体力と次の目標
「あーっ、もう! 主様ってば、本当にぃ!」
何とか魔物を減らし終えて、ユリがそんな言葉をヴェルディーゼにぶつけていた。
そして、息を切らしている二人に駆け寄ると、心配そうに声を掛ける。
「二人とも、大丈夫ですか? えっと……タオルとお水、かな? 主様、持ってますか! お水は冷えてた方がいいです!」
「……す……スキルで、水は出せるから……大丈夫、だよ。ふぅ、はぁ……あ、ありがとね、結莉……こ、この仕事、こんなにハードだとは思わなかった……」
「その様子だと、使うのに体力か魔力的な何かを消費するんじゃないですか? ここは戦闘中私達のことを眺めるばっかりで何もしていなかった主様に任せましょう。ねっ」
「……ユリ、僕が魔法を使うのは控えた方がいいってこと、忘れてない?」
「食材はいいのにタオルとお水はダメなんですか?」
ユリが可愛らしく微笑みながら尋ねると、ヴェルディーゼが黙り込んだ。
そして、溜息を吐きながら水を出し、悠莉と龍也の方に歩いていく。
空中に漂っている水球はポコンと音を立てながら四つに分かれて、その内二つが二人の口元へと移動させられた。
「コップないから、ちょっと変な感覚だと思うけどこれで勘弁して。一応持てるから、自分のペースで飲んでくれればいいから。それと、こっちで汗とか洗い流しちゃうね。濡れるのは一瞬だから」
「……その水、直接肌に触れるんですか? ま、まさ、まさか、身体のラインがわかったりとか……だ、ダメ! ダメですダメです主様は私だけを知っていれば――」
「勝手に変な想像して一人で盛り上がらないで……できないとも言わないけど、そんなの必要でもないのにやらないよ。必要だったら許可取るし。はい、汗流すね」
一人で暴走しているユリに呆れたように言いつつ、ヴェルディーゼが残りの二つの水球を悠莉と龍也の方へ近付けていった。
水球は二人の服の下に入り込むと、サッと肌の上を通って消える。
悠莉が身体を起こし、龍也のことも起こしてやってからヴェルディーゼを見た。
「ありがとうございます。すっきりしました」
「ゆうちゃんゆうちゃん、ゆうちゃんに敬語になられると私のキャラが……いやこれは主様の指示でこうなってるんですけど、これも私の個性なのに」
「そ、そんなこと言われてもなぁ……あ、それより結莉、息も切らさないなんて凄いね。結莉は運動音痴だったのに」
「あっ……えへへぇ。主様に鍛えられましたからね! 私、攫われちゃったので、必要に駆られて……確かに、雑魚戦とはいえこんなに長く戦ったのは初めてでしたけど……息、乱れてもないですね。いつの間にか、こんなに体力付いてたんだ」
「あそこまで僕に付いて行けてるんだから、当然ではあるんだけどね……」
ヴェルディーゼは苦笑いしながらそんなことを呟いたが、ユリにはそんな自覚が無いらしく良くわからないと言いたげに首を傾げた。
神の中で一番強いヴェルディーゼに、ユリは付いていけるのである。
実力も然ることながら、当然体力だって充分に付いている。
ルスディウナに狙われていることを考えるとそれでも足りないので、ヴェルディーゼとしてはユリにはまだまだ頑張ってもらうつもりだが。
「えっと。とりあえず、今やるべきことは終わりましたね。ゆうちゃん、リューくん、これからどうするんですか?」
「先ず、連絡板で……王様とか、力のある人たちに連絡するんだ。そしたら、助けが必要なところを教えてくれるから、そこからは俺達が選んで、街中にある連絡板に共有してから向かう。他のところは冒険者ギルドが対応してくれるし、やりやすいのを選べばいい。……触ってみるか?」
「いえいえ、大丈夫です。私たちはただの同行者ですからね。うん」
「ユリ……面倒なだけのくせに……」
「そんなことはないですよ〜?」
ユリが目を逸らしながらそう言い、にっこりと微笑んだ。
しかし、視線だけは誰とも合わないので、ヴェルディーゼが溜息を吐く。
「……最終的に決定をするのは、そっちだけど。こっちにも事情があるし、僕の意見は聞いてほしい。あればこっちから言うから。……あ、そうだ、ユリの言ってた通り敬語はいいから。僕のことあんまり良くは思ってないでしょ。親友のこと奪ったようなものだし」
「うっ……そ、そんなことは、ないんだけど。……でも、それなら甘えさせてもらうね。意見の方は、もちろん大歓迎だよ。私たちを守るって言ってたよね。それにも関係するんだろうし」
「……悠莉姉ちゃん、連絡終わったぞ。どうする?」
「あ、うん。ヴェルディーゼさんにも見せてあげて」
悠莉がそう言うと、龍也がそっとヴェルディーゼに白い板を見せた。
小さくて持ち運びできる連絡板らしい。
そこには様々な情報が記載されており、ヴェルディーゼが軽く目を通す。
「……あ。これ……ここは行かない方がいいかも」
「え? なんでだよ?」
「魔王の幹部か何かが潜伏してる。まだちょっと辛いかな……いや、守れるか……? うーん……情報収集って感じだしなぁ。変な能力あると困る……でも、かといって……」
「放置すると、冒険者とか軍に任せることになるから、危ないよね?」
「……そうだね。情報収集目的でも、相手が普通の人間なら仕掛けるかもしれない」
「はいはいはいはい! 主様! 場所の把握はしてるんですよね? こっちから奇襲をかけてなーんの情報も与えずに倒しちゃうのはどうですか!?」
「……ああ、そうか。……そうだね、それならいいかも。……どうする?」
ヴェルディーゼが問いかけると、悠莉と龍也が少し悩むように顔を見合わせた。




