔物なんですか? 確か神話だと……首がいっぱいある海蛇かなんかだったかな」

「こっちだと首が九つあるドラゴンみたいなやつで、ブレスが凶悪なんだ。猛毒で、触ると腐る」

「ふむふむ……なんかそんなの読んだことある気がします。てか怖、腐るんですか」

「うん。身体自体も触っちゃうと危ないし、龍くんは引き付け役に専念してもらって、私が戦う感じになるかな」

「主様、出番ですよ。きっと私たちじゃきついです。……主様?」


 珍しく一切ヴェルディーゼからの返事が来ないので、ユリがその顔を覗き込んだ。

 真剣な顔をして、何やら考え込んでいる様子だ。

 気になることでもあるのだろうか、とユリがそっと不思議そうに首を傾げて、その頬に手を当てた。


「……わ、何?」

「主様が返事してくれなかったので。気になることがあるなら共有してください。なるべく」

「ああ……そうだね。いや……監視役っぽい魔族を殺さないといけないわけなんだけど。どう殺されたかどうかもわからないようにした方がいいかなって。魔族が魔王の造物か何かだとすると、視界を共有できてもおかしくはないし」

「……それだったら、もう魔族を相手にしてるんですし……無駄では?」

「見ればそういう能力の有無はわかるから。ただ、直接見ないことにはね……」

「謎能力過ぎます。なんですかそれ……」

「魔法だよ。世界に負担をかけることには違いないから、頻繁に使うわけにもいかないけど……魔王討伐のためだし、多少は仕方が無い」


 ヴェルディーゼがそう言って肩を竦めた。

 魔王を討伐しなければ、世界は喰らい尽くされて消滅する。

 しかし、負担を掛けるだけならば、世界は多少不安定になるだけで滅びはしない。

 魔王を生かしておけば残された運命は滅亡だけなので、ヴェルディーゼは多少のことは気にしないつもりらしい。


「……あの、ヴェルディーゼさん。質問なんだけど……世界に負担を掛けると、具体的にはどうなるの?」

「不安定になって、天変地異が起きたり、災害が頻発したりする。魔王さえ討伐したら、外側から調整はするけど……それでも、多少の被害は免れないだろうね。それらは必要な犠牲。減らす努力はするけど、ゼロにはできないだろうな」

「……必要な犠牲……」

「世界のエネルギー補給の手段の一つは、魂が輪廻すること。死んで、また違う存在として生きる。その循環を加速させるということでもあるから……それを止め続けても、世界にとっては……これが、一番効率の良いものだし」

「そっか……必要なこと、なんだね。……私は、歓迎はできないけど……」


 悠莉が目を逸らしながらそう言い、息を吐き出した。

 そして、しっかりと前を向いて歩き出す。


「……主様……」

「ん? 何、ユリ」

「なんか、主様も気にしてます? この世界の人のこと……どうしても出ちゃう、犠牲者のこと」

「……昔は、気にしなかったかもしれない。個人を気に入ることはあったけど、それでも……人間は、有象無象の集合体に過ぎないから。僕が守るべきは世界で、人間じゃなかった。多くの場合、人間が文明を築くから世界では人間が主となっているだけで……世界にとっては、別に大きな存在ってわけじゃない。……だけど、ユリが元人間でしょ。だから、少し気にするようになって……出さなくていい犠牲を出してしまったら、今の僕は気にするだろうね」

「完璧主義者。主様だって完璧じゃないんですから、そんなもの仕方がないのに」


 ぷく、と頬を膨らませてユリが言えば、ヴェルディーゼが目を丸くした。

 かつて、ユリはヴェルディーゼは完璧で、欠点なんて無いと思ってた、と口にした。

 それをヴェルディーゼは聞いていたから、その認識が既に覆されていることは、知っている。

 今は、ヴェルディーゼも割とポンコツなところを晒している。

 だが、それでも。

 あまり、それを実感はできていなかった。

 ユリに失望なんてされないとわかったから、ポンコツなところも晒して。

 だが、ヴェルディーゼは責任ある立場だから、仕事では完璧を追及しなければならないのに。

 それがヴェルディーゼの役割なのに、ユリは、あっさりとそれを仕方がないと一蹴した。


「あのですね、主様。少しでも犠牲が出ないようにっていうのは、わかります。褒められるべきで、美徳です。それができるなら、それが一番いいのは本当にそうです。でも、主様はいくつもの世界を救うお人で……毎回毎回、できなかったって責めていたら、心が持たないですよ。それに……」

「それに?」

「主様。主様の、一番大切な人は誰ですか?」

「ユリだよ。それは絶対に変わらない」

「はい。私も主様が一番大切です。なので……」


 ユリがそこで一度言葉を切り、笑みを浮かべた。

 可愛くて、蠱惑的で、魅力的な笑みを浮かべたユリが、甘えるような声で言う。


「私のために、主様は自分を傷付けないように。例え主様でも、私の主様を傷付けたりしたら許しませんからね?」

「……」

「ね、あるじさ――んむ、むっ……!?」


 とろんと蕩けたような瞳で言葉を続けるユリの唇にヴェルディーゼがそっと指を当てた。

 途端にユリが顔を真っ赤にするので、ヴェルディーゼは緩んだ笑顔を浮かべながら、仕返しに言う。


「やっぱりユリは、背伸びせずそういう顔をしてるのが一度いいよ」

「何が背伸びですかぁ! こっちは心配して心配して、どうしたら主様が自分を責めないかって必死に考えてたのに!」

「ありがとう。可愛いね」

「このぉ……! うぅ、うう〜……」


 ユリが涙目になり、ヴェルディーゼの胸板をポコポコと叩いた。

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