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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
再会の世界

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悪意と復讐

 あんな人、と。

 明らかにヴェルディーゼを指しているその言葉に、ユリは俯いて黙り込む。

 悠莉は親友だ。

 親友、だから――親友だとしても、許せないことはあるはずだ。

 ユリの頭がそんな結論を下し、ぐちゃぐちゃの心のまま、ユリが鎌を取り出した。

 無機質な感情を宿す金色がその細い首を捉え、目にも止まらぬ速度で振るわれようとする。


「――ッ、痛……」

「手を離せ、ユリ」


 手首に鈍い痛みが走り、ユリが動きを止めた。

 そのまま後ろから低い声が聞こえて、眷属であるユリは命令に逆らえずに武器から手を離す。

 辛うじて顔を上げた先にいた悠莉は、青い顔をして鎌とユリの顔を見比べていた。

 誰が、何をしようとしたのか、全くわからないみたいに。


「……あ……」


 じわりと、染み込むみたいにユリがようやく自分が何をしようとしたのかを理解して、震えながら自分を抱き締める。

 殺そうとしたのだ。

 大切な、大切な、親友である悠莉を。

 たった一言、恨み言を零しただけの悠莉を。


「……わた……わたし……っ、そ、そんな……なんで、こんなの……おかしい、なんで……」

「ユリ。ユリ、こっちを見て。深呼吸して……息、吸える?」

「ッ……はっ、……す、ぅ……っ、はぁっ、けほっ……すぅ…………」

「よし、上手……ちゃんと呼吸して。大丈夫だから。いい子、いい子……」

「……ゆ、ゆうちゃ……ゆうちゃん、が。……謝らないと……」

「うん、そうだね。でも落ち着くのが先。少しだけ、深呼吸して待っててね……」


 ヴェルディーゼはユリにそう言い聞かせると、悠莉の方に歩いていった。

 異変に気付いて悠莉を支えていた龍也は、キッとヴェルディーゼを睨む。


「誓って、危害は加えない。ただ、やらないといけないことがある」

「信じられるか。今さっき、あいつは悠莉姉ちゃんを……」

「……いい、よ。龍くん……大丈夫だから。結莉……あんな酷い顔して……逆に、冷静になっちゃった。何か、理由があるんだって……わかったから。……何の用事、ですか?」

「手に触れてもいい?」

「えっ……と、大丈夫……です」


 悠莉がそう言ってそっと手を出すと、ヴェルディーゼがその手に触れた。

 すると、悠莉の身体が引っ張られるような感覚に襲われ、悠莉は蹲る。


「っ、な、なに……っ」

「悠莉姉ちゃん!? おい、今すぐ離れ――」

「これだ。……これが、諸悪の根源。ユリが、千年間もの孤独を味わう羽目になった原因……」


 龍也に言われた通りに数歩距離を取って、ヴェルディーゼが呟いた。

 ヴェルディーゼの手の中には、光る球体がある。

 神聖な雰囲気のそれはしかし、悪意を以て彼女に齎されたもの。

 そこには居ない者を居ると嘯き、希望を抱かせて、信用させて、挙句の果てにその記憶を利用した。


「……誰も、動かないで。危ないから」


 ヴェルディーゼは悠莉に龍也に視線を巡らせ、そう言った。

 そして、最後にチラリとユリを見る。


「……」

「――……」


 一度ヴェルディーゼは目を伏せて、光球を掲げた。

 そして、無表情で、低い声で、怒りを滲ませた声で言う。


「見ているんだろう、ルスディウナ? どうしてああもユリのことを知っているのかと思ったら……こんなことを仕出かしていたとはね」

『あら、あら。あら……ヴェルディーゼ。ふふ、バレてしまったのね? 流石ね。流石、私の愛する人……当然でしょう? あの泥棒猫は邪魔なの。あれは、簡単にあなたの心を奪い去って、のうのうと暮らしている。殺したいくらい憎いのに、封印で済ませてあげたのよ? なのに、どうして……もう、殺すしかないわよね? ねぇ、そうよね? そう、殺すしかないの。殺さなきゃ』


 甘ったるい声が、頭に直接響くような声が、その場にいた全員に届いた。

 次いで、天から神聖なる神が、その表情に狂気と悪意を浮かべて舞い降りる。


「……ああ、ヴェルディーゼ……私の愛しい人……ふふっ。……ねぇ、悠莉ちゃん? 私がしたこと……覚えているわよね? あなたには私への恩がある、そうでしょう? だったら……今、何をするべきか……わかるわよね」

「え……かみ、さま……? え、なんで……」

「ちゃんと会えたでしょう? 大好きな親友に。ほら、私の言うことは正しかった。なら、わかるわよね?」

「ルスディウナ。ユリを千年間もの孤独に突き落としたお前が、何故彼女の信頼を得られると?」

「……チッ。全部あなたのためなのに……どうして邪魔をするのかしら。まぁいいわ……それなら、私が直接手を下すまでよ」


 ルスディウナが、ユリの方を向いた。

 ユリは、俯いたまま動かない。

 ヴェルディーゼも、動く様子は無い。

 それに歓喜して、ルスディウナは改めてヴェルディーゼの方を向きながら喜びに満ちた声を上げた。


「ああ、ヴェルディーゼ! やっぱりあの子のこと、本当は」

「――そぉ、らぁッ!」


 小柄な少女――ユリが、ルスディウナを蹴り飛ばした。

 ヴェルディーゼはそっと微笑むと、()()()()に攻撃を仕掛けてくれたユリの頭を撫でる。


「はーっはっはっは! あーすっきりした!! 封印された恨みぃ! 私の大事な大事なゆうちゃんを騙してくれやがった分も叩き込んでいいですか!? 今も! 騙そうとしたし!」

「いいよ」

「わーい! 次は深淵!! せめて苦しめぇ! 最低でもゆうちゃんを騙したことを後悔するくらい! あと主様を自分のものみたいに言われるの普通に気分悪いのでもう一発いいですか?」

「遠距離ならいいよ」

「やったー! 鎌投げますね! そぉい! はっはぁ顔引き攣ってやんの! 清々したぁ! 外したけど!」


 清々しい笑顔を浮かべて復讐行為に走りまくるユリにルスディウナが歯ぎしりし、その場から消えた。

 どうやら逃げたらしい。


「……ッ、……ふぅ」


 途端に、ユリがその場にへたり込み、立ち上がれないまま悠莉の方へと手を伸ばす。


「……あ――結莉、私、まさか」

「話し合って、お互いに謝りましょう。それで許せるなら良し、許せないなら……。……その時考えます。とにかく、大丈夫。自分を責めるより先に、先ずは当人同士で話し合わないと。そうでしょう? それで、時間が掛かっても……許し合えたら、私達の仲は元通りです」


 悠莉が何かを言う前に、ユリはそう告げて、優しく彼女を抱き締めた。

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