表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/219

神は持ち掛け

 結莉が目を覚ますと、そこは真っ黒な空間だった。

 不思議と傷は治っており、痛みもない。

 それに本当に不思議そうにしながら、結莉が身体を起こした。


「……ここは……」

「おはよう。調子はどうかな」

「ぴゃあ!?」


 突然聞こえた声に結莉が驚いて悲鳴を上げた。

 声の主はそれに驚いたのか、目を丸くしてから小さく微笑む。


「ごめんね、驚かせたかな。立てる?」

「えっ、えっ……? え、た、立てます……」

「そう、良かった」


 結莉が混乱しながらまじまじと声の主を観察する。

 艶のある黒髪に、椅子に腰掛け柔らかな眼差しでこちらを見下ろす真紅の瞳。

 身長はかなり高そうだ。


「……あな、たは……?」

「うーん……さて、どう名乗ろうね? どう名乗っても流れは変わらないから、なんでもいいけど……」

「流れ……? あ、そうだ、えっと……私、小鳥遊結莉です。それで……その……」


 男の発言に更に混乱しながらも、一先ず名乗ろうと結莉がそう口にした。

 そのまま言いづらそうにあなたは、と小さく声に出せば、男が微笑む。


「……そうだなぁ。僕は神様だよ」

「か……神様?」

「そう、神様。ここに来る前のことは覚えてる?」

「ここに、来る前……私は確か……そうだ、銃……う、ぐ……っ、大丈夫、大丈夫、もう傷は無いし、痛くもないから……大丈夫……ふぅ、よし……と、とにかく、撃たれて……し、し……か、かか、神様がいるってことは、そういうことなんです、よね? つ、つまり、やっぱり私は……」


 結莉が顔を青くしながらそう言うと、男――神様が重々しく頷いた。

 そして、ゆっくりと結莉が認識した現実を肯定する。


「そう、君は死んだ」

「……っ。……じゃあ、ここは……何なんですか……? 天国? それとも、その……えっと、黒いし……地獄?」

「どちらでもないよ。ここは僕が神の力で生み出した空間で、そこに君の魂を引き留めてるんだ。君には自分の身体が見えてると思うけど、それは半ば幻覚でね。今は魂だけの状態なんだよ。……まぁ、触れるし幻覚っていうのも正確には違うんだけど……」

「……え、えーっと?」

「まぁ、幽霊みたいなものって考えてくれればいいかな。それならわかりやすいでしょ?」


 男がそう言うと、結莉が戸惑いながら頷いた。

 そして、辺りを見回しながら尋ねる。


「その、それで……神様は、どうしてここに私を引き留めているんですか? 何か理由があるんです、よね……」


 結莉がそう言い、男の瞳を真っ直ぐに見上げた。

 鈍く光る紅の瞳は宝石のように綺麗だが、神聖な存在とは思えないほどに妖しい。

 ぱちくりと、結莉が目を瞬かせた。


「……ハッ。ま、まさか……所謂神様転生? ほ、本当に存在した……? これが現実なら超常的な存在であることは間違いなさそうだし、もし神様なことは偽りでも、転生はさせてもらえるんじゃ……」

「……ふふっ」

「えっ、でも、でも、どうして私なの……? そりゃ、漫画とか好きだし、剣と魔法の世界とかには比較的馴染みやすいかもしれないけど……いやいやっ、ま、まだ確定したわけじゃないし……!?」


 そっと、窺うように結莉が男を見上げた。

 男は相変わらず鈍く光る瞳でただただ結莉を見下ろしている。


「……き、期待してもいいんじゃ。チートまでは望まなくても、エグい難易度の世界じゃなきゃ、生まれる場所によっては生きられないこともないだろうし……こうしてここにいる以上は、記憶を保ったまま転生するくらいは……ハッ! こ、これは、間違えて殺しちゃったからお詫びに転生させてあげるねパターン……!? ほ、本当にっ!?」

「……ふふっ……独り言にしては声が大きいね」

「え!? あ、すみません……!」

「いや、気にしてないよ。そもそも……いや、いいや。これは了承が得られてからじゃないと……下準備、いや状況の説明も終えたことだし、そろそろ本題に入ろうか」

「ほ……本題……?」

「今からやるのは、君が言った通りてんせ……」

「本当ですか!? 異世界ですか!?」


 ユリがバッと顔を上げて尋ねると、男が少し身を引いた。

 パチパチと目を瞬かせ、溜息を吐きながら小さく呟く。


「これまでのことで強い反応を示すのはわかってたけど、いざ来られるとびっくりするな……ま、まぁ、うん……異世界ではある、かな」

「チートはありますか!?」

「それは君次第。僕が操作するものじゃないから、才能によるとしか答えられない」

「なるほどそういうタイプですねわかりました転生します!!」

「……まだまともに説明してないんだけど、大丈夫なのかなこの子……まさかここまで……好都合だけど心配になる……いや、でも、あそこって基本平和だし……そんなものなのかな……まぁ、今さっき酷い殺人事件が起きたばっかりだけど」

「?」

「……再確認、だけど。僕の提案を受け入れるってことで、いいんだね?」


 男が困ったような表情をしながらそう問うと、結莉がコクコクと頷いた。

 そして、目を輝かせながら異世界へと想いを馳せる。


「異世界……どんなところかな……ふひへへへ……」

「……絶対に君が想像してるようなところじゃないんだけど。まぁいいや……いいんだね?」

「はい!!」

「……頷いたのは君だよ」


 男が結莉に近付きながらそう囁き、その肩に手を置いた。

 その指先が首に触れ、そこから何かが結莉の中に流れ込んでいく。

 酷く冒涜的な感覚だ。

 そう、まるで、身体を作り変えられるような。


「あ、う、うああっ……!? な、なにし、なにこれ……やだ、やだ……っ」

「痛くはないよ。苦しくて気持ち悪いと思うけど……少しの間だけ耐えて。必要なことだから……」

「が、ぐ、ぅう……? うう、あううう……!?」

「よし……あともう少し。あと数秒だけだよ……」

「……ぅぁ」


 最後に小さく声を上げ、結莉が意識を失った。

 力を失った身体を受け止め、男がその胸元に手を翳す。


「お疲れ様。よく眠っているようにね……その方がきっと苦しくないから。……〝眷属契約〟」


 ぶわりと、その手から黒い光が噴き出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ