理不尽な役割
悠莉と龍也曰く、次の目的地は、連絡板にもあった通り深い森の中らしい。
そこには魔物が大量発生しており、それらを間引くのが目的である、と二人はユリとヴェルディーゼに説明した。
「間引く、なんですね。殲滅ではなく……」
「ああ。強い魔物にとっての獲物が無くなりすぎたら、人里に出てくるし……減らしすぎると、弱い魔物が増えすぎるから、らしい。獲物が増えすぎるのも、それはそれで問題があるし」
「ふむふむ……あくまでも、崩れた均衡を正すのが目的なわけですね。……めちゃくちゃ面倒じゃないですか? それ。手伝いますけども。主様ー、数って把握できます?」
「数えるのは嫌だよ。まぁ……たぶん、半分くらい減らせばいいんじゃないかな」
「うへぇ、倍近く魔物が増えてるってことですかぁ? やだー……まだ、怒ってない状態で戦うの……慣れてないし……」
怒っていれば、ユリは全力で殺しにかかる。
だが、完全に冷静な状態で戦ったり、殺したりするのは、まだ経験があまり無かった。
それこそ、ヴェルディーゼが慣れるためにと用意した魔物を殺したのが初めてだろうか。
「……その点で言えば、二人はユリよりも……いや、やめよう。忘れて」
「勇者に賢者……なんて理不尽な役割なんでしょう。無理矢理害獣駆除に駆り出されているようなものでしょう? んで……んむ!?」
「やめたのに蒸し返さない。この話は終わり、さっさと行ってさっさと終わらせよう」
「むーっ! むーっっ!」
「絶対まだ何か言うつもりでしょ。離さないからね。わざと言ってるの? それ、気分のいい話じゃないよね。なんで?」
「……だってぇ。私は、こんなにも主様に甘やかされてきたのに……あ、いや、自慢とかじゃなくてですね? それなのに、ゆうちゃんたちがこんなことをしなきゃいけないのはおかしいって話です。こんな若い少年少女を魔物や魔王の討伐に行かせるなんて、お上の方々は何も思わないんでしょうかっ。うう……!」
頬を膨らませながら、ユリが怒りを露わにした。
親友である悠莉や、その幼馴染の龍也がこんなことをさせられていることが、ユリはとても不満らしい。
こんなこととは無縁な生活をするはずだったのに、とユリがとても頬を膨らませている。
「……言い方。別に苦渋の決断だった可能性もあるでしょ」
「わかってますよぉ……でも、どうしても抑えられなくて。ごめんなさい、二人とも。そうですよね、悪い人ばかりではないはず……ですよね? 大丈夫ですよね? 虐められてるなら今すぐ言ってください、乗り込みます。カチコミです。道場破りです」
「気持ちは嬉しいけど、ダメだよ。それから、虐められてもないから安心して? 私達は自分の意思で決めたの。時間もちゃんとくれたよ」
「…………なら、いいんですけど。……リューくん、口数少ないけど大丈夫ですか?」
ふとユリが龍也があまり喋っていないことに気付き、声を掛けた。
もしかしてついつい無遠慮に話してしまったから怒ってしまっただろうかと、ユリが龍也の様子を窺う。
「あっ、いや、そういうわけじゃなくて……あんまり、面識がないから……さ。ちょっと……どう話に入っていけばいいか、わからなかったんだ。……悠莉姉ちゃんが楽しそうなのに、邪魔したくないし……でも……」
「……ん? んん……?」
「な、なんだよ? そろそろ戦う準備しないと……」
「もしかして、リューくん……ゆうちゃんのこと……」
「は!? な、なんだよ急に!?」
「へぇ、ふーん。いつでも相談に乗りますからね。プレゼントとか。ゆうちゃんって異性には好きな服とかアクセサリーの話、しなさそうですし」
こそっとユリが龍也に言うと、龍也がバッと目を逸らした。
ユリがニコニコと微笑み、悠莉に怪しまれる前にとヴェルディーゼの方に戻っていく。
「……ユリ。そろそろ気を引き締めてね」
「うぐぅ……はい。頑張りますぅ……」
「……ユリを守るのに専念しようか? 大丈夫?」
「だ、大丈夫です。躱したりするのも、練習しなきゃですし……はぁ、気が進まないよぉ」
そんなことを言っていると、森の奥からうじゃうじゃと魔物が現れ始めた。
気は進まないものの、ユリが鎌を取り出して悠莉と龍也の様子を窺う。
「〝スキル発動、賢者の詠唱・〈スキル強化〉〟!」
「〝勇者の斬撃・〈炎〉〟!」
「手慣れてるぅ……う〜、私も魔法……〝黒波〟ぃ……っ」
「あっちは世界にスキル名を決められてるけど、ユリは別に魔法名とか言う必要ないんだけどね」
「うるさいですよ主様! なんか、なんとなく言った方がいいかなって――わわっ、〝闇幕〟ぅ!」
「……絶対元から考えてあるよね……?」
「考えてないとも言ってないです〜!」
〝黒波〟は、深淵で波を再現し、通った場所にいた敵を深淵で呑み込む魔法。
〝闇幕〟は、いつもの自分の周囲を深淵で覆って自分の身を守る魔法である。
「というかぁ! 主様も戦ってください!」
「僕が戦うとすぐ終わるし、三人のことを見守って危ない時に手を出すだけでいいと思う」
「もう、主様ったら!」
実質、ほとんど何もしないという宣言をするヴェルディーゼに、ユリが呆れたような声を上げた。




