魔物と魔族の処理
ヴェルディーゼが説明したこと、その要点を纏めると。
「魔王に警戒されないように、一切表舞台には出たくない……ってこと? そのために、行動は共にするけど、なるべくユリとヴェルディーゼさんは姿を隠す?」
「そういうこと。僕達に対抗しようとして世界を喰らうスピードを早められでもしたら困るしね」
「はぁ……なるほど。うん……わかりました。それだけで、結莉と行動できるんだから……私に、断る理由なんてありません。……龍くんは?」
「……俺は、その。……信用できる材料が、無いっていうか……悠莉姉ちゃんの大切な人のことは信じたいけど、あんなことがあったし……」
「うんうん、当然の警戒ですよね。そりゃあそうです。大切な幼馴染殺されかけて怒らない人なんてほとんどいません。……主様も、同じこと考えてたかもしれませんけど……お試しで、一緒に行動してみませんか?」
嬉しそうにユリが龍也の発言を当然だと言い、そう提案した。
お試し、と鸚鵡返しに呟いた龍也は、少し考えてから確認するように尋ねる。
「お試しってことは……ダメなら、その……ユリさんとヴェルディーゼさんは……」
「離れます。あなたの信用を、もし勝ち取れなかったその時は。ゆうちゃんが嫌がったとしても、です」
「……わかった」
「私も、異論……いや、離れたくはないけど……うん、まぁ、無いよ」
若干悠莉が歯切れ悪くも頷き、二人の了承を得たユリはヴェルディーゼを振り向いた。
ヴェルディーゼは優しく微笑むと、ユリの頭を撫でて言う。
「偉い。天才だね」
「ちょちょちょ予想外の方向から褒めてこないでください混乱する! え!? 何!?」
「天才といえば、よくアイコンタクトなんかでルスディウナに攻撃仕掛けられたね。本当に凄い。伝わらなかった時の対応ばっかり考えてたのに」
「酷いですよ! 主様ぁ!」
「あ、そうそう……魔物と魔族は処理しておいたから。安心して」
「処理……え!? 殺ったんですか!?」
「魔物は人間と魔物のキメラだったんだけど、生憎自我が融合しちゃっててどうしようもなかったからね。別で器を作ったとて、本能のままに暴れ回る獣になるだけ。ついでに能力も厄介と来たから、処理せざるを得なかった。魔族は自害したから死体を処理した。……あれは元々自殺込みでの計画、魔王の指示かな。最終的には、計画通りには行かずに情報を守るために死んだんだろうけど」
「……。……んん……? 主様、嘘は言ってないんでしょうけど……」
ユリが違和感に眉を寄せ、首を傾げた。
魔族が情報を守るため、魔王のために自害した。
気分のいい話ではないが、暗殺者などではよくあることだ。
ユリが知っているのは想像上の物語におけるものでしかないが、それができるだけの忠誠心があるのなら、合理的ではある。
ただ、不思議なのは。
「……せめて、私の前でやった方が良かったのでは? なんでわざわざ主様一人になってから? 少しでも多くの人にその姿を見せた方が、効果があるはずなのに……」
「ああ……僕が知らないはずのことを知ってたからじゃない? 世界を喰らい切った後、魔王はどうするつもりなのか知っているかって質問したし。生きてるだけでも情報を取られる可能性に行き着いたら……まぁ、魔王に忠誠を誓ってるなら、自害するのもわからなくはないよ」
「なるほど……ならいいです。じゃあ――……ゆうちゃん、リューくん、何してるんです?」
お互いに耳を塞ぎ合っている二人にユリが首を傾げた。
何だか可愛い状況にニコニコしつつ、ユリは何も聞こえていない様子の二人に気配を殺して近付いていく。
「ばあっ」
「きゃあ!? なに!?」
「っ……お、驚かせるなよ……っ」
「えへへ。なんだかからかいたくなってしまって。ごめんなさい、二人とも。でも……なんで耳を?」
「だって怖い話が聞こえてくるんだもん! 処理とか!」
「ああ……主様、怖い言い回ししますからね……」
「当然のようにあれを受け止めてる結莉も怖いんだからね……!」
「主様……他人に対しては割と適当というか。無関心というか……淡々と物事を処理しすぎるところがあるというか……良くも悪くも、何らかの感情を向けている人とそうでない人で、結構態度に差があるんですよね。演技はできるんだから建前くらいちゃんとすればいいのに……」
じとりとヴェルディーゼを眺めながらユリが言うと、ヴェルディーゼが肩を竦めた。
そして、後ろからユリを抱き締めながら言う。
「ユリの大切な人を適当には扱わないよ。肉壁にもしないから」
「……そういうとこですよ。態度に差があるんです。もう、私のことになると極端なんですから……迂闊に人を嫌うこともできないじゃないですか。普通に殺しそうで……あ、ルスディウナは嫌いです。すごく嫌いです」
「僕も嫌い。僕の知らないところで死んでほしい」
「……えっと……結莉? ヴェルディーゼさん? お喋りもほどほどにして、そろそろ行こう……?」
「あっ。そ、そうですね、ゆうちゃん……あ、あはは……」
誤魔化すようにユリが乾いた笑みを浮かべ、悠莉についていった。




