夕食と、以前と変わらぬもの
しばらく歩いていると少し暗くなってきたので、四人は野宿の準備をしていた。
悠莉と龍也は食材の調達を、ユリが料理を、ヴェルディーゼはユリが怪我をしてしまわないよう見守りつつ、寝床の準備をしている。
大きめの簡易のテントのようなものである。
四人で寝るにはあまりにも狭いので、料理を煮込んでいる最中にユリがヴェルディーゼに布と糸、針を出してもらい、改造した。
荷物は悠莉のスキルでしまっておけるので、大きくなっても問題無しである。
「ん……スープは大丈夫そうですね。……ゆうちゃんとリューくん、遅いなぁ……大丈夫ですかね? 何かあったんじゃ……」
「ん? んー……大丈夫だよ。ちょっと遠くまで行き過ぎただけみたいだから。草いっぱい持ってる」
「草って。まぁ、無事ならいいですけど……あ、見えた! ゆうちゃーん、リューくーん! こっちですよ〜!」
噂をすればなんとやら、二人の姿がユリにも見えて、ユリが嬉しそうに声を張り上げながら両手で手を振った。
火の近くでぴょんぴょんと飛び跳ねていて危ないので、ヴェルディーゼがそっとユリを火から引き剥がしつつ二人に寄っていく。
「持つよ。ちょっと遠くまで行ってたみたいだけど……」
「あ、うん。水場が見えたから、ちょっと確認しに行ってたんだ。勝手にごめんね、一言伝えた方が良かったよね」
「いや、それならいいんだけど……ユリが心配してたから確認しただけだから」
ヴェルディーゼがそれだけ良い、二人が集めた食材を持ってユリのところに戻った。
ユリにそれを差し出すと、ユリは軽く状態を確認してから料理を再開する。
「ただいま、結莉! 怪我してない?」
「……ただいま」
「おかえりなさい! 怪我はしてませんよ、主様が見守っていてくれましたから! それよりもうすぐご飯できますから、座っていてください。食材調達、お疲れ様でした。お二人こそ、怪我はありませんでした?」
「うん! 大丈夫だよ、どこも――」
「……悠莉姉ちゃん、転んで怪我してた。すぐに治してたけど……」
「龍くん!?」
「……ふーん? 嘘吐いたわけですか、へーぇ? 嘘吐きのゆうちゃんには罰としてお仕事を追加します。火力の調整してください、スープが濃くなっちゃう」
ユリが眉尻を下げながらそう言うと、仕事の追加と聞いて身構えていた悠莉が目を丸くした。
そしてすぐに頷くと、スキルを使って火力を調整する。
それが終わって悠莉がユリを見ると、ユリはふんにゃりと笑って嬉しそうにその手を取った。
「ありがとうございます、ゆうちゃん! 主様、今はあんまり魔法使っちゃいけないから……できれば、ゆうちゃんにやってもらいたくて。いつもは魔法でやってもらってるから、火力の調整の仕方あんまりよくわかってないんです……えへへ。どうにかしなきゃですね。それか贅沢言わずに全速力で作るべきかなぁ」
ユリがそう言いながらサラダを作り、丁寧に盛り付けた。
そして、今ある調味料や香草でドレッシングを作り上げると、サラダを三人がいる方へと持っていく。
「すぐスープも持ってきますね。メインも後は焼くだけですから、先食べて待っててください」
「あ……私、手伝うよ! スープ盛り付けて運べばいいよね」
「あ、俺も! えっと……スープ運ぶよ!」
「いいんですか? ありがとうございます。じゃあメイン作りに集中するとして……えっと、火を強めるには……風を送ったりするんだっけ……? あと距離と? ……燃料か!」
ぶつぶつとユリが呟きつつ試行錯誤をし、火力を調整して今日のメインディッシュの肉を焼き始めた。
明るい内に川には出会えなかったので、悠莉が食事用にと保管していた少し硬い魔物肉である。
「一回で二枚が限界かぁ……ま、しゃーないですね」
「僕は後でいいよ、ユリと食べたいから。むしろユリと一緒じゃないと嫌」
「そうですか? ならお言葉に甘えて、ゆうちゃんとリューくんの分を」
「……ありがとね」
悠莉がちらりとヴェルディーゼを見て、そうお礼を言った。
龍也もぺこりと頭を下げ、食い入るように肉を見つめる。
その態度が少し気になってユリが尋ねれば、二人はここ最近こんなにもちゃんとした料理は食べられていなかったらしい。
疲れ果てて料理をする気も起きず、昼食はもう少しまともなものの、夜は干し肉を齧ったりするくらいだったと言う。
「ご飯はちゃんと食べなきゃダメですよ。ゆうちゃんたちは……。……お肉、焼けたので持っていきますね。熱いので気を付けて」
ユリがそう言って二人の前に肉を置くと、二人の目が輝いた。
ユリが料理上手なのは、悠莉も知るところである。
時々夕食にお邪魔することもあったし、頻繁にお弁当のおかず交換などもしていたので。
龍也もまた悠莉からそんな話は聞いたことがあったし、目の前にある料理はとても美味しそうだった。
ぐぅ、と途端に二人の腹の虫が鳴き始める。
「ふふっ……こっちもすぐ焼けますから、食べちゃっていいですよ。お腹空いてるんでしょう?」
「ご、ごめんねっ……いただきます。……あっ、美味しい……!」
「えへへ、ありがとうございます。ってリューくん、そんな勢い良く食べたら火傷しますよ! ゆっくり! 料理は逃げませんから!」
「ほ、本当だ、ダメだよ龍くん……もう。……料理の味はあんまり変わってないの、なんだか嬉しいなぁ」
悠莉は小さくそんなことを呟いて、ユリの以前と変わらぬ部分に嬉しそうに頬を緩めた。
その様子を、黄金色の瞳がじっと見つめていた。
じっと、じーっと……その瞳に、複雑な色を宿して。




