白い掲示板
「街とうちゃ〜く! 勇者のお話が聞きたいんですよね。情報、どう探しますか?」
街に辿り着くのには少々難航したものの、ユリとヴェルディーゼが無事に街に到着した。
ユリはきょろきょろと周囲を見回し、街の様子を確認してからヴェルディーゼに次の行動について問う。
「……一応、神が殺されたのは最近のことで……魔王以外のことなら、割と情報はあるんだけど……勇者の行動はある程度、邪魔にならない程度には公開されてるみたいでね。それの確認と……ファンとかもいるみたいだから、それに扮して情報を得られると嬉しいかな」
「演技するってことですね。……もしかして、それって私の役目ですか?」
「……できれば、やりたくない……任せてもいい……? いや、ユリが少しでも嫌だと思うならやるけど」
「別に嫌ってことはないですけど、主様、そういうの全然やりませんよね。……村で主様が私のことを庇ってお酒を飲んでくれた時、凄くドキドキしたから……。……でも、嫌ならしょうがないです。私の役目があるのは凄く嬉しいので、安心してください」
ユリがそう言ってへらりと笑い、正面を向いた。
そして、ヴェルディーゼと手を繋ぐと、ヴェルディーゼに手を引かれるがままに歩いていく。
しばらく歩くと、大きな屋敷が見えてきた。
屋敷の門とは少し逸れた場所に人だかりができており、ユリが何事かと目を丸くする。
「……あっ。もしかして、こういう感じで勇者の行動が公表されてる……?」
「そういうことだろうね。……んー……白い板……? ホワイトボードみたいなやつに光る文字で情報が記載されてるみたい。まだ情報が出てきたばかりで、ちょっと混んでるから……この辺で待っていようか」
「はぁーい。……白い板に、光る文字……文字は魔法ってことですかね。それとも、白い板自体が魔法の道具みたいな……?」
「たぶん後者」
「……じゃあ、ちょっと違うけど電光掲示板みたいなものなんですかね」
適当にそんな会話を交わしつつ、二人が掲示板から人が離れていくのを待つ。
しばらくすると、少しずつ人だかりが小さくなっていき、ちらほらと人が近寄ってきては軽く情報を確認し、すぐに離れていくばかりになっていた。
人だかりはそれなりに長くあったはずだが、内容はそこまで長くはないらしい。
「主様、そろそろ大丈夫そうですよ。行きましょうか」
「ああ、本当だ。……ユリ、一応手を繋いで。また人だかりができないとも限らないから。……まぁ、大丈夫だとは思うんだけど」
ユリがヴェルディーゼの言葉に頷き、手を繋いで掲示板に近付いていった。
そして、目で文字を辿り、小さめな声で読み上げていく。
「えーっと……勇者、リュー様……と、賢者ユーリ様の、次の目的……魔物の討伐みたいですね? なんか魔物の特徴とか書かれてます。大まかな場所も書いてあるけど、結構広範囲で正確な位置は掴めなさそう……んん、にしてもユーリって……一文字違いで、ちょっと気まずいんですけど。名乗ったら誤解されたりしないですよね……」
「……?」
「あれ、主様? どうかしましたか?」
「……いや、なんでもないよ。賢者……こっちも異世界から召喚されたのかな。情報あったっけ……あ、賢者についての記述はあるな。うーん……要するに、勇者が前衛で、専用の後衛が賢者……みたいな話みたいだね。同じタイミングで召喚されたのかどうかは……ああ。これ、別に一人とは書いてないのか……紛らわしい」
ヴェルディーゼが眉を寄せて呟き、溜息を吐いてユリを抱き締めた。
突然抱き締められたユリは驚いたように肩を震わせ、しかしすぐに微笑むとヴェルディーゼの頭を撫でる。
「頑張りましょう、主様。放置するわけにはいかないんでしょう? 私も、たくさん頑張りますから」
「……うん。ユリもいるしね……情けないところは見せられない」
「主様、情けないことなんてするんですか? それはそれで見たいんですけど」
「気が緩んで最後の最後でしくじったりするよ、僕は。ユリが思うほど完璧で優秀じゃないから」
「……ふふっ。そうですね――ルスディウナって人に、してやられてました。私をすぐに助けてくれませんでした」
「うっ……!?」
ユリがふっと顔を逸らして横目でヴェルディーゼの顔を眺めつつちくりと刺すと、ヴェルディーゼが胸を押さえた。
苦しそうなヴェルディーゼを見て、そこまでの反応をされるとまでは思っていなかったユリが慌ててヴェルディーゼのことを抱き締め、わたわたとしながら落ち着かせようとする。
「え、あ、違うんです主様っ! ちょ〜っと突付いてやろうと思っただけで、本当に責めるつもりなんかなくて! ただ、ただ失敗したくなさそうだったからぁっ、気が引き締まると思ってぇ……」
「……ユリはそれ、口に出して苦しくないの。……ほら……封印……」
「ゼロじゃないですけど、まぁそんなには? なーんにもしてなかったんです、記憶なんて簡単に薄れます。……まぁ、頭の中をずーっとぐるぐるしてたあの声を……私の思考を、思い出したら……ちょっと、辛くなりますけど。あと夢は別です、二度と体験したくはないです。例え夢の中でも。……こほんっ、とにかく……主様が、そんなに苦しむとは思わなくて……私が、こうだから……ご、ごめんなさい」
「……いいよ、大丈夫。そんなに申し訳なさそうにしないで……大丈夫だから」
ヴェルディーゼがそう言ってふるふると首を横に振り、ユリに微笑みかけた。




