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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
ようこそ、神の世界へ

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足りないと無自覚

 翌日、お昼頃。

 ユリがぐったりとベッドの上に倒れていた。


「……散々な目に遭いました。酷いです、酷いです……ぐすんぐすん」

「わざとらしい泣き真似だね。で……酷いってどれのこと?」

「全部ですが何か。は? 自分がしたことの自覚ありますか??」

「良い夜だったね!」

「一晩動けず、好き勝手抱き締められて眠れなかった人の気持ちも考えてくれませんか。いや変なことされるよりマシではあるんですけど。いい匂いもしたしあったかかったけど……というか、それなりに難易度が高い云々はなんだったんです? 1回発動したら寝てても維持されるタイプなんですか? 朝まで動けなかったんですけど」

「そうじゃないけど、僕は魔法を調整してるからね。無意識下の維持を可能とするくらいまで難易度を落としてるよ」

「すごそう」


 いまいちヴェルディーゼのしていることの難易度がよくわかっていないので、ユリがそんな感想を口にした。

 そして、再びむっと唇を尖らせると、バタバタと腕を動かして暴れる。


「そーんーなーこーとーよーりー! 寝不足の人を朝から走らせるのはどうなんですか! 身体に悪いですよ、たぶん! ストレッチとか軽めの筋トレまでさせられたし……!」

「悪い影響が出ないようによく見てたから大丈夫だよ。神に寝不足とか無いし」

「えぇ!?」

「ああ、思い込みでならあるけどね。でも、身体への影響は無いよ」

「えぇ!? せ、せっかくの寝不足☆主様とすやすやイチャイチャ大作戦がっ……!!」

「……う、うん……? ……やること終わった後ならイチャイチャしてもいいけど……」

「わぁい主様大好きです!!」

「……照れないね、前は照れてたのに」


 きゃーっ、と黄色い声を上げてはしゃぐユリを見て、ヴェルディーゼが少し困惑しながらそう告げた。

 するとユリは一瞬だけ固まり、ぱぁっと笑顔を浮かべる。


「私思ったんです! あれ、そういえば色々あって好き! ってアピールできてないなって。むしろ冷めた反応すらしてることもあるなって!」

「……そうだね。それこそさっきとか、冷めた反応と言えるだろうね」

「なのでアピールしてます。好きです」

「僕もだよ」

「うひひー」


 ユリが自分の頬を両手で包み、くねくねと身を捩りながら緩みに緩んだ笑顔を浮かべた。

 とても嬉しそうなので、ヴェルディーゼが目を細めて微笑む。

 ヴェルディーゼはユリを見て、とても愛おしげな顔をしていた。


「……んん。でも、足りないんですよねー……」

「足りない?」

「ふとした瞬間なら主様って、そういう……なんか……ものすっごいあまーい顔するんですけど。普段はちょっと作ってるんですよねー……ずっと本心がいいです……」

「……」

「?」

「……ふぅん」

「あっ地雷踏んだ気がするやべぇ。逃げます!!」


 少し冷たい顔になったヴェルディーゼを見てユリが顔を青くし、慌ててベッドから飛び出した。

 しかしユリは運動をさせられていて既に疲労困憊、足に力が入りづらく走っても大した速度は出ない。

 そんな状態で逃げられるわけもなく、ユリがヴェルディーゼに捕まった。

 後ろから伸びてきた腕に絡め取られ、ユリが背中からヴェルディーゼに激突する。


「いっ……たくは、ないけど……! 怖いです! 怖いです主様!」

「恐怖は本物だけど、そんなに嫌がってないなぁ」

「愛してますから! 恐怖も好きに変換はできます! でもそれはそれとして怖いぃっ」


 ジタバタと暴れるユリを抱き締めて押さえ付け、ヴェルディーゼが上からユリの顔を覗き込んだ。

 いつもより冷たい表情のヴェルディーゼにユリが固まる。


「う……ッ、顔がいい……」

「……いつから気付いてた?」

「うわ声低い怖……え、えっと……愛の全部が本物なわけじゃないって気付いたのは……誘拐から……2日後くらい……です、たぶん……」

「……ふぅん。それでも、気持ちは変わらないんだね」

「えっと……疑問はありますけど、やっぱりふとした時には本当に慈しむような顔はしていますし、あと……昨日と一昨日も楽しそうでしたから。……だからこそ、普段は少し……その、私を好いている素振りを意識してしているのが気になりはしますけど」


 ユリがちらちらとヴェルディーゼの顔色を窺いながらそう言うと、ヴェルディーゼは何やら思案するように目を伏せた。

 そして、少しの間沈黙してから諦めたように言う。


「そうだね。……無自覚……と、言うべきかな。少し違う気もするけど……僕は自分の感情がよくわかってない。だけど、失うのは惜しかったから……眷属にして、傍に居させた」

「な、なるほど……?」

「焦がれているのは確かだろうけどね。ただ、あまり自覚が無い状態だから……その後、僕がどう思うかどうかはともかくとして、今もユリのことは躊躇いなく殺せるよ。それくらい自覚が無い。それから……愛してるけど、これを愛と呼ぶには違和感がある。僕にも、よくわからないんだよ」

「……んんー……まぁ、わかりました。……あの、殺さないでくださいね?」

「ふふっ……無自覚の感情を抜きにしても、気に入っているからね。そう簡単に殺したりしないよ。……はぁ、思ったことをちゃんと口にしてるのに……未だによくわからない」

「あっ、愛の言葉は本心なんですね」

「そうだね。なるべくそうしてるよ。誘拐後は増えたかな……んー。……そういうのを抜きにすれば、君はただの玩具なんだけどなぁ」


 さらりとヴェルディーゼが聞き捨てならないことを言うので、ユリがじとりとヴェルディーゼを睨んだ。

 そして、腰に手を当てて頬を膨らませる。


「主様? なんですか、玩具って。一ヶ月と少しもの間一緒に過ごしてきたっていうのに!」

「玩具は玩具だよ。反応の面白い玩具。殺せるって言った時も、へらへら笑いながら心の中では怖がってた」

「もうっ! からかってますよね!? 目に含みがあります!」

「どうだろうね、事実しか言ってないけど」

「んぐぐぐぐ……はぁっ、もういいです。……主様」

「ん?」

「取り繕う必要なんてないですから。どんな主様でも私は好きです。なので、愛の言葉は本心からそれを思った時だけ。わざと表情を作る必要もありません。主様はありのままで居てください……じゃないと、きっとその内疲れちゃいますよ」

「……そうだね。バレた以上は……そうさせてもらおうかな」


 苦笑い混じりにヴェルディーゼがそう言えば、ユリが満足げに笑みを浮かべた。

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