ユリの助言
パチパチと、炎が弾ける。
下処理を終わらせて、後は焼くだけになったので、四人はそれぞれくつろいで食事が出来上がるのを待っていた。
「ねぇ、結莉。さっき、なんか……その、ヴェルディーゼさんが慌てて包丁を押さえてたけど……」
「ああ。私、鎌以外の武器持っちゃうと弾け飛ぶんです。武器が」
「えっ?」
「武器が弾け飛びます。普通に危ないので、主様が押さえてくれました。……まぁ、武器だって認識した原因も主様なんですけど……」
「え、ええ……? 大丈夫なの……?」
「もう慣れてるので大丈夫ですよ。そもそも武器だって認識しなければいいんです。……っと、主様?」
ユリが悠莉と話していると、トンと肩に軽く触れられたので、ユリが振り返った。
ヴェルディーゼはそんなユリの頭を撫でると、視線をユリから逸らして龍也の方へと向ける。
そこには、何やら困っている様子の龍也がいた。
声をかけろ、ということかとユリが理解して軽く頷く。
「さて。仲良し同士でばっかり話しててもしょうがないので、リューくんにも声掛けてきますね。主様、もし良かったらゆうちゃんとも話してくださいね。私の親友ですよ!」
「知ってる。別に雑に扱ってるつもりはないよ。……まぁ、そうだね。少しは仲良くなる努力もした方がいいか」
ヴェルディーゼがそう言って肩を竦め、悠莉と向き合った。
それを確認してから、ユリが笑顔で龍也の方へと近付いていく。
「恋愛相談ですか?」
「んぐっ!? な、なんでわかって……」
「そりゃあ、わかりやすい顔してますしぃ。で、どんな相談ですか? バレないように和気藹々と、表情和らげて〜。はい、聞きたいことをどうぞ」
「……その……悠莉姉ちゃんが……こう……ドキッと? することとか、知らないか?」
「うーん……ゆうちゃん、そういうのとは無縁ですからね。推しとかもいませんし。あんまり具体的なことは知りませんけど……気遣いのできる人って素敵だよね、って感じのことをぽろっと言うことは何度かありましたね。リューくんはどうです? やってます?」
「……悠莉姉ちゃんが、そういうとこ凄く気が回るから……やろうとしても、先手を取られるというか」
「あー……」
ユリが苦笑いしながら悠莉を見た。
ヴェルディーゼと何やら会話をしている悠莉は、しれっと魚の向きを変えて焦げないようにしていた。
「……ゆうちゃんは、そういうところありますね。んー……まぁ、やれるだけ頑張るしかない気がします。ゆうちゃん、本当にとことん恋愛話とかしませんでしたからね」
「そっか……じゃあ、プレゼントとか! 何あげたら喜ぶのか……わかってないってほどじゃないんだが、確信が持てなくて」
「可愛いぬいぐるみとかアクセサリーとかですね。アクセサリーは、付けないんですけど眺めるのが好きなんですよ、ゆうちゃん。むしろプレゼントより一緒に見に行く方が喜ぶかもですね」
「一緒に……それって……」
「デートチャンス、ですね。ゆうちゃんの力便利ですし、お世話になってるでしょう。日頃のお礼って名目なんてどうです?」
にま、と笑ってユリが提案すると、龍也がこくりと力強く頷いた。
アピールの方針を決める手助けになったようなので、ユリが手を振ってヴェルディーゼの傍へと戻る。
「ただいまで〜す。お魚は……と。もうちょっとですかね。……あ、ゆうちゃん、魚の向き変えてくれてましたよね? ありがとうございます」
「あ、ううん。気にしないで、たまたま気付いただけだから」
「んふふ、遠慮せずにお礼は受け取ってください。……ん、主様?」
ヴェルディーゼがそっと近付いてきて手を繋いでくるので、ユリが首を傾げた。
そして、向き合ってニコニコと微笑みながらユリがヴェルディーゼを見上げる。
「……悠莉のユリへの愛が怖いよ」
「え? ゆうちゃんが? なんですか?」
「僕ほどじゃないけど」
「え? あ、はい、でしょうね。昨夜、めちゃくちゃヤンデレ発言してましたもんね。まぁ私も大概なんですけど。で、なんですか?」
「……ユリの友達になってもいい人を、ちょっと選別してたとか……あくまでも親友なんだよね……? しかも結構厳しい感じだし」
「だ……ダメだったかな、結莉……」
「えー……ダメってことはないですけど。まぁ、一言欲しかったですかね。あと過保護です。危ない人と関わったりしませんよ?」
「ヴェルディーゼさんって、邪神なんだよね?」
本人の性格はともかく、字面からして怪しくて危ないよね、と悠莉が笑うと、ユリが目を逸らした。
そして、ぎゅっとヴェルディーゼに抱きつくと、少し表情を取り繕って言う。
「け、結果から見れば、主様はすっごく優しいですし! 私には!」
「最初からそれがわかってたわけじゃないんだし……これからずっとそんな出会いが続くわけじゃないんだから、やっぱり結莉は誰かがこれくらい警戒しないとダメだと思う。絶対どこかで騙されちゃうよ」
「ふぐぐ……あ、あれは、主様が何か仕掛けてたらしいですしぃ……」
「逃がしたらユリは本当に死んで二度とその姿を見ることも声を聞くこともできなかったからね。強引で悪いけど」
「それはそうだね。結莉が警戒しなさすぎるのも事実だけど」
「……そろそろお魚が焼けますね! 食べましょうか!」
ユリが声を張り上げて誤魔化し、食事の準備を進め始めた。




