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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
再会の世界

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噂話

 道を歩く。

 値踏みしようとする視線が、いくつも突き刺さる。

 足を止める。

 嫌悪を隠そうともしない視線が、いくつも突き刺さる。

 店に入る。

 敵意を剥き出しにしている視線が、いくつも突き刺さる。

 商品を見る、購入する――視線が、痛いほどに突き刺さっている。


「あぁーっ、もう! 鬱陶しいですねぇ! 折角のデートだっていうのに!」

「そんなに鬱陶しい?」

「そんで、主様は鈍すぎませんか!? 気にならないんですか、この視線!」

「うーん……鈍い、というか……慣れすぎて無意識でも無視できるようになった感じかなぁ」

「えぇ……そ、そんなにこの視線に晒されて……? 精神状態は、その……大丈夫ですか?」

「そんなに問題は無いと思うけど。無視できてるんだし」

「確かに……? 私としては、心配でしょうがないですけど……それに、そわそわする……うぅ」


 ユリが周囲に視線を巡らせてヴェルディーゼの服の裾を握り締めた。

 怖がっている、という感じではないものの、ユリはとても視線を気にしているらしい。

 そこまで気にしなくても、大抵はどうせその内覆しようのない差に自分で気付いて諦めていくのに、とヴェルディーゼが首を傾げる。


「……なんでそんなに気にしてるの? 大丈夫だよ?」

「主様があのしつこぉ〜い視線を微塵も脅威だとも感じてないし気にしてないし興味もないのはわかりましたけど、その主様の認識で私も歩けるとは思わないでください……その、……くっ……戦えない以上は、いくら私が実力者であっても……全員脅威なんですよ。あと単純に私ちょっと人見知りするのでこの視線の嵐辛いです。壁になってください。四方八方から降り注いでるからあんまり意味ないけど……」

「壁には、一応なってるんだけどね。結界張っちゃうと特訓にならないし……添い遂げてもらうためには、慣れてもらわないと」

「そっ……!? 添い遂げっ……と、げっ……」


 強く手を握られながら、さらりとその口から発された言葉にユリが真っ赤になった。

 しかし、赤い顔を多くの人たちに見られていることに気が付くと照れていたことも忘れてヴェルディーゼに飛びつき、自分の顔を隠す。

 そして、ぷるぷると震えながらヴェルディーゼを見上げた。


「……? ……ああ。添い遂げるって言っても……」

「!? わ、私の勘違いっ!?」

「……いや、ほら……寿命無いし、死なせるつもりも無いから、遂げるも何もないなって……寿命が無くて、他の要因でも死なないのなら、終わりなんてない。永遠でしょ? 永遠に傍にいてもらって……終わりが無くて、遂げられないのなら。なんて言えばいいんだろうね?」

「え、ええええ永遠に傍にっ!?」

「……え、嫌?」

「ああっ違うんです! 恥ずかしすぎて動揺が! 嬉しいです死ぬまでお傍にいます! いいえ死んでもッ! 絶対!!」

「……ふふっ……そっか。嬉しいよ」

「色気!!!!!」


 目を細めて微笑むヴェルディーゼにユリが叫んだ。

 さっきまで恥ずかしがっていたくせにとヴェルディーゼが苦笑いしつつ、ユリの手を引いて店から出る。

 ――ひそひそと、悪意に塗れた小さな声が、二人の耳に届いた。


『最高位邪神は、身勝手に神の世界に踏み入って、色んな生き物を虐殺したらしい。最高位邪神が通った後の道は、真っ赤な血の海になっていたとか……』

『ああ、聞いたわ。それに、そんなことをした上で、世界を壊してしまったらしいの。おぞましいわ……なんでそんなことができるのかしら』

『俺の知り合いも被害に遭ったそうだ。怖いよなぁ。なぁ、知ってるか? 過去にも最高位邪神は大事件を起こしているらしいぞ。神を虐殺して、交流区の中心にその死体を晒し上げたんだとさ』

『いやだわ。怖がっている小さい女の子を連れていたこともあるそうだし、今回だって……』

『ああ。危ないかもしれないし、離れようぜ』


 そんな噂話が聞こえて、ユリの頭の中で反響する。

 ぐるぐる、ぐるぐるとその会話がループして、ユリは黙ったままぎゅっとヴェルディーゼの手を握った。

 俯いて唇を噛んで、そうしてユリはそっとヴェルディーゼの手を離して言う。


「なんなんですか、あなたたち。……ううん、あなたたちだけじゃなくて……そんな噂を鵜呑みにする、全員。主様のことを知りもしないくせに、あることないことぺらぺらぺらぺらと。真偽を疑いもせず……馬鹿みたい。神様のくせに」


 吐き捨てるようにユリが言うと、しんとその場が静まり返った。

 そして、次の瞬間にはざわめきが広がり、ユリは不機嫌そうに腕を組んで目の前を睨む。


「私の主様を、あなたたちの価値観で、偏見で、決め付けないでください。主様はそんな人じゃない」


 低い声でユリが言うと、ヴェルディーゼがそっとその肩に触れた。

 そして、眉を寄せながらゆるゆると首を横に振る。


「ユリ……そんなことしたら、ユリまで……」

「これで主様の変な噂が無くなるなら、それは万々歳です。だけど……私にまで、尾鰭のたっぷり付いた妙な噂が広まるのなら……それもまた良し、です。だって、それって主様と同じところに立てるってことでしょう? 全部承知の上ですよ。私の噂ができるかもってことくらい、わかってます」

「……なら、いい、けど」

「絶対いいとは思ってない顔ですよね。……私のことを尊重してくれて、ありがとうございます」


 苦虫を噛み潰したような顔で、それでもヴェルディーゼがならいいと口にすると、ユリがとても嬉しそうに、可愛らしく微笑んだ。

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