シリアと支部長
改めて二人が待っていると、受付がパッと顔を上げた。
そして微笑むと、二人にカードを渡してくる。
「こちらが冒険者カードです。冒険者である証明となるものですので、失くさないようお気を付けください」
「はいっ。ありがとうございました、受付さん。それじゃあ主様、行きま……ん?」
行きましょう、と続けようとしたユリがふと首を傾げて、受付の隣にある階段の方を見た。
すると、何やら見たことのある人物が下りてくる。
「……あ! さっきのお姉さん!」
「ん……? ……あら、さっきの……こんにちは。アドバイスをしたのは私だけど、まさか鉢合わせるだなんて。登録は終わった?」
「はい! ……あっ、えっと、隣の人は……」
すす、とヴェルディーゼの背中に身を隠しながらユリがそっと尋ねた。
ここで会うとは思っていなかった人物に会って驚いていたせいか、隣にいた人は目に入っていなかったのだが、これまた身体の大きな顔の怖い男性だったので。
顔には傷がいくつもあり、歴戦の戦士のように見える。
一応、ユリはゲームではそういう姿の人物も嫌いではなく、カッコいいと言っていたのだが、目付きの鋭い人物なので見られて萎縮してしまったのだろう。
ヴェルディーゼの後ろに隠れてぷるぷるし出したユリの頭を撫でつつ、ヴェルディーゼは階段を下りてくる人物を見る。
片方は、先ほど勇者たちに会う方法を教えてくれた女性。
もう一人は――
「あら、ごめんなさいね。彼は目付きが悪いだけで、悪気はないのよ。彼はカレータム支部の支部長よ。元は凄い冒険者でね、優しいから何かあれば頼るといいわ」
「……はじめまして。さっきはユリが世話になったね、色々教えてくれてありがとう。支部長も……ユリのことは、気にしないで。ちょっとびっくりしちゃっただけだから……ね?」
「ひゃい……す、すみません……しっ、失礼な態度をぉ……うぅ、主様……」
失礼な態度を取っていることを謝りつつ、ユリがヴェルディーゼに更にくっついた。
ヴェルディーゼが苦笑いしつつ、軽く周囲に視線を巡らせて息を吐き出す。
村のことを話すには、注目されすぎている。
「例の件。情報提供ありがとう、討伐隊を組ませたから安心して」
「……そう。それならいいんだ。……あそこで出る酒と、それから……焚き火。何か変だったから、調査をするなら気を付けるよう伝えてほしい。たぶん眠らされる」
「ええ、討伐隊に伝達しておくわね。……支部長? さっきからあの子を見ているけど……どうしたの?」
女性が支部長の方を見ると、支部長は更に目付きを鋭くしてユリを見た。
ユリがビクッと肩を震わせ、少し困った顔をして首を傾げる。
「あ、あの……どうか、しましたか……? 気になることがあるなら……」
「……お前、名前は?」
「へっ……な、名前? ユリ、です……えっと、それが何か……?」
「……今、時間あるか? 話がある」
「……えっと……」
ユリが困った顔をしてヴェルディーゼを見ると、ヴェルディーゼが頷いた。
そして、不安そうなユリの手を握りながら、ユリに代わって答える。
「僕も一緒でいいのなら」
「彼女がいいなら構わん。場所を変えよう、応接室に行くぞ。シリアは――」
「付き合うわ。幸い、例の件の手配がちょうど終わったタイミングだしね。行きましょ、支部長」
シリアと呼ばれた女性はすっとユリに向かって手を伸ばし、優しく微笑んだ。
ユリはヴェルディーゼの手とシリアの手を見比べた後、ヴェルディーゼの手を離さないままシリアの手を取る。
なんとなくヴェルディーゼはそれを不満に思い、一瞬だけシリアの手を引き剥がそうかと考えたが、すぐに不穏な考えを首を横に振って追い払い、大人しく付いていった。
◇
冒険者ギルドカレータム支部、応接室にて。
ユリとヴェルディーゼが部屋の奥側のソファーに、そしてシリアと支部長が扉側のソファーに腰掛けていた。
ソファーとソファーの間には机があり、そこには美味しそうなお茶とお茶菓子が置かれている。
村で食べられそうになってからまだそう時間は経っていないので、それを口にする勇気はユリには無いが。
「……えっと、あの……失礼を承知で、聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「その……席が、ですね。……なんとなく、私たちを逃がしたくないっていう意思を感じるような〜……なんて……」
「ふふっ、ご明察ね。でも、安心して。私たちはただ、とても大切なことを聞きたいからこうしているの。別に取って食ったりはしないわ。……村で食べられかけたというあなたたちに、これをするのは少し躊躇ったけど……わかってくれると嬉しいわ」
「……うう、主様……何を聞かれるのか検討も付かないんですけど……何か変な悪巧みとかしてませんか? 主様のことですし……」
「ユリ、これ美味しいよ。食べる? ほら、あーんして」
「主様!?」
不安そうな声での質問を無視してクッキーを頬張り、更に甘ったるい声でそれを食べさせようとしてくるヴェルディーゼにユリが頬を引きつらせた。




