緊張と心配
「う〜んと……順調ではないけど、最悪は免れた……感じ、ですかね?」
「そうだね……」
白い板――連絡板の情報を確認しながら、ユリがそう言って首を傾げた。
するとヴェルディーゼはそれを肯定し、そっとユリの隣に立つ。
連絡板には、ここの魔物は討伐した旨と、次の目的地のことが書かれていた。
「んぐぐ……間に合わなかったんですね。魔王とやらが言ってた〝あれ〟……たぶん魔物なんでしょうけど、移動速度はどんなもんなんでしょう……? 場合によっては……」
「今日はここに泊まるよ。まだ大丈夫」
「……もしかして、把握してるんですか?」
「なんとなくの位置くらいはね。始末するって言って出しただけあって、それなりに強いから意識してなくても把握ならできる」
「それは……安心ですけど。でも……」
「少しでもいいから休んで」
ヴェルディーゼが真面目な顔をして言うと、ユリが渋々といった様子でこくりと頷いた。
するとヴェルディーゼは満足そうに笑顔を浮かべ、泊まれるところを見つけ出す。
それなりに大きい村なので、普通に宿はあるようだ。
ヴェルディーゼがぱぱっと部屋を借りて、部屋で息を吐き出す。
「……ユリ。休めそう?」
「さ、流石に会わないわけにはいかないですし……しかも、ゆうちゃんがピンチかもしれないとか……緊張と心配で感情がぐちゃぐちゃです。……吐きそう……」
「……魔法で落ち着かせようか? それくらいならたぶん……」
「だ、大丈夫、です。はい。……いや大丈夫じゃないです。でも魔法は使わなくていいです……うぅ……だっこして……」
「よ、幼児化してる? 本当に大丈夫?」
ヴェルディーゼが要望通りに抱っこしながら尋ねると、ユリがぷるぷると首を横に振った。
本当にギリギリの精神状態をしていそうなので、ヴェルディーゼが魔法で一旦精神状態を落ち着かせる。
「……っふ、は……ま、魔法……? 胸がすっとしました……」
「こんなことねだってくるのは……可愛いけど、様子がおかしいと思って……」
「そ、そう……ですよね。はい……ごめんなさい……ありがとうございます」
「どうして謝るの? 謝らなくていいよ」
「……あ、あの……自分から言っておいてなんですけど、下ろしてくれませんか……? 照れる……」
「……よしよし。大丈夫だからね。どうしてもダメならしばらく会わなくてもいいから。魔物の処理程度、魔法使わなくてもできるから」
「て、照れるって言ってるのにぃ……」
片腕に抱えられているユリがそう言って顔を覆った。
照れているユリが可愛いので、ヴェルディーゼはもう少しからかおうと少し思考を巡らせる。
「あ、そうだ……親友に、ゆーちゃんって呼ばせようとしてたんだっけ?」
「ひぃ……そ、そそっそれがなんですかぁ」
「ゆーちゃんは可愛いね」
「ぴひぃっ、やめてくださいやめてください! わ、私、別にゆうちゃんにそんな風に呼ばれたことほとんどないんですから! 慣れてもないし恥ずかしいだけです!!」
「だからやってるんだけど。……どう? 少しは良くなった?」
「え? あ……でも、これは……」
「もう魔法は解除してる。さっきよりはいいみたいだね」
ヴェルディーゼがそう言ってユリを下ろした。
まだ照れの消えていない顔でユリがはにかみ、そっとヴェルディーゼの手を握る。
「……ありがとうございます、主様」
「いいから、今はリラックスするのに集中。ちょっと話すことはあるけど……寝転がって聞いて」
「はぁい」
「ん。勇者たちの次の目的地だけど……ここからそう遠くない森。お昼ご飯を食べた森と繋がってるところだね。場所は違って、ここから更に奥……カレータムとは逆方向だけど」
「引き続き来た時と同じ方向に進むってことですね。あ、寄り道は抜きで」
「まぁそういうこと。目的は、目撃情報が多発してる魔物の討伐みたいだね。大した強さじゃないけど……大量発生してるみたいだね。一般人じゃ敵わないから向かったみたい」
「んん……なるほど。……安易に魔王討伐とか行ってないみたいで、安心ですね……」
ユリがそう言ってふんにゃりと笑うと、ヴェルディーゼが頷いた。
ヴェルディーゼとしても、そんなことをされると面倒なので。
次にヴェルディーゼはそっと視線を外へと向けると、溜息を尽く。
「……魔王が言ってた〝あれ〟っていうのは、転移で向かってきてるみたいだね。気配が二つ……結構早い。明日、早朝から出発した方が良さそう」
「転移で? ……一回で移動できる距離に制限がある? それから、クールタイムも……ありますか?」
「うん、そうだね。スキルで移動させてるのかな……明日には勇者たちのところに着くだろうから、こっそり勇者たちを尾行したいな」
「えっと……魔物と、それを移動させる人がいるって認識でいいんです? で、いつでも対応できるよう尾行して、襲われたところを救出って流れ……?」
「うん、そういうこと……あ、動きが止まった。寝るのかな」
「ほ、本当に間に合うんですよね? 大丈夫ですよね?」
「大丈夫だから。ほら……そろそろ寝よう。危なければわかるから」
ヴェルディーゼがそう言ってユリを宥め、寝かしつけた。




