二人だけの世界
悠莉と龍也は少しの間二人で次の目的地について話し合った。
そして、じっくりと考えて結論を出し、龍也が代表してヴェルディーゼに言う。
「その、結局……行かない方がいいって言われたとこに行くことにした。それで、いいか……?」
「いいよ。奇襲を仕掛けるから、ちょっと行き方に工夫はいるけど……情報さえ取られなければ、それでいい。……別に怖がらなくていいんだよ。嫌いでもない味方を攻撃したりとかはしないから」
「き、嫌いだったら?」
「……さぁ? ユリの肉壁にしようとはすると思うけど、ユリが止めるだろうし。案外別に何も無いんじゃない? ちょっと視線が厳しいくらいで」
「あの、主様、聞こえてますからね? 嫌いな人相手でも肉壁はダメですよ。……ま、まぁ、そういう時でも私優先なのは、嬉しいですけども……」
少し頬を染めながらユリがそう言い、ふんにゃりと微笑んだ。
どこまでも甘いユリにヴェルディーゼが優しく微笑み、その頭を撫でる。
ヴェルディーゼはもちろんユリに甘いが、ユリも大概ヴェルディーゼに甘すぎる。
「ねぇ、龍くん。あの二人……ちょくちょく二人だけの世界に入るよね?」
「お、俺に確認すんなよ、悠莉姉ちゃん……ちょっと気まずいから……」
「えへ、すみません。忘れてたわけじゃ、ないんですよ?」
「嘘。忘れてたよ、目が凄くとろんとして――」
「にぎゃーッッ! うるさいですね主様っ、いいじゃないですか忘れてたわけじゃないってことにしたってぇ……」
「だってほら、そんなことしたらユリがわかってて見せつけた所構わずいちゃつくような人になっちゃうし」
「そんなっ……ことは、あるかもしれませんけど。所構わずいちゃついてたのは変わりませんし、どちらかと言うとそれをやらかすのは主様です」
ユリがそう言って溜息を吐き、二人に頭を下げた。
そして改めて笑顔を浮かべると、二人に行き先を尋ねる。
「それで、二人とも。私たち、どっちに行くんですか?」
「あ……うん。こっちだよ、結莉。離れちゃダメだからね」
「えへへ……未だに迷いますからねぇ、私。慣れ親しんだ場所なら大丈夫になってきたんですけどね。主様のお城では迷いませんし。あんまり移動しないけど……」
「……ユリ、さん……お城で暮らしてんのか? どんなとこだ?」
「気になりますぅ? クッソ広いですよ。外観あんまり見ることないのであれですけど……模擬戦の時なら見えるっちゃ見えるけど、正直そんな余裕ないですし。主様容赦無いから……。……ゆうちゃんとリューくんを主様が鍛えれば、魔王戦で助けになるのでは??」
ハッとしてユリが言うと、悠莉と龍也がパッとヴェルディーゼを見た。
二人は、ヴェルディーゼの実力を知らない。
だが、ユリの話を聞けば、とても実力のある人物であることはわかる。
魔王はユリとヴェルディーゼが討伐する、とは言われても、魔王討伐は悠莉と龍也の役目。
自分たちが関われるというのなら、万々歳である。
「死なれたら困るし、鍛えるのはいいんだけど……魔王戦には駆り出さないかな」
「……私のためですか? ゆうちゃんが死んだら……そして、今ちゃんと知り合ったリューくんが目の前で死んだら……私が、ショックを受けちゃうから」
「あんなことがあった直後に、そんな精神に来るようなの……ユリがどうなるかもわからない。少なくとも見たことないくらい取り乱すだろうから……万が一にも、そんなリスクは取れない」
「はぁい。えへ、ありがとうございます。……とはいえ、先ずは進まなきゃですかね。結局何しに行くんです?」
「魔物討伐だよ。今度は一体で、ヒドラだって。頭がいっぱいあるやつ。えっと……猛毒を持ってて、触れちゃダメ……うぅ、大変そうだなぁ」
悠莉が肩を落としながらそう言った。
するとユリはにっこりと笑顔を浮かべ、そっとヴェルディーゼを手で指し示す。
そして、信頼の眼差しでヴェルディーゼを見つめながら、無垢な笑顔を浮かべていった。
「大丈夫です! そういう死にかねない危ないのは、全部主様がなんとかしてくれます!」
「……するけど。するけど、なんでもかんでも任されると困るんだけど……? 結界張るだけだからね……」
「わぁい、さっすが主様ぁ! ……ん、なんですか?」
じっとヴェルディーゼが見つめてくるので、ユリがきょとりと首を傾げた。
何も言わずにヴェルディーゼがただユリを見つめ続けていると、ユリは頬を染めてにへらと微笑む。
可愛かったので、ヴェルディーゼは無言のままユリを抱き上げた。
「ふひゃあ!? な、なんですか!? え!? 何!?」
「疲れてそうだったから、運ぶよ。精神的疲労に、戦闘による肉体的疲労。どっちもあるんでしょ? 大人しく運ばれようね?」
「ひえぇ、顔が良いよぉ……えぇ? 歩くくらいできますけど……今日到着する距離にヒドラいるんですか?」
「無理だけど。それでも、少しでも休んで。少しでも気分が落ち込む要素は無い方が良い。じゃないと、色んなことを思い出すだろうし……なんというか、僕への態度が……凄いことになりそう」
「なんですかそれぇ……わかりました、大人しく運ばれます。ゆうちゃん、リューくん、ごめんなさい。いないものとして扱ってくれていいので……」
ユリが申し訳無さそうにそう言い、大人しくヴェルディーゼに運ばれ始めた。




