話さないといけないこと、言いたくないこと
言葉を失い、ただただ目を見開いているユリに、ヴェルディーゼが目を細める。
そして、軽く頭の中を覗き、ぐるぐると巡る思考にゆっくりと息を吐き出した。
「……ユリ、少し落ち着こう。僕も色々急に話しすぎたね。ほら、深呼吸して」
「え、あ、……っ……すぅ……はぁ……ふ、ぅ……あ、主様……」
「まだ話さないといけないことがあるんだけど、大丈夫?」
「ま、待ってください、待って……! 大丈夫じゃ、ないです……まだ、何も整理し切れてないのに」
「……簡単に纏めると……賢者はユリの親友の悠莉って子かもしれなくて、もしそれが本当に親友なんだとすると、彼女はユリを探してる。でも、ユリがここにいるなんて彼女には知る術がない。向こうで、確かにユリは死んだんだから。全部未確定だけどね」
「じょ、情報を流し込まないで……うぅ……っ。で、でも、ちょっと落ち着いてきました……頭は落ち着いてないけど……」
情報の整理はできていないが、心の整理はどうにかできたらしい。
ユリはふぅっと息を吐き出すと、改めてヴェルディーゼと向き合う。
もう大丈夫と判断して、ヴェルディーゼは先ほど話そうとした、〝話さなければならないこと〟を口にする。
「僕は、ユリの親友が異世界にいるのは知ってた」
「……えっ?」
「ただ、ここだとは知らなかったんだよ。別に異世界に召喚されるのは、全体で見ればそう少ないわけじゃないから。少なくとも、神が生まれる確率よりも、異世界に召喚される確率の方が高いし」
「え、え? ……いや、そりゃ……神が生まれる確率よりは高いのは……そうかも、しれませんけど……え?」
「母数が多いから召喚されるのもそんなに珍しくない。だからこそ、ちょうどここに……ユリを連れて行こうと決めたタイミングで……凄く似た他人か本人なのか知らないけど、ユリが動揺するようなものに出会うなんて思ってなかったんだよ……」
「……主様の見通しが甘かったのでは……?」
「んぐ、……だって創世神が死んだから。僕が向こうで得られる情報は創世神を介したものだけなのに」
ユリが小さく首を傾げると、ヴェルディーゼが肩を震わせながらかろうじて反論した。
ヴェルディーゼを責めてもしょうがないので、ユリは気を取り直すようにふるふると首を横に振って言う。
「本当にゆうちゃんなのかどうかは、わからないんですし……今あれこれ考えてたってしょうがないです。……会いに、行くんですか……?」
「会わないと進めないでしょ。ユリに時間が必要なら、もちろん他の調査を優先するけど」
「……ちょっと、だけ。時間をください……もし、本当にゆうちゃんだったらって思うと……」
「わかった。じゃあ、会いに行くのはもう少し後にしよう。それでいいね?」
ユリがこくりと頷き、ヴェルディーゼに抱きつく。
一応の感情の整理はできたものの、まだ色々と戸惑っているのだろう。
あまりにも突然だったから、それも仕方のないことだろう。
そう考えて、ヴェルディーゼはユリを抱き上げる。
いつもは恥ずかしがって文句やら抵抗やらをしたりするが、今日は何の反応も無かった。
ただ、大人しく抱えられている。
「……主様。もう、隠し事は……ないんですよね……?」
「無い……ああ、いや。……一応、話してないことはあるかな。別に秘密にしてるとかじゃなくて、全然確信が無いから言ってないだけだけど。教えた方がいい?」
「……今日は、いいです。もう精一杯なので……」
「うん、寝てもいいよ。泊まれるところ探しておくから」
「ね、寝ません。寝ません……けど……」
ユリがそう言って目を伏せた。
ぎゅっとヴェルディーゼの服を握り締めて、ただただユリが難しい表情をして黙り込む。
まだ、ぐるぐると色んな思考が頭の中を駆け巡っているのだろう。
「……あんまり、気にしない方がいいよ。第一、その親友がいたからって何か問題でもあるの?」
「……危ない、ですし」
「ふぅん。……それは建前だよね? 心配は確かにしてるのかもしれないけど、ユリがそうなってる理由はそこじゃない」
「……。……言いたくないです」
「ふふ、そっか。……なら、いいよ。いつか……そうだなぁ、その親友に会った時にでも教えてくれれば、それでいい」
「会うのは絶対なんですか」
「ユリがいいなら僕だけでもいいんだけど……」
ヴェルディーゼがそう言ってちらりとユリを見た。
すると、ユリはぎゅっと眉を寄せて苦しそうな顔をする。
「……ほら、それは嫌なんでしょ。時間は掛かってもいいから、もし本人ならちゃんと会った方が良い」
「……ん。はい……」
目を伏せながらユリが頷き、身体から力を抜いた。




